2024年・第213通常国会
- 2024年5月16日
- 法務委員会
法的虐待の拡大あり得る 「共同親権」 追及に法相/民法改定法案 反対討論
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
前回に続いて質問をいたします。
法案の大きな問題は、離婚後、父母の合意がないのに裁判所が共同親権を強制し得る点にあり、引き続き懸念の声が広がっています。
そこで、大臣にこの法案についての認識をまず問いたいと思います。
おとといの質疑で、濫訴や不当訴訟、リーガルハラスメントあるいはリーガルアビューズ、法的な虐待とも呼ばれますが、そうした事態が広がる懸念について、それは婚姻中別居のケースでも同じことが起こっている、それが共同親権になることによって悪くなるか、状況は変わらないと答弁されました。しかし、決して同じではないと思うんですね。婚姻中別居のケースで現に深刻なリーガルアビューズがあり、それが婚姻後に、あっ、離婚後に更に拡大し得るので問題だと指摘しています。
大臣、状況は変わらないですか。
○法務大臣(小泉龍司君) 様々な濫訴とか様々な介入ですよね、圧力を掛ける、そういう形で離婚後の共同親権の状態にある家庭の運営について、子供の養育について妨害が入る、そういうケースをおっしゃっているわけですよね。
これは、まず一点目は、婚姻中の別居夫婦においても変わらないわけでありますが、まず申し上げたいのは、その共同親権に入る入口のところで裁判所によって一つの、両者の意思を確認し、意見を聞いて、裁判所が間に入って、本当にこの御夫婦は共同親権をやる意思があるのか、真っすぐに子供の養育のためにやろうと思えるのか、また、客観的に見てそれが可能な状況か、共同行使が可能か、そういう状況をつぶさに見るわけですよね。そこで多くの、多くのその不適切な対応になってしまうその片親は排除されていくという仕組みが大枠としてあるわけです。
自由にその共同親権になるわけではない、一定の要件を満たした場合に裁判所がまあ共同親権ということもあり得ますよねという話をすることになるわけですけれども、多くの場合はその手前で、本当にその意思があるのか、又はそういう妨害をしたというようなその過去はないのか、様々な、DVのおそれもないのか、様々な検討が行われ、そして多くの場合、排除、少なからず排除されるケースもあるわけであります。
その残された、さらに、それで共同親権に至った場合に更になお濫訴のリスクがある、それは否定はしませんけれども、その手前に大きな関門があるということも是非前提に置いてお考えいただければと思うんです。
○山添拓君 リスクはあるということをお認めになりましたが、資料をお配りしています。ちょっと待って共同親権プロジェクトが、今月八日から十日、行った調査です。
二枚目の下の方から三枚目にかけて、別居、離婚経験者の五八%が離婚後アビューズに遭っているという結果でした。精神的なもの、経済的なもの、面会交流のこと、法的なもの、様々あります。離婚後アビューズに遭った五百八十二人のうち、子の面前でも経験したと回答した人が四百三十一人、七割を超えています。そこに、この法案が新たな問題を追加しかねないということが問われています。
熊上参考人は、法案が成立すれば、共同にするか単独にするかどうか、監護者をどちらにするか、監護の分掌をどうするか、日常行為なのかどうか、急迫かどうかなど、常に子供と親が争いに巻き込まれる、それによって親が子を安心して育てることが難しくなるのではないかと懸念を述べました。
民事局長、こうした懸念は看過できないと思いますが、いかがですか。
○法務省 民事局長(竹内努君) お答えいたします。
濫用的な訴えや申立てに対する不安の声があることや、これによってDV被害者の方への支援が滞るようなことがあってはならないと考えております。
何が濫訴に当たるかについて一概にお答えすることはなかなか困難ではございますが、現行法におきましても、不当な目的でみだりに調停の申立てがされた場合に、調停手続をしないことによって事件を終了させる規律など、一定の対応策があるものと承知をしております。
また、本改正案におきましては、父母相互の協力義務を定めておりますところ、不当な目的でされた濫用的な訴え等につきましては、個別具体的な事情によってはこの協力義務に違反するものと評価されることがあり得るところでありまして、このことを適切かつ十分に周知することが、そのような訴え等の防止策になると考えております。
○山添拓君 いや、今協力義務に違反するということをおっしゃいましたが、まさにその協力義務という条項が入ることによって、協力義務に違反するという新たな訴えが起こされる、そういう懸念もあると思うんですね。
大臣がおっしゃるように、確かに婚姻中別居でも多くの問題があります。だからこそ、離婚を選択し、ようやく逃れようとしたにもかかわらず、離婚後も共同親権となれば、言わば無期限の延長戦を強いられる、そうした事態になりかねないわけです。
法案八百十九条六項は、子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができるとしています。今後離婚する父母だけでなく、既に離婚した父母の間でも、親権者の変更により共同親権となることがあり得るという定めです。
最高裁に伺いますが、親権者変更を請求し得る父母というのは、今日およそ何組あると推定されるのでしょうか。例えば、裁判上の離婚で子の親権者の定めがされた件数は年間どのぐらいですか。
○最高裁判所長官代理者(馬渡直史君) まず、親権者変更を請求し得る父母が何組あると推定されるかにつきましては、推定の基礎となるような統計数値を有していないため、お答えすることは困難です。
その上で、例等を出された裁判上の離婚の関係の数値ですが、いずれも現時点における速報値でございますが、令和五年において離婚の調停成立又は調停に代わる審判の件数は二万三千三十五件でありまして、そのうち親権者の定めをすべき事件の件数は一万六千百三件でした。
また、令和五年において離婚訴訟で請求認容判決、和解成立又は請求の認諾により終了した事件の件数は五千六百三十七件ありまして、そのうち子の親権者の定めをすべき事件の件数は三千二百四十二件でございました。
○山添拓君 親権者の定めをすべき件数が一万六千件余りと三千二百件余りですから、合計二万件弱となります。裁判上の離婚は全体の十数%ですので、協議離婚でおおむね同程度の割合だとすると、年間約二十万組の父母間で離婚に伴い子の親権者の定めがされているということになります。
正確な数字ではありませんけれども、年間そのぐらいのボリュームになる。そうしますと、離婚に伴って父母のいずれかが親権者となっている子がいるケースというのは、これ一年間の数字ですから、全体にすると百万単位に上る、こう考えてよろしいでしょうか。
○最高裁判所長官代理者(馬渡直史君) 繰り返しになりますけれども、推定の基礎となるような統計数値を有していないため、正確にお答えすることは困難であると考えております。
○山添拓君 民事局はどうですか。大体そのぐらいの数になっていくだろうということは推定されますよね。
○政府参考人(竹内努君) 失礼いたしました。
最高裁の言われるとおりでして、我々も正確な数字は持ち合わせておりません。
○山添拓君 これは容易に推定し得るものだと思うんですが、つまり、どのぐらいの方に影響が及ぶ法案なのかということを推定されていない。その前提もなく議論がされてきているわけですが、法案が成立すれば多くの父母間で新たに共同親権への変更が請求される可能性が少なくともあります。少なくとも、子が成人するまではその可能性があります。中には、相当以前にDVや虐待が原因で離婚した父母間で加害者側が共同親権を求めるというケースもあるだろうと思います。
法案は、将来のDVや虐待のおそれがある場合には単独親権としなければならないと定めています。法務省はおとといの質疑で、過去のDVや虐待について、そのような事実が主張ないし立証されれば今後のおそれを推認する事実になると民事局から答弁いただきました。
調停であれば主張するだけでもおそれが認められる場合もあると、こういう意味でしょうか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
調停か審判かでそこが大きく違うかというと、それは各事件の事情によるのではないかと思います。
○山添拓君 いや、主張ないし立証されればという御答弁でしたから、必ずしも立証されなくても必要によって認められる、そういうケースがあり得るということかと伺いました。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
手続の全趣旨あるいは審判の全趣旨によって、その主張だけからおそれが認められるというケースもないではないと思います。
○山添拓君 ないではないということでしたが、相手が否定すれば難しいだろうと思うんですね。
協議離婚によって調停や裁判のような記録が残っていない、手元にメモや録音もない、いや、そもそもそうした苦しい過去からなるべく遠ざかりたいと思って記録は捨て去っているという方もいらっしゃると思うんです。
最高裁にも伺いたいと思うんですが、過去のDVや虐待の証拠となるのは被害者である本人の言葉だけ、そして相手は否定する、したがって被害の事実は認定できないということで共同親権を認めていくというケースはあり得るんではありませんか。
○最高裁判所長官代理者(馬渡直史君) まず前提として、改正法が施行された後の運用について具体的に申し上げることは困難ですし、また、個々の事件におけるDV等の認定については個別具体の事情を踏まえて個々の裁判体により判断されるものであって、事務当局としてお答えすることは困難ですけれども、その上で一般論として申し上げれば、DVや虐待の有無に争いがある場合には、その事案に応じた様々な証拠等、様々な証拠等から判断されるものと承知しておりまして、例えば、それのみで容易にDVや虐待の事実が認定できるような確たる証拠がない場合でございましても、供述証拠やそれを補強する証拠を含め、証拠及び認定される事実関係を総合して検討、判断されているものと承知しております。
○山添拓君 総合してとおっしゃるんですけれども、そのような証拠そのものが残っていなくて被害を訴える側の供述のみだと、そしてそれを相手は否定をしてくる、そのときに果たして裁判所は、いや、この事件では、このケースではDVや虐待のおそれありとまで果たして判断してくれるのか。そうとは限らないと思うんですよ。だから、合意もないのに父母に共同親権を強要し得る仕組みはやめるべきだと私は考えます。
山崎参考人が意見陳述の最後に被害当事者からのメールを読み上げました。既に離婚している父母も申請すれば共同親権にできるとの一文を見ました、きっと私の元夫は申請してくるでしょう、政治家はようやく立ち直りかけた私たちにまた闘えと言うのですね、平穏を手に入れたと思っていたたくさんの被害者たちをまた崖から突き落とすのですね、私のように身体的暴力の証拠は残っていなく既に何年も経過している者はどうすれば被害者だと認めてくれるんですかね、非常に落胆しています。
同じような思いでいる被害者は決して少なくないと思うんです。大臣はこの声にどうお答えになりますか。
○国務大臣(小泉龍司君) その被害に遭われた方が真剣に、身に起こったことを、過去のことをお話をされれば、これは裁判所に通じると思うんですよね。うそをつく必要がないわけでありまして、DVに遭ったということを主張することが何か利得に結び付くわけじゃ全くないわけですから、真実をそのまま語れば、裁判所ではそれを受け止める、私はそう思います。また、そうでなければいけない、そのように思います。
○山添拓君 それは、この当事者からの声に全然向き合っておられないと思いますよ。だって、裁判では、当事者は双方いるわけですから、片方の声だけに耳を傾け、全てを決めるということにはならないと思うんですね。それを否定する加害者側が、DVや虐待の場合の加害者の側の声についても聞くことになりますよね。そうして、結果としては、ああ、DVや虐待の記録は残っていませんね、今は反省している、もうやっていませんね、共同親権で今後もDVや虐待のおそれはないでしょう、そういう結論になりかねない。いや、既に現在の家裁実務の中でも、不安を感じ、被害を恐れている多くの方がいるわけです。
親権者変更の請求が言わば遡及的に離婚後共同親権をもたらし得ることの懸念は大きいです。当事者間では決着済みの問題が蒸し返されてしまうからです。
大臣は、被害者の思い、不安、傷をよく理解しているとおっしゃいます。そういう姿勢でおられるのだと思いますが、しかし、法案にはその理解は感じることができません。協力関係がなく、話合いができないような父母が共同親権となることで、子の利益に反する事態が起こらないと言えるのか。
とりわけ深刻なのは、医療行為との関係だと思います。当委員会で仁比委員も質問してきましたが、厚労省に改めて聞きます。医療行為における親権者の同意というのはいかなる位置付けのものですか。
○政府参考人(宮本直樹君) お答えいたします。
医療行為における親権者の同意でございますけれども、個々の医療行為の同意については、医療法は医療を受ける本人以外の第三者の決定、同意についてはルールを設けておりませんけれども、判断能力が乏しい未成年者については親権者が意思決定するなど、民法の一般的な考え方に基づいて、患者の個別の病状や判断能力に応じて医療現場で適切な医療が提供されているものと承知しております。
○山添拓君 適切な医療は適切な説明が前提、ですからその意味で、親権者が同意を与えることによって医療行為が行えるようになる、そういう現場の実態だということですね。
○厚生労働省 大臣官房審議官(宮本直樹君) おっしゃるとおりでございます。
○山添拓君 そうあるべきだと思います。
しかし、その下でどんな事態が現に起きているか。大津地裁で二〇二二年十一月十六日、娘の手術に当たって父親に説明や同意を求めなかったのは違法だとして、病院に対して慰謝料の支払を命じる判決がありました。
当時三歳だった娘が、肺の動脈弁をバルーンで拡張する手術を受けました。このバルーン手術は三歳程度までが適用で、その年齢に達しつつありました。当時、父母は婚姻中別居の状態で、父親は家庭裁判所から面会を禁止されていました。
判決は、親権は共同で行使するのが原則であり、子の治療の同意も両親で行うべきだと。例外的に一方の親権者の同意でもよしと言えるのは、親権者の意向に対立があって、説明したとしても同意されないことが明白な状況があること、また、治療の緊急性があり、説明や同意など手続を踏んでいては機会を逸し、未成年者の福祉を害することが明らかな、そうした場合だといって、この本件の場合には、父親は同意しないとは明言していないんだと、あるいは治療の機会を逸するほど緊急ではなかったなどと評価しています。
これは、婚姻中別居の共同親権での裁判例です。離婚後共同親権でも起こり得る問題です。大臣は、この裁判、どうお感じでしょうか。
○国務大臣(小泉龍司君) ちょっと今初めて伺ったので、その詳細は存じ上げておりませんが、離婚後、今それ婚姻中の御夫婦の話ですけど、離婚後共同親権を持ち共同親権を共同行使するというところに至った、実質的な話合いの下でそういう結論に至ったその両親というのは、やはりそれは裁判所が認定することですけれども、子供の利益を優先的に考えてくれる御両親ですということが確認されて初めて共同親権が付与されるわけですよ。
ですから、そこに至って、じゃ、急に態度が変わって裏切り行為をするかって、その可能性はゼロではもちろんないですけれども、多くの場合、ほとんどの場合、裁判所の話合いの中でその本当の姿勢、子供、子育てに対する、共同養育に対する、共同親権に対する本当のその人の真摯な姿というものは裁判所も見極めて判断するはずでありますし、そうあるべきだと思うんですね。
○山添拓君 判決については通告をしておりますが、大臣の方で必ずしも把握されていないということであれば、これは病院が相手になった裁判です、厚労省は把握しておられますか。
○政府参考人(宮本直樹君) お答えいたします。
御指摘の裁判例は、子の治療に当たる担当医が別居の親権者に対し、子の今後の治療について父母双方から同意を取る予定であると説明していたにもかかわらず、その一方のみの同意を得て手術を行った事案であると承知しております。
この裁判例は、父母双方から同意を取る予定であると説明をしていたということや、手術の緊急性があるとまでは言えなかったという具体的な事情を踏まえて医療機関の責任を認めたものであって、一般化できるものではないというふうに認識しております。
○山添拓君 一般化できるものではないとおっしゃいますけれども、現にこのような判決が出ているわけです。病院の側は困ると思うんですよ。当事者から、母親から子の父親は面会禁止になっていると、裁判所がそう決めているという書面も持ってきていたんですね。ですから、今同居している母親の側の同意によって手術をして構わないだろうと、病院はそう判断したわけです。問題は、医療機関が萎縮しないかということにあると思います。
資料の二を御覧ください。
昨年九月、日本産科婦人科学会、日本小児科学会など四学会が連名で大臣への要望を発表しています。共同親権を導入する趣旨や理念については理解するとしつつ、父母の離婚後も両方の親権者の同意を必要とすることになれば、生命、身体の保護に必要な医療を実施することが不可能あるいは遅延することを懸念するとしています。
資料の三も御覧ください。
全日本民医連の今年三月の声明です。不仲で同席できない両親に説明し、同意を得ることは、臨床現場に二重の負担を掛けることになり、適時適切な医療の実現の妨げになるし、両親の意見が食い違った場合の扱いも困難な立場に医療機関が置かれる、訴訟リスクが格段に上がり、訴訟を避けるために医療行為を控えざるを得なくなり、子供が適切なタイミングで治療を受ける機会を逃すことが増加することを憂慮するとするものです。
厚労省に伺いますが、医療機関に負担を負わせ、子の治療を受ける機会を損なう事態があってはならないと考えますが、いかがですか。
○政府参考人(宮本直樹君) 先生御指摘のとおりに、こういう共同親権によって医療現場に負担を負わせることになってはいけないというふうに考えております。医療現場で引き続き適切な医療が提供が出されるよう、この改正法案が成立した場合には御指摘のような懸念が生じないように、制度の周知をきちっと図っていくことが非常に重要であるというふうに認識しております。
厚生労働省においては、医療機関の状況をよく注意し、法務省とよく相談しながら、共同親権の場合の共同同意の在り方等について、ガイドラインの必要性などについても検討してまいりたいというふうに考えております。
○山添拓君 周知を図っても現場では実際に困る事態が起こり得ると思うんですね。この大津の裁判の事件も、手術については父親の方が自らの同意も必要だと、こう後から裁判を起こしてきたわけですが、一方で、カルテの開示請求については、同居していない一人の親権者である父親の、一人の請求によっても開示できるはずだと、こう言って求めてきたと。
ですから、医療機関としては、親権者がどちらも親権者だと言って、治療の同意をしてきたり、あるいは開示請求をしてきたり、そのときに一緒にやることもあれば一人一人でやることもある、そういう事態に置かれて、対応によっては後から訴訟リスクを負うことになると。これは困る事態は起こり得ると思いますよ。いや、現に起こっているわけですよ。
大臣、この現場の声をどう受け止められますか。
○国務大臣(小泉龍司君) これ様々な、本当に様々なケースが現場では起こり得ると、それはそのとおりです。
我々ができる最大の、最大限努力したいと思っているのは、やはりガイドラインを作ることです。医療関係者との意思疎通も踏まえた上できちっとしたガイドラインを作り、それを医療機関にも理解をしてもらう、そういう方向で最大限の努力をしていきたいと思います。
○山添拓君 私は、ガイドラインでは医療機関が安心して対応するということはなかなか難しいと思うんですよ。ガイドラインは、ないよりは参考になるかもしれません。しかし、それが裁判官を拘束するわけではありません。訴訟リスクを負うのはそれぞれの機関ですから、医療機関などですね。
法案の八百二十四条の二、一項は急迫の事情があるとき、二項は日常の行為に係る親権の行使について、父母それぞれ単独で親権を行使できると定めています。木村参考人からは、この条文の下では、学校のプールや修学旅行、ワクチン接種や手術の予約などの決定をいつでももう一方の父母がキャンセルでき、いつまでも最終決定できない状態が生まれるという指摘がありました。言わばその無限ループですね。
民事局はこれはどうお考えですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
お尋ねのようなケースは婚姻中の父母について現行法の下でも生じ得るところでありますが、各父母による親権行使の当否は、個別の事案における具体的な事情に即して判断すべきものであると考えます。
その上で、一般論としてお答えをいたしますと、父母の一方が親権行使をした後に他の一方が事後的にこれと矛盾する行為をすることにつきましては、本改正案において新設している父母相互の協力義務の規定の趣旨や、親権は子の利益のために行使しなければならないこと、父母が子の人格を尊重しなければならないことなどを踏まえて判断されるべきであると考えております。
○山添拓君 いや、こうした事態が婚姻中も起こり得るという説明はもうやめられるべきだと思いますよ。婚姻中に確かに起こっているその問題をどう解決するかが政治の側にも司法の側にも問われると思うんですが、婚姻中にも起こっている、だから今度共同親権で離婚後にも新たな問題が生じてもそれは同じことですと、そういう説明はもうされないべきだと思うんですけれども。
民事局長、その認識は、この法案を提出しておきながら、提出して、その意図がですね、その趣旨が、いや、婚姻中でも起こっているんだから離婚後も同じように起きてもしようがないよと、それは、今多くの不安の声を上げている人たちに対して、まさに崖から突き落とすような、そういう言葉だと思います。大臣も局長も、いかがですか。
○国務大臣(小泉龍司君) 現在婚姻中の状況においても生じているということは、それは事実なんですが、それでは済まない、それはそのとおりでありまして、この法案を作り、成立させていただくことを一つの大きな契機としてこの問題に我々は深く入って、解決策を見出すべく努力をして、引き続き努力をしていきたいと思います。
○山添拓君 いや、先ほどもリスクはあるということをお認めになったわけですが、共同親権を導入し、この法案の定めるような仕組みを導入することによって新たな懸念が生まれるではないかと、そういう懸念に、批判の声にどう応えるかということが問われていると思うんですよ。
浜田参考人は、日常の養育に関する決定については監護親が行い、非監護親は監護親の権限行使を不当に妨げてはならないものとすべきだと、こういう認識を示されました。親権者の権限行使の無限ループ、どちらかが認め、どちらかが取り消し、その無限ループを避けようと思えば合理的な考え方だと思います。
民事局長、いかがですか。
○政府参考人(竹内努君) お答えいたします。
先ほど本改正案の趣旨について御説明を申し上げたところでございまして、父母の一方が親権行使をした後に他の一方が事後的にこれと矛盾する行為をすることにつきまして、本改正案の中で対応策を取っているところでございます。
例えば、父母の一方がある事項に関する親権を行使した後に他の一方がこれと矛盾するような新たな親権行使をすることの可否につきましては、それによる子が被る不利益の内容及び程度や、当該親権行使の目的などの諸般の事情に照らして、当該他の一方による親権行使が権利の濫用として許されない場合があり得ると考えております。
法務省といたしましては、こうした点を含めまして、本改正案の趣旨や内容について、国会における法案審議の中で明らかになった解釈を含めて、関係府省庁等連絡会議を立ち上げることを予定しておりますので、その中でしっかり議論してまいりたいと考えております。
○山添拓君 権利の濫用と判断されることがあり得ると答弁がありました。確かにそのとおりだろうと思います。
しかし、それはいつ判断されますか。裁判に訴え出て、権利の濫用だといって、不法行為だといって、一審、二審、いつ権利の濫用を、だから同居親の判断が正しいんだと、それを妨害することは許されないんだと、いつ判断してくれますか。
○政府参考人(竹内努君) その双方の親権行使の内容が矛盾するような場合に、親権者変更等の申立てができると思いますが、その際の審判の中身として権利濫用が判断されることになるのではないかと考えます。
○山添拓君 結局、それはいつになるか分からないですよ。数年掛かるかもしれない。そのときに、子の学校だ、病院や、いろんな生活に関わる問題についての最終決定が遅れた、その遅れは取り戻すことはできないことになりかねません。
私、法務省がどれだけガイドラインなどで意義や類型を示しても、繰り返しますが、裁判所を拘束するわけではないという懸念は消えないと思うんです。そして、リーガルハラスメント、リーガルアビューズの懸念が現に具体的なものである以上は、病院や学校などが訴訟リスクを恐れて子供についての最終決定が定まらない、そういう事態はなかなか避け難いものだと思います。
この法案について、今日、もう時間がなくなってしまいますけれども、親の資力などが要件となっている支援策、同意等が要件となっている手続のリスト、今朝の理事会で改めて出されました。おととい十六項目だったのが今朝までに三十二項目に倍増しました。それでも全てというわけではないと、今後、各省庁と調整していくという御説明を受けています。やはり、子の実際の利益についての影響についての、その事前の把握、調査、調整、それも十分でないまま審議を進めてきた、これも重大な問題だと思います。
採決は前提を欠くということを指摘し、質問を終わります。
―――
○山添拓君 日本共産党を代表し、民法等一部改定案に反対の討論を行います。
本法案の最大の問題は、離婚する父母が合意をしていなくても、裁判所が離婚後共同親権を定め得る点にあります。夫婦関係が破綻しても、父母間に子の養育だけは協力、共同して責任を果たそうとする関係性の下、親権の共同行使が真摯に合意され、それが子の利益にかなうケースはあるでしょう。しかし、父母間に真摯な合意がないのに親権の共同行使を求めれば、別居親による干渉や支配を復活、継続する手段となり、結果、子の権利や福祉が損なわれてしまう危険が否定できません。
法務大臣は、合意を促していくための仕組みとし、どうしても合意ができない場合には単独でいくと答弁しました。それは条文上明記すべきです。
また、単独での親権行使ができる事由が不明確な点も問題です。子の利益のため急迫の事情があるときや監護及び教育に関する日常の行為という文言が実際にはどこまで単独で決定できるのか不明確であり、後に親権行使の適用性が争われるなどの心配から適時適切な意思決定ができず、かえって子の利益を害するおそれがあります。
婚姻中、DVや虐待があったことを理由に子を連れて別居するケースが子の利益のため急迫の事情があるときに該当するのかどうか、DV、虐待等、被害者支援の観点から非常に重要ですが、明瞭とは言えません。少なくとも、離婚後に父母双方を親権者とする場合、監護者に父母の一方を定めることを義務付けることでこうした懸念を低減すべきです。
以上述べた点に加えて、衆議院で我が党は三点の修正を求めました。
まず、親権の見直し規定の追加です、に関する検討の追加です。親権は、子供が安心、安全に暮らすための親の責務であり、社会による子供の権利と福祉の保障であるべきです。子供を主体とした親権の再定義が必要です。
次に、親権者の決定時や監護、面会交流などあらゆる場面で子供の意思又は心情が尊重されることを明記すべきという点です。
さらに、裁判官、調査官の大幅増員など家庭裁判所の体制強化と、DV、虐待のケースで児童精神科医など専門家による子供の意思の確認を義務付ける仕組みを明記することなど求めました。
親の資力などが要件となっている支援策や親の同意などが要件となっている手続は、法務省が今日までに把握しただけで三十二項目に上ります。本来、法案審議以前に確認しておくべきものです。審議すればするほど批判が広がる本法案は、採決の前提を欠くと言うべきです。
DVや虐待をめぐる数々の懸念について、訴えれば裁判所に通じると思うと大臣は答えました。しかし、その根拠が伺えません。
自らと子供の生活と命が懸かっている、だから諦めるわけにはいかないという当事者の訴えがあります。そうした声を置き去りに、親子関係と家族の在り方に関する戦後民法の根本に関わる改定を国民的合意なく押し切ることには断固反対であることを表明して、討論とします。