2024年・第213通常国会
- 2024年5月23日
- 外交防衛委員会
石炭火力延命やめ 気候危機を人権問題と捉え打開を CCS事業にこだわる政府を批判/ロンドン条約議定書改正の受諾承認案に対する反対討論
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
国際復興開発銀行協定の改正、欧州復興開発銀行設立協定の改正については必要な措置であり、承認に賛成です。
ロンドン条約一九九六年議定書二〇〇九年改正に関わって、まず外務大臣に伺います。
WMO、世界気象機関が三月に発表した世界気象の現状二〇二三は、昨年は観測史上最も温暖な年となり、世界の平均気温が産業革命前から一・四五度上昇したとしています。一・五度以下に抑えるというパリ協定の限界に近づきつつあります。熱波、洪水、干ばつ、山火事など、異常気象や気候変動が多くの人の日常生活を狂わせ、経済的損失をもたらしていると指摘し、国連グテーレス事務総長は地球が危機的状況にあると警告しています。
気候危機対策の切迫性について、まず大臣の認識を伺います。
○外務大臣(上川陽子君) 世界気象機関、WMOが本年三月に公表いたしました世界気候の現状二〇二三におきましては、二〇二三年が観測史上最も温暖な年であったことが記されております。
気候変動は、気候危機とも呼ぶべき人類共通の待ったなしの課題であります。世界の気温上昇を一・五度に抑えるためには、先進国のみならず、主要排出国を含む全ての国が一致団結して取り組むことが必要であると認識をしております。
特に、二〇三〇年までの行動が決定的に重要であると認識をしております。我が国は、二〇一三年度比で二〇三〇年度に排出を四六%減、さらに五〇%の高みに向け挑戦する目標に向け、着実に行動しているところであります。
G7、G20、COPなどの場におきまして、引き続き各国に対しましても行動を呼びかけていく方針でございます。
○山添拓君 切迫性については共有されることだと思いますが、一方、四月三十日、G7の気候・エネルギー・環境相会合で、石炭火力発電を二〇三五年までに段階的に廃止すると合意し、共同声明を発表しています。
G7が石炭火力発電の廃止時期に言及したのは初めてのことです。ところが、よく読みますと、二〇三〇年代前半、又は各国の温室効果ガス排出実質ゼロに向けた目標に沿う形で段階的に廃止するとあります。ですから、必ずしも二〇三五年までではないようです。
経産省に伺います。日本はいつまでに石炭火力発電を廃止するのでしょうか。
○経済産業省 資源エネルギー庁電力・ガス事業部長(久米孝君) お答え申し上げます。
今回のG7気候・エネルギー・環境大臣会合では、各国のネットゼロの道筋に沿って、二〇三〇年代前半、又は気温上昇を一・五度に抑えることを射程に入れ続けることと整合的なタイムラインで、排出削減対策の講じられていない既存石炭火力を段階的に廃止することに合意してございます。
エネルギーをめぐる状況は各国千差万別であります。道筋が多様であるということを認めながらネットゼロという共通のゴールを目指すことが重要でございまして、それはG7における各国共通の理解となっております。
その上で、日本といたしましては、石炭火力の廃止期限を設けることは考えておりませんが、エネルギー基本計画に基づいて、安定供給の確保を大前提にその発電比率をできる限り引き下げていく方針としております。
具体的には、まず、二〇三〇年に向けて、非効率な石炭火力のフェードアウトを着実に進めてまいります。さらに、二〇五〇年のカーボンニュートラル実現に向けて、水素、アンモニアやCCUS等を活用することで、一・五度目標と整合的な形で脱炭素型の火力に置き換える取組を引き続き推進してまいります。
○山添拓君 結局、日本としては石炭火力発電の廃止目標期限は今後も設けていかないということですか。
○政府参考人(久米孝君) 日本として石炭火力の廃止期限を設けることは考えてございません。
○山添拓君 それは、やはり求められる在り方とは懸け離れていると思うんですね。
このぼかした目標、二〇三五年ではなく、ぼかした目標というのは、石炭火力に依存する日本とドイツへの配慮だとされます。ただし、ドイツは二〇三八年廃止を掲げております。期限がないのはG7で日本だけであり、かつ石炭火力が三割に上ります。これ、廃止時期を明確にすべきだと考えます。
加えて、G7が廃止時期を表明したのは、排出削減対策をしていない石炭火力発電とされます。これも経産省に伺いますが、排出削減対策をしていないとはどういう意味ですか。
○政府参考人(久米孝君) お答え申し上げます。
このG7の文書あるいはCOP28等の合意文書におきまして、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電の定義につきまして、国際的に明確に定まったものはないというふうに承知しております。
○山添拓君 ないということなんですよね。
しかし、IPCC、気候変動に関する政府間パネルは、この対策が取られていないの意味について、CO2を分離、回収し、地中などに貯留するCCS技術などによりCO2を九〇%回収する対策が取られていること、そう定義をしています。ところが、G7ではそういう定義はしなかったと。
自然エネルギー財団の報告によれば、現在、世界でただ一つ稼働しているCCS火力発電はカナダのバウンダリーダム発電所だといいます。二〇二一年の発表で、稼働開始以来六年間に合計四百万トンのCO2を回収したと発表していますが、これは本来目標としていた九〇%回収には遠く、さらに、二〇二一年以降の実績を含めると、七年間で六割程度しか回収できていないと推測されています。事実でしょうか。
○経済産業省 資源エネルギー庁資源・燃料部長(定光裕樹君) カナダのバウンダリーダムのケースについては、技術の実証を目的として、これ世界で初めてCCS実証が行われた石炭火力の発電プロジェクトだったんですけれども、その実証という一環でCO2の回収をやっておりました関係で当初は回収率が想定ほど高くはなかったと。ただし、で、その事実は承知しておりますと。ただし、その後、課題を解決しまして、同社の想定を上回る八五%程度の高い稼働率を実現しているというふうにも承知してございます。
○山添拓君 二〇二一年は二七・五%しか回収していないそうですね。これ、事業者はトラブルを理由としているようですが、つまり、それぐらい未確立の技術であるということを示していると思います。ですから、CO2の回収がおぼつかないということであれば、これ、そもそも有効性に疑問があるということになります。
本協定は回収したCO2の輸送を可能とする改定で、先ほど、その大量輸送のための技術はまだ確立されていない。コストの話もありましたけれども、輸送するということは、それによってまたCO2も排出することになるんじゃないですか。
○政府参考人(定光裕樹君) これ、CCSの輸送におきましても、仮にそこでCO2が漏れた場合は……(発言する者あり)あっ、はい。輸送、これは輸送をどういう燃料で行うかによりますけれども、化石燃料を用いる限りにおいてはCO2の排出は生じるものと考えております。
○山添拓君 分離、回収にも大量のエネルギーと水を消費することになります。
CCSというのは、地中への注入により地震を誘発する危険性、先ほどもあった漏出のリスク、またコストの高さ、そしてモニタリング等、万一事故が起きた場合の賠償責任など、問題点が多々指摘されます。脱炭素の切り札とは言い難い現状にあるかと思います。
大臣に伺います。
それでもCCSにこだわるのは、結局、石炭火力発電の延命を図るためであろうと言わざるを得ません。しかし、それは、日本国内で脱炭素を遅らせることになり、また、これから進出をしていく計画かと思いますが、東南アジア地域に同様にCCSを押し付ければ、こうした国々の脱炭素化も阻害することになりかねません。その認識をお持ちでしょうか。
○国務大臣(上川陽子君) 二〇五〇年のカーボンニュートラルの実現に向けまして、CCS事業は、二酸化炭素の大気中への放出を抑制する有効策の一つとして国際社会におきまして広く認識をされているところであります。ロンドン議定書改正の受諾を通じまして、国をまたいだCCS事業を実施するということが可能となるものであります。
先般開催されましたG7気候・エネルギー・環境大臣会合におきましては、各国のネットゼロの道筋に沿って、二〇三〇年代前半又は気温上昇を一・五度Cに抑えることを射程に入れ続けること、そして整合的なタイムラインで、排出削減対策が講じられていない既存の石炭火力発電を段階的に廃止することなどが表明されました。
我が国といたしましては、こうした内容に沿って、安定供給を前提に石炭火力からの排出削減に着実に取り組む所存でございます。
○山添拓君 有効な手段かもしれない、そのような技術かもしれない。そのような技術開発が速やかに進み、実証もされて十分安全に使い得るということならば、今進んでいくということにも合理性があるかもしれません。しかし、気候変動対策に残された時間は短いわけですね。最初に大臣がその切迫性について認識を示されたとおりです。にもかかわらず、将来成功するかもしれないその技術に託していくというのは、私は余りに悠長な姿勢だと思います。最も有効な解決手段というのは、化石燃料からの脱却です。それは再エネですね。省エネによってそもそもエネルギーの必要量を減らしていくということが前提ですが、私は、おぼつかない新技術への投資というのは再エネに振り向けるべきだというふうに考えます。
資料の二枚目を御覧ください。
四月九日、ストラスブールにある欧州人権裁判所は、スイス政府の気候変動対策が不十分だとするスイス市民の訴えについて、これを人権侵害と認めて訴えを支持する判決を下しました。原告は約二千五百人が加盟する気候保護のためのシニア女性の会です。スイス政府が欧州人権条約上の義務を怠って、熱波などで健康や生活に影響が出ているとして訴えたものでした。裁判所は、欧州人権条約八条の私生活及び家族生活が尊重される権利の侵害を認めて、スイス政府に対して具体的な対策を検討するよう求めました。これは法的拘束力のある判断です。気候危機への対策を人権問題とした国際裁判所の判決は初めてです。大臣の認識を伺いたいと思います。
○国務大臣(上川陽子君) 御指摘のとおり、欧州人権裁判所は、スイスが同政府に課せられた気候変動に関する必要な規制や対策を講じる義務を履行していなかったと評価をし、欧州人権条約の関連規定に違反したと判断したと承知をしております。
我が国として同判決につきまして評価する立場にはございませんが、昨今、気候変動の影響が一層深刻化する中にありまして、その対処に当たって、いずれの国においても普遍的価値であります基本的人権が尊重されるべきであると考えているところでございます。
○山添拓君 尊重されるべきだと。この気候の問題と人権の問題とを一体のものとして論じていくということは大事な視点だと思います。
資料の三枚目を御覧ください。
二〇二一年十月、国連人権理事会で、安全性上、健康的で持続可能な環境に対する人権に関する決議が採択されました。四十三か国が賛成しましたが、四か国が棄権しています。その四か国は、中国、インド、ロシア、そして日本です。
資料の四枚目を御覧ください。
翌二〇二二年七月、国連総会は、清潔で健康的かつ持続可能な環境を普遍的な人権とする決議を採択しました。国連総会で環境への権利を人権として認めたのはこのときが初めてです。各国の政府、国際機関、企業などに対し、全ての人にこの権利を確保するための取組を拡大するために国際協力の強化などを呼びかけています。そして、二〇二一年には棄権をしていた日本政府ですが、この二二年の国連総会では賛成をするに至りました。
外務省に伺いますが、人権理事会では棄権したことを反省されて、そして総会では環境への権利は人権だと、そういう認識に至って賛成されたと、こういうことでしょうか。
○外務省 大臣官房サイバーセキュリティ・情報化参事官(松尾裕敬君) お答え申し上げます。
国連人権理事会における決議につきましては、その決議におけますクリーンで健康的で持続可能な環境に対する人権、その概念の意味するところが明確ではないため、我が国は棄権をいたしました。
そして、先ほど御指摘のあった国連総会におけるクリーンで健康的で持続可能な環境に対する人権決議、二〇二二年でございますけれども、これにつきましては、我が国は、昨今、気候変動の影響が一層深刻化する中、同決議が目指す持続可能な環境づくりの必要性に鑑み、本決議全体の趣旨を踏まえて賛成票を投じたというものでございます。その賛成票を投じるに当たりましては、クリーンで健康的で持続可能な環境に対する権利の概念は、その意味するところが必ずしも明確でないと考えているということを採択時に議場において発言しております。
○山添拓君 最後の話は余計な話だと思うんですけど、そうすると、その明確じゃないことを指摘し、明確じゃないものに賛成したということになるんですか。
今でも、この決議が挙げているこのクリーンで健康で持続可能な環境に対する権利というのは明確じゃないものだ、尊重しなくていいものだと、だけど何となく賛成しましたと、そうではないかと思うんですけれども、これ大臣、いかがですか。
○政府参考人(松尾裕敬君) 繰り返しとなりまして恐縮でございますけれども、国連総会決議につきましては、気候変動の影響が一層深刻化する中、その決議が目指す持続可能な環境づくりの必要性に鑑み、決議全体の趣旨を踏まえて賛成票を投じたものでございます。
○山添拓君 大臣にも最後にもう一度伺いたいと思うんですけれども、この決議の内容に示されている権利の範囲というのは確かに広範にわたるかと思います。しかし、そうした環境に対する権利を人権の問題として捉えていくということは非常に大事な視点だと思うんです。
その立場で世界の国際環境に対しても外務省としても向き合っていただきたいと思っていますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(上川陽子君) 気候変動問題に関しましては、その深刻性については、中長期にわたりましてしっかりと検討をし、またそのための政策を打ち出していく必要性、先ほど申し上げた、一連の御質問で申し上げたとおりでございます。
そうした中におきまして、どのような形で物事を考えていくのか、基本的ないろいろ問いが、問いかけがこの間行われ、また様々な決議等も行われてきたところであります。そうした大きな趣旨に照らしながら、日本としてもこの問題について向き合ってまいりたいと考えております。
○山添拓君 この決議は、環境被害は世界中の全ての個人やコミュニティーに関わる課題である一方、先住民、高齢者、障害者、女性、少女などがとりわけ脆弱な立場にあると述べて、人々が正確で適切な情報を得る権利、政府の環境に関する意思決定に実効的に参加する権利、実効性のある救済措置を受ける権利などを示しています。日本の現状はこの水準には及ばないと思います。
気候危機を人権問題と捉えるべきです。そして、石炭火力発電の延命という逆行をやめて、省エネと再エネで気候危機打開を図るべきだということを申し上げて、質問を終わります。