2024年・第213通常国会
- 2024年5月29日
- 憲法審査会
災害口実の改憲は空論 憲法審査会で主張
○山添拓君 日本共産党を代表し、参議院の緊急集会と災害対応について意見を述べます。
首都直下地震を想定した政府の業務継続計画は、一週間にわたり停電、断水し、外部から食料等の補給が行われない状況下で非常時優先業務を実施できる体制を目指すというもので、これに基づき各省庁が業務継続計画を作成することとされます。参議院事務局が策定した業務継続計画もこれに沿うものとされ、発災後一週間以内に本会議や委員会等の開会業務が行われることを目標としています。
これらの実効性は評価と見直しを適宜行うことが求められますが、少なくとも首都直下地震との関係では政府も国会もあくまで業務の継続が目指されています。仮に衆院議員が不在の場合には参議院の緊急集会で対応し、選挙に必要な業務も継続した上で、なるべく速やかに総選挙を実施できるよう追求するべきです。
東日本大震災の発災後、被災地の復旧復興や被災者の生活再建等のために、多くの立法、予算の措置がとられました。同時に、復旧事業や災害廃棄物処理の権限代行、相続放棄等の熟慮期間延長、災害義援金の差押禁止など、一般制度化された例も複数あり、今後の災害で当時と全く同じように応急の立法措置が必要となるわけではありません。一般制度化に至っていない制度も重要な先例として蓄積されています。
また、福島第一原発事故という未曽有の事態への対応が必要となり、損害賠償のための仕組み等をつくることも必要となりました。原発事故は起こらないという安全神話の下、原子力事業者においても必要とされていた防災計画の策定を怠り、防災訓練等事前の準備がなかったことも被害を深刻にしました。原発事故の教訓を踏まえ、二度と繰り返さないためには、原発ゼロこそが最大の対策というべきです。
今議論すべきは、岸田政権の下で苦しんでいる被災者が多数に上っている現実です。
能登半島地震の被災地で瓦れき処理や被災家屋の公費解体が進んでいません。上下水道が復旧しても、下水道や宅地内配管の損傷で実際には水が使えないところが多数残ります。国会内外で繰り返し指摘されながらも事態が十分改善されないのは、国会機能が維持されているかどうかではなく、政府の姿勢の問題と言うほかありません。
この間、衆参の憲法審査会では、緊急時の国会機能維持が必要という観点から、参議院の緊急集会で対応できない場合に備えて衆院議員の任期延長が必要といい、衆議院では条文起草委員会の設置まで主張されています。
看過できないのは、昨日、衆議院総務委員会で地方自治法改定案が与党などの賛成多数で可決されたことです。大規模な災害、感染症の蔓延その他国民の安全に重大な影響を及ぼす事態に、国が特例として自治体に対して必要な指示を行う補充的指示権を定めるとするものです。
政府は国会で、特定の事態を排除するものではないとした上で、個別法で想定されていない事態に対処するものだと述べています。
災害対策基本法、感染症法、事態対処法等、個別法が想定していない事態だと政府が判断しさえすれば、個別の法律に規定がなくても国が自治体に指示できることになります。これは、憲法が保障する地方自治を踏みにじるものであると同時に、国会が認めていない国の指示権を時の政府が独断で行使し得るという点で、立法府である国会をも否定するものです。
緊急時における国会機能の維持が必要と主張する会派が国会の役割を否定する地方自治法改定を押し通そうとするのは矛盾と言うほかありません。緊急時を理由に、任期延長という民主的正統性を欠く議員を通じた国家権力の行使を可能とするのは、民主政治の徹底とは言い難く、危険な構想です。
二〇一五年九月、日弁連が東日本大震災の被災三県、三十七市町村に実施したアンケートには二十四市町村が回答しました。災害対策や災害対応は市町村主導とすべきとの回答が十九自治体、七九%、国主導と答えたのは一自治体だけでした。また、憲法が障害になったかとの質問には、障害にならないが二十三自治体、障害になったはやはり一自治体にすぎなかったことも改めて留意すべきです。
住民と直接接し、被災地域の実情にも通じている地方自治体の人的、財政的体制の強化こそ政治に求められます。災害を口実になされる緊急時対応の改憲論は、被災の実情と被災自治体の経験や要望を踏まえない空論であることを指摘し、意見とします。