山添 拓 参議院議員 日本共産党

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2024年5月17日

離婚後共同親権 本会議反対討論に立ちました

参議院本会議で離婚後共同親権を導入する民法改定案が採決を強行されました。

反対討論は日本共産党だけでしたので、私が最初に登壇。この法案は法務委員会で仁比そうへい議員が担当してきたのですが、仁比さんのお連れ合いが亡くなり、今週は急遽私が代打で入りました。その限界をひしひしと感じつつ、法案に懸念の声を上げる多くの方々のことを思い浮かべながら訴えました。たたかいはここから。

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 日本共産党を代表し、民法等一部改定案に反対の討論を行います。

「子どもの気持ちを伝える場所がない状態でこの話が進んでいる。子どものためにつくると専門家は言うが、スタート地点が違うような気がする」――今週月曜日のテレビ番組でMCが発したコメントは、本法案の本質を突いています。

 DVや虐待から逃れ、安心、安全な生活を取り戻そうと必死で生きる人々、行政や司法、医療や教育、福祉の現場から、悲鳴のような怒りの声が上がっています。国会はその声を、封じてしまってはならないのではありませんか。

 本法案の最大の問題は、離婚する父母が合意していなくても、裁判所が離婚後の共同親権を定めうる点にあります。

 夫婦関係が破たんしても、父母の間で子の養育だけは協力して責任を果たそうという関係性があり、親権の共同行使が真摯に合意され、それが子の利益にかなうケースはあり得るでしょう。しかし、真摯な合意がないのに親権の共同行使を強いれば、別居している親による干渉、支配が復活、継続する手段となり、結果として子の権利や福祉が損なわれてしまう危険が否定できません。

 法務大臣は、本法案は父母間の「合意を促していくための仕組み」といい、「どうしても合意ができない場合は単独でいく」と答弁しています。問題は、条文がそうなっていないことにあります。

 「ポストセパレーションアビューズ」、別居・離婚後のDV、虐待、嫌がらせが深刻です。「ちょっと待って共同親権プロジェクト」が今月行った調査に3日で1000人が回答し、別居・離婚経験者の58%が離婚後の虐待に遭い、その7割以上が子の面前でも被害を経験していました。

 元家庭裁判所調査官の熊上崇参考人は、本法案が成立すれば「共同にするか単独にするか、監護者をどちらにするか、監護の分掌をどうするか、日常行為かどうか、急迫かどうかなど、常に子どもと親が争いに巻き込まれる、それによって親が子を安心して育てることが難しくなるのではないか」と述べました。本法案の下で、手続きの濫用、不当訴訟、リーガルハラスメントがいっそう広がりかねません。

 ところが大臣は、そうした問題は「婚姻中別居の夫婦でも同じ」と繰り返しました。全く違います。婚姻中の問題が離婚後にも持ち越され、無期限の延長戦を強いられかねません。しかも、「共同親権に応じない限り離婚しない」などと迫られる事態まで起こりえます。こうした現実の不安に、向き合っているとは言えないのではありませんか。

 本法案は、DVや虐待の「おそれ」がある場合は単独親権としています。しかし、過去にDVや虐待があったとしても、いまは止まっている、反省している、将来のおそれなしとして、父母に合意がなくても共同親権とされるケースがあり得ます。被害者の声は、どこまで反映されるでしょうか。証拠がないといって、過去の被害が認められない事態が十分起こり得ます。大臣は、「話せば裁判所に通じると思う」と素朴に述べましたが、甘すぎます。

 女のスペース・おん代表理事の山崎菊乃参考人は、ご自身の痛切な経験を語りました。

「一度暴力を振るわれてしまうと夫婦の関係が全く変わるのです。夫の顔色を見て、怒らせないようにと振る舞う癖が私についてしまいました」「人格を否定され、人間扱いされないような言動が絶えずある生活は、身体的暴力よりつらく、私はいつも落ち込んでいました。子どもたちも、いつもぴりぴりしていました」――暴力や有形無形の支配に耐え、加害者に変化を期待しても裏切られ、どうにもならずに別居・離婚を決意し、経済的にも時間的にも多くを費やし、ようやく離婚が成立した被害者に、今度また親権者変更の請求で加害者への対応を余儀なくさせるのは、あまりにも酷ではありませんか。

 憲法学者の木村草太参考人は、「過去にDVや虐待があった場合には、被害者の同意がない限り絶対に共同親権にしてはならないという条文にすべき」と提起しました。正面から受け止め対応すべきです。

 本法案は、「子の利益のため急迫の事情があるとき」や「監護及び教育に関する日常の行為」については、単独で親権行使できることとしていますが、実際にはどこまで単独で決定できるのかはっきりしません。

 熊上参考人は、3月の院内集会で出された子どもたちの声を紹介しています。

「何かにつけて両親の許可が必要って面倒なだけ。期限に間に合わなかったら国は責任とれますか」「お父さんとお母さんが別居中に僕の手術が必要になったとき、お父さんが嫌がらせでサインしてくれなかったと聞きました。病院にお願いしても、両親のサインがないとだめだと言われて数ヶ月手術が延びた」「離婚時に、兄の私立高校をやめさせろと父から児童相談所に要請がありました。理由は養育費がかかるから」

 法務省は、父母は互いに人格尊重・協力義務を負うとの規定を設けたので、一方の親権者の親権行使を妨げることは権利の濫用に当たりうるといいます。しかし、それが裁判で認定されるのはずっと後になるでしょう。むしろ争われるのをおそれ、萎縮し、適時適切な意思決定ができなくなることが起こりえます。婚姻中、DVや虐待を理由に子を連れて別居するケースが、「子の利益のため急迫の事情があるとき」に当たるのかは、非常に重要ですが、この点さえ明瞭ではありません。

 弁護士の浜田真樹(まさき)参考人は、日常の養育に関する決定は監護者が行い、監護者でない側は不当に妨げてはならないものとすべきと意見を述べました。離婚後、父母の双方を親権者とする場合、少なくとも一方を「監護者」に定めることを必須とすべきです。

 医療現場から、現実的な懸念の声が上がっています。

日本産科婦人科学会や日本小児科学会など4学会は、共同親権を導入する趣旨や理念を「理解する」としつつ、父母の離婚後も両方の親権者の同意を必要とすることになれば「生命・身体の保護に必要な医療を実施することが不可能あるいは遅延することを懸念」するとしています。

 親権者のいかなる同意が必要であるかの判断がつかず、医療機関が訴訟リスクをおそれ、医療行為を控える事態を招くことは、あってはなりません。

 あるべき法改正のためには、子どもを主体とした「親権」の再定義が必要です。子どもの意見表明権の保障を明確にすべきです。裁判官、調査官の大幅増員など、家庭裁判所の体制強化が不可欠です。

 親の資力等が要件となっている支援策や親の同意等が必要となる手続きは、法務省が昨日までに把握しただけで32項目に上ります。大臣は、関係省庁連絡会議で今後調整するといいます。しかし、本法案の下でいかなる影響が生じうるのかは、審議の前に確認しておくべきです。本法案は、採決の前提を欠いています。

 木村参考人は、「日本の新しい憲法、民法が重視したのは、共同行為は合意がない限り強制できないという当事者の意思を尊重する姿勢だ」と述べました。

 憲法24条2項は、離婚や婚姻、家族に関する法律の定めのあり方について、「個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない」と定めます。当事者間に合意のない「共同」を強制することは、「個人の尊重」を最も大切な価値とする憲法との整合性さえ問われます。

 本院の審議では、与党も含め多くの議員から弊害を懸念する発言が相次ぎました。親子関係と家族のあり方に関する戦後民法の根本にかかわる改定を、国民的合意なく押し切ることは断じて許されません。

 追い詰められ、虐げられ、一人で苦しみ、しかし懸命に生きてきた多くの当事者が、声を上げ、つながりはじめました。自らと子どもの生活と命がかかっている、だから諦めるわけにはいかないという声が、すでに全国でわきおこっています。個人の尊重に依拠した、あるべき家族法制への転換こそ求められることを強調し、討論とします。

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