山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2024年・第216臨時国会

米兵犯罪 補償に不備 制度是正迫る

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
那覇地裁は、十三日、米兵による少女へのわいせつ誘拐、不同意性交が問われた事件で、懲役五年の実刑判決を言い渡しました。判決は、犯行の悪質さが際立つと指摘し、被告人の無罪主張を退けました。
これは基地あるがゆえの被害です。まず、外務大臣に判決の受け止めを伺います。

○外務大臣(岩屋毅君) 個別事件における裁判所の判断につきましては、政府としてコメントすることは差し控えたいと思います。
その上で申し上げますれば、本件のような事件が発生したことは極めて遺憾でございます。これまでに米側が発表した一連の再発防止策が実際に事件、事故の再発防止につながることが重要でございまして、先般、私からも、着任されたジョスト在日米軍司令官に対してその旨申し伝えたところでございます。
引き続き、在日米軍の綱紀粛正と再発防止の徹底を働きかけてまいりたいと思います。

○山添拓君 十六歳に満たない少女が裁判で五時間尋問を受けました。詳細な証言を余儀なくされました。事件の後、自傷行為を繰り返し、睡眠薬を服用していることも明かしたといいます。ケアが必要なんですね。そして、それは事件の直後から必要だったわけです。
ところが、捜査機関は事件の発生や起訴を公表せず、政府も県に伝えず、被害者を守らず、新たな犯罪まで起きました。加害者の責任がもちろん重大ですが、政府がその傷を広げることは決して許されません。
米軍の準機関紙、星条旗新聞は、今年八月、過去二十年、米軍内部で発生した性暴力事案が公式記録の二倍から四倍に上るとする研究者の調査報告書を報じています。昨年だけで七万四千件の事案が、性暴力事案があったようですが、国防総省の記録では二万九千件とされているというんですね。そして、その上で、九・一一以降、特に軍の即応力を最優先としてきたことが性暴力の問題を悪化させ、組織内部の暴力やジェンダー不平等を覆い隠してきた、この問題を戦争のコストとみなさなければならないとしています。
防衛大臣に伺いますが、戦争や軍隊の即応力の強化が性暴力を含む人権侵害を助長していると、こういう指摘だと思うんです。どう受け止められるでしょうか。

○防衛大臣(中谷元君) この問題につきまして、この犯罪の件数の多寡によらずに、性犯罪というのは、何人であれ、被害者の尊厳を著しく侵害し、その心身に長年にわたり重大な苦痛を与え続ける悪質、重大な犯罪でありまして、私としましても、決して許されるものではないと考えます。
先日、十五日にですね、私、沖縄へ行きまして、ターナーの在沖四軍調整官と面談をした際に、非常に遺憾の意を表しまして、再発防止、そして様々な機会捉えて米軍人の綱紀粛正を強く求めていくとともに、この再発防止が着実に実行されるように、もう二度とこういうことがないようにしっかりと働きかけを求めたわけでございます。

○山添拓君 綱紀粛正、再発防止、これはかなり空虚に聞こえていると思います。
この報告書は、戦争中、平均で女性兵士の四人に一人、男性兵士の二%が性暴力に遭っていると推計し、黒人女性やLGBTQ+の兵士は被害に遭った可能性がより高かったとしています。私は、軍隊の暴力性というのは否定し難いものだと思います。
性暴力だけではありません。資料の二を御覧ください。
沖縄市で、二〇〇八年、米兵二人がタクシー運転手の宇良宗一さんを殴り重傷を負わせた強盗致傷事件が起きました。これは公務外の事件です。その被害補償を問題にしたいと思います。
民事裁判で米兵の賠償責任が認められましたが、行方知れずとなり、米側が支払わなかったため、日本政府に肩代わりの見舞金を支払うよう求めた裁判で、十六日に最高裁判決がありました。米兵らは確定判決によって二千四百六十万円の賠償責任を負いました。しかし、米側が払った見舞金は百四十六万円です。政府は、SACO最終報告に基づいて、判決と米側の支払額との差額を見舞金として支払います。しかし、それは損害の元金のみの千五百九十万円で、遅延損害金の約九百万円は支払わない。これが国の主張です。そして、その国の主張が認められて上告棄却となったという最高裁判決です。
資料の三を御覧ください。
遅延損害金を見舞金の対象としない根拠は、一九九八年の防衛局長の通知です。これが二〇一八年に改定されて、同様の文言となっています。
資料の四を御覧ください。
一方で、日本政府が確定判決と米側が払った額との差額を見舞金として支払うという根拠は、一九九六年のSACO最終報告です。閣議決定で、その十分かつ適切な実施を定めています。
防衛省に伺いますが、SACO合意には、遅延損害金は除外する、こういう文言はありますか。

○防衛省 地方協力局長(田中利則君) お答えいたします。
明示的な規定はございません。

○山添拓君 では、なぜ、わざわざ防衛局長通知によって遅延損害金を払わないこととしたんでしょうか。

○政府参考人(田中利則君) お答えを申し上げます。
国といたしましては、昭和三十九年の閣議決定に基づきまして、米国政府による補償金等によって被害者が救済されない直接の被害につき、国が救済を、救済を必要と認めた場合には見舞金を支給することができるということとしております。
この見舞金につきましては、被害者が救済されない直接の被害を対象としているところ、賠償金が支払われないことに対する延滞料の性格を有する遅延損害金や訴訟費用につきましては直接の被害には当たらず、支払の対象とはいたしておりません。
こうした点につきまして、昭和三十九年の閣議決定を踏まえて発出された平成三十年六月二十一日付けの防衛省地方協力局長通知において定めているところでございます。

○山添拓君 遅延損害金も直接の被害だと思いますよ、事件がなければ発生しなかったわけですから。
SACO合意で確定判決と米国政府の支払額との差額を日本政府が見舞金として払うことにしたのは、これは被害者の損害を可能な限り補償する、そういう目的のものですよね。

○政府参考人(田中利則君) お答えを申し上げます。
先ほど委員からも御指摘ございましたけれども、SACO最終報告におきましては、米国政府による支払が裁判所の確定判決による額に満たない過去の事例は極めて少ないと、しかし、仮に将来そのような事例が生じた場合には、日本政府は、必要に応じて、その差額を埋めるため、請求者に対し支払を行うよう努力すると言っております。

○山添拓君 それは、ですから、被害を可能な限り補償していこうと、こういう制度の趣旨なんじゃありませんか。

○政府参考人(田中利則君) 先ほど私から答弁申し上げましたとおり、私どもといたしましては、この見舞金という性格に基づきまして、昭和三十九年の閣議決定に基づき支払の対象というものを規定しているところでございます。

○山添拓君 政府の見舞金で遅延損害金を支払うと、何か不都合があるんですか。

○政府参考人(田中利則君) 繰り返しで恐縮でございますが、この見舞金という性格に基づきまして、この支給される対象範囲というものを定めているというところでございます。

○山添拓君 不都合があるのかと伺っているんですよ。

○政府参考人(田中利則君) 基本的には、不都合とかそういうふうな話ではないのかなというふうには承知しております。

○山添拓君 だから払うべきだと求めたいと思うんですけれども、被害者は、では、この九百万円の遅延損害金を誰に求めればいいんです。
米側は、百四十六万円の見舞金を払う際に、米兵の免責を条件にしているんですよ。被害者は、確定判決で九百万の損害賠償請求も遅延損害金の請求も権利としては持っている、しかし米兵には請求できない、日本政府も穴埋めをしない。これは泣き寝入りをせよということになるんでしょうか。

○政府参考人(田中利則君) このSACO見舞金の制度というのは、先ほどのSACO最終報告で規定されておるわけですが、こうした確定判決との差額分につきまして、見舞金という性格上、その直接の被害に係る部分について補填をするという、そうした趣旨で運用をされているというところでございます。

○山添拓君 いや、確定判決で遅延損害金まで認められているんですよ。
昨日、防衛省とやり取りしていましたら、そもそも、この九八年の局長通知のときに、なぜ遅延損害金を除くことになったのかと、なぜでしょうねと言われましたよ。
記録が残っていますか、その判断をするに至った。

○政府参考人(田中利則君) 全て精査できているわけではございませんが、当時の記録について、明確にそれをなぜ除外しているのかというふうなことを述べているものはございません。
他方、その説明の仕方としましては、先ほど申しましたように、見舞金というこの性格からして直接の被害に係る部分のみを補填するという、そうした形で運用しているという、そういうことでございます。

○山添拓君 見舞金という名前であっても、確定判決がベースになっているわけですから、損害額を穴埋めすると、そういう趣旨に基づいた制度であることはこれは疑いがないと思います。
そもそも局長通知で遅延損害金や訴訟費用を除外することとしたのはなぜなのかと。これはお調べいただいて、決定過程が分かる文書を当委員会に出していただきたいと思います。

○委員長(小野田紀美君) 後刻理事会で協議いたします。

○山添拓君 遅延損害金というのは、不法行為のとき、事件のときから発生します。この事件でいう九百万円というのは、米兵に対する裁判の弁論が終結するまで十年分。ですから、遅延損害金の一部なんですね。宇良さんの事件で、最高裁第二小法廷の三浦裁判長は、局長通知が遅延損害金を除外していることは、SACO最終報告及び平成八年閣議決定の趣旨に反し、被害者等の正当な権利の実現を損なう不合理なものだと意見を付しています。
大臣、これ改めるべきじゃありませんか。

○国務大臣(中谷元君) 今回、十年以上に及ぶ長い裁判の上、最高裁が、見舞金が被害者が救済されない直接被害を対象としているところ、賠償金が支払われないことに対する延滞料の性格を有する延滞損害金につきましては、直接被害に当たらず、支払の対象にしていないという判決が下りました。今回の判決はこういった国の主張が認められたものと受け止めておりまして、こういった論点の結論ではないかと思います。
ただし、裁判長のあの最後の言葉がございますので、判決に付されている裁判長の御意見につきましてはよく精査をしてまいりたいと思います。

○山添拓君 宇良さんはPTSDを負って、事件の四年後にがんで亡くなられました。御遺族が裁判を続けて、そして事件から十六年になります。
政府が決断して遅延損害金を含めた見舞金をこれから支払うということはできるだろうと思います。裁判長の意見も踏まえて、大臣、決断されるべきじゃありませんか。

○国務大臣(中谷元君) 最高裁の判決でございます。今回の判決は、こういった国側の主張が認められたものと受け止めております。

○山添拓君 いや、ここは判断いただきたいと思いますよ。
最高裁の判決は、規定がそうなっているから払わなかったと、それだけの話ですよ。改めて払うということは可能ですよ。そして、これから精査するとおっしゃいましたけれども、制度そのものを変えていく必要があると私は思います。
そもそも、この米国政府が支払を申し出た百四十六万円なんですけどね、防衛省、なぜこの値段なんですか。

○政府参考人(田中利則君) お答えを申し上げます。
まず、この仕組みでございますけれども、(発言する者あり)あっ、金額についてですね。これは米側、基本的には米国側、いや、米側と被害者側との間で示談によって解決されるべきものでございますが、この示談が困難な場合には、日米地位協定第十八条第六項に基づき、被害者の請求を受けまして、米国政府が慰謝料を決定し、被害者の同意を得てお支払するという、そういう制度になっております。

○山添拓君 資料四の左側を御覧いただきたいのですが、米兵の公務外の行為による被害の補償は地位協定十八条六項に規定されています。
今省略されたんですけれども、まず日本の当局が被害者の請求を審査し、補償金を査定し、その報告書を作成し、これを米国当局に渡し、そして米国が金額を決定するという規定になっています。つまり、出発点は、日本の審査であり、査定です。
審査と査定の基準はどのようなものですか。

○政府参考人(田中利則君) それぞれ各防衛局において審査、査定をさせていただいておりますが、これはあらかじめ決められた、その、何といいますかね、基準というものを設けておりまして、それにのっとって算定をしているというものでございます。

○山添拓君 米国の側は、その基準にのっとって定めた金額、そして作った報告書、そのとおりに示談で提案してきているんでしょうか。

○政府参考人(田中利則君) そこはケース・バイ・ケースでございますが、必ずしもその金額どおりにならないというケースも多々ございます。

○山添拓君 この宇良さんの事件では、米側から最初の示談書が届いたのは二〇一七年の十一月です。その後、二〇一八年七月に米兵に対する賠償命令の判決が確定し、米側が百四十六万一千円を支払ったのは翌二〇一九年のことです。
米国側が申し出た金額はこの確定判決の前と後でいずれも百四十六万一千円で、一円も変わっていないんですね。なぜですか。

○政府参考人(田中利則君) そこにつきましては、米側の方で独自に算定をしているものでございますので、私どもとしてその詳細内容については承知しておりません。

○山添拓君 日本の裁判で賠償請求が認められたのであれば、その額を米国の支払に反映されるように日本側でも査定をし直して求めるのが当然じゃありませんか。判決が確定しても審査や査定のやり直しというのは日本側では行っていないんですか。

○政府参考人(田中利則君) 先ほど委員から御指摘をいただきましたが、まずは日本側において審査を査定し、それに基づき報告書を作成した上で米側の方に慰謝料の支払を求めるという、そういう手順になっております。
したがいまして、米側の慰謝料の支払の金額というものが私どもの算定よりも低い場合においては、そこにおいていろんな調整はなされるということはございます。

○山添拓君 そうじゃないんです。確定判決で裁判によって損害賠償額が決まれば、それを踏まえて、日本の裁判でこのような額になりましたよということを米側に伝えているんでしょうか。

○政府参考人(田中利則君) 当然、その確定判決の内容についてはお伝えをしております。他方、米側は独自の算定基準に基づいて金額を算出しておりますので、必ずしも私どもが申し上げたとおりにはならないということもございます。

○山添拓君 判決の前後で一円も変わらないということは、日本の判決など意に介さない、そういう米側の姿勢だということですよ。
そもそも日本側の査定が十分なのかという問題もあります。交通事故の事件などで日本の保険会社の基準より低い額を日本が査定しているんじゃないかと、こういう指摘もあります。
請求の審査、また補償金の査定における基準を当委員会に提出するように求めます。

○委員長(小野田紀美君) 後刻理事会で協議いたします。

○山添拓君 資料五を御覧ください。
SACO合意の後、地位協定十八条六項に基づいて米国政府が支払った件数と金額、また日本政府が見舞金を支払った件数と金額を明らかにしてください。

○政府参考人(田中利則君) お答えをいたします。日米地位協定第十八条第六項に基づいた公務外の事件、事故等において、平成九年度から令和五年度までの間に米国政府から支払われた慰謝料の件数は六百五件でございます。その金額の合計は約十七億二千二百万円となっております。
また、平成九年度から令和五年度までの間に日本政府が支払ったSACO見舞金の件数は二十三件でございます。その金額の合計は約五億五千四百万円となっております。

○山添拓君 同じ二十七年間に米軍の兵士、軍属による刑法犯の検挙件数を、これ警察庁にお示しいただきたいと思います。

○警察庁 長官官房審議官(松田哲也君) お答えいたします。
警察庁でまとめている犯罪統計で見ますと、一九九七年から二〇二三年までの二十七年間の全国の都道府県警察における米軍人及び軍属の刑法犯検挙件数は、軍人が千八百九十九件、軍属が二百三十三件で、合計二千百三十二件となっております。

○山添拓君 二千件以上の検挙件数があり、しかし日本側がSACO見舞金を支払ったのは二十三件ということでありました。これは、確定判決を必要とすることなど、見舞金の請求そのものがハードルになっているという可能性も指摘されています。十分機能していない、そういう可能性があると思います。
最高裁の三浦裁判長は、重大犯罪が繰り返されている沖縄の住民負担を真に軽減することは国政の重大な課題、被害者が遅滞なく十分に救済されることが肝要であり、制度の基本的な在り方が問われると厳しく指摘しています。
もちろん、問題は沖縄だけではありません。そして、制度の基本的な在り方というのは地位協定です。先ほど来お話しになっている地位協定そのものが問われると思うんです。
今日は、二〇〇二年に横須賀で米兵による性暴力被害に遭い、性犯罪の根絶と日米地位協定の改定を求めてきたキャサリン・ジェーン・フィッシャーさんが傍聴にもお見えです。
外務大臣に伺います。
石破総理は、総裁選で地位協定の見直しを掲げました。その真意はともかく、私は、この被害者が泣き寝入りを余儀なくされるような不合理な地位協定はやはり改定しなければならないと思います。いかがでしょうか。

○国務大臣(岩屋毅君) 政府といたしましては、米軍人等の公務以外の行為から生じた損害に関しましては、被害者又はその御遺族の意思を踏まえつつ、日米地位協定や関係の国内法令に基づき、被害者又はその御遺族に対し補償措置が適切に取られるように努めてきております。
具体的には、米軍人等の公務外の行為から生じた損害については、一義的には加害者が賠償を行うべきものとして、当該軍人等を相手とした訴訟等で処理することになりますが、日米地位協定第十八条六は、米国政府が慰謝料を支払うことによって処理、支払うことによる処理方法も規定をいたしております。
さらに、米軍人等の公務外の行為から生じた損害については、一層の被害者救済のため、日米地位協定第十八条六の運用改善として、日米両政府により前払制度、無利子融資制度及び見舞金の措置がとられているところでございます。
こうした制度に基づいて、被害者が適切に救済されるよう、引き続き取り組んでまいります。

○山添拓君 いや、大臣、今日お聞きいただいたように、宇良さんの事件では二千万円を超える賠償責任、だけど米側は百四十六万円ですよ、日本政府は九百万円の遅延損害金も払わない。これで本当に適切に補償されていると言えますか。改善必要じゃありませんか。

○委員長(小野田紀美君) 時間が過ぎております。岩屋大臣、簡潔にお願いします。

○国務大臣(岩屋毅君) 引き続き、先ほど申し上げた制度に基づいて被害者が適切に救済されるよう取り組んでまいります。

○山添拓君 地位協定と制度の抜本的な改定を求めて、質問を終わります。

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