山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2025年・第217通常国会

議員任期延長の改憲 「緊急時に名を借りた権力濫用 至るところに実例あり教訓は明らか」

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
参議院の緊急集会について意見を述べます。
憲法五十四条二項に定める参院の緊急集会は、衆院解散後、緊急の必要がある場合に参院のみで国会の機能が維持できるようにする仕組みです。五十四条三項のとおり、あくまで臨時のものであり、次の国会開会後十日以内に衆院の同意がなければ効力を失います。
二〇二三年の当審査会で長谷部恭男参考人が述べたように、緊急集会による対応は限られた期間しか通用しない臨時措置であり、平時の状況が回復したときは速やかに通常の制度へと復帰することが予定されています。政府が憲法制定議会で述べたように、民主政治を徹底させて国民の権利を十分擁護するための仕組みであり、諸外国に例のない日本国憲法独自の制度です。
一方、五十四条一項が、解散から四十日以内に総選挙を行い、その選挙の日から三十日以内に国会を召集しなければならないとしていることから、緊急集会は最大でも七十日しか開けない、緊急事態がそれ以上に及ぶ場合に備えて衆院任期の延長が必要などという議論が繰り返されてきました。
しかし、そもそも総選挙の実施と国会召集を長期にわたって見送らざるを得ないと前もって正確に予測するのは困難です。長谷部参考人が述べたように、緊急時においても選挙権という基本権は可能な限り保障されるべきであり、部分的にでも選挙を実施できる限り、順次粛々と選挙を行うべきです。投票所の移設や増設、繰延べ投票、期日の延期など、選挙権を保障する手だては複数考えられますが、それらはもとより選挙制度の問題であって、当審査会で議論すべきテーマではありません。
議員任期の延長はいかなる事態をもたらすのか。長谷部参考人は、任期の延長された衆院とそれに支えられた従前の政権が居座り続け、緊急事態の恒久化を招くことになりかねない、緊急時の名を借りて、通常時の法制度そのものを大きく揺るがすような法律が次々制定されるリスクも含まれると指摘しました。国民の選挙権を奪い、民意を反映しない国会と政府が続く事態は、民主政治の徹底による権利擁護が図られないばかりか、通常の制度に復帰する担保がありません。
一九四一年、日中戦争下で衆院任期が一年延長されたのは、緊迫した情勢下で選挙を行うと国政について不必要に議論を誘発するからなどというものでした。ところが、一年後、今度は戦時下で選挙が行われ、その理由は、議会の刷新を期し、政治力の結集を図ることがむしろ戦争遂行のため緊要であると考えたからとされ、翼賛体制を確立しました。
いわゆる選挙困難事態は、かつてこのように恣意的に判断され、その結果は日本とアジアにおびただしい犠牲をもたらした戦争の惨禍であったという事実は決して看過できません。終戦直後の憲法制定議会で金森大臣は、過去何十年の日本の立憲政治の経験に徴して、間髪を待てないというほどの急務はないと答弁しています。さきの大戦下においてすら、実際には、間髪を入れないような急務などなかったのです。
韓国の尹錫悦前大統領が野党を北朝鮮に従う反国家勢力だと決め付けて行った非常戒厳の宣言について、憲法裁判所は、当時は国の非常事態ではなく、軍を出動させなくとも平時の権限行使で対処できたとして、国家緊急権の行使を憲法違反と断じました。
米国トランプ大統領の関税引上げは、通常の通商法であれば事前調査などのため発動まで一年程度掛かるものを、経済的な非常事態だと言い、本来非常時に限られるはずの国家緊急経済権限法を法的根拠に強行し、迷走し、世界中に大混乱をもたらしています。
緊急時に名を借りた権力の濫用は、日本でも世界でも、過去も今日も至る所に実例があり、教訓を明らかにしています。危機をあおり、不安に乗じて、緊急事態条項をと喧伝したり、整理と称して意見のすり合わせに向かおうとしたりするのではなく、憲法に基づく民主政治を徹底し、権利を擁護する政治こそが国会に求められていることを強調し、意見とします。

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