2019年・第198通常国会
- 2019年5月29日
- 東日本大震災復興特別委員会
東電による集団ADR和解案の受け入れ拒否について
- 要約
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- 東日本大震災復興特委員会で初質問。東電が集団ADRの和解案の打ち切りを続けており、その後個別ADRでの対応を求めていることについて、被災者の分断そのものと強調。東電が拒否しているのは中間指針の基準を超える賠償であるが、この間の判決で指針の不十分さは明らかで、指針の改訂を求めました。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。復興特別委員会で初めて質問をさせていただきます。
福島原発事故の被害賠償を円滑、迅速かつ公正に解決に導くために設立をされたのが原子力損害賠償紛争解決センター、原発ADRであります。和解の仲介を申し立てる裁判外の仕組みです。
このADRで和解案が示されたにもかかわらず、東電が受け入れず、審理が打切りとなる事案が相次ぎ、国会でも問題とされてまいりました。
いわゆる集団申立て事件において、二〇一八年に東電が和解案の受諾を拒否したために打切りとなった事案の件数と打ち切られた人数について、文科省、御説明ください。
○政府参考人(千原由幸君) お答え申し上げます。
原子力損害賠償紛争解決センター、ADRセンターにおける和解仲介手続におきまして、二〇一八年に東京電力による和解案の受諾拒否により和解仲介手続が打ち切られた案件のうち、申立人が集団を構成しているものと認識して申し立てた案件として公表された件数は十八件、打切りとなった人数は一万六千名余りでございます。
○山添拓君 これ、集団申立てに対する和解案の受諾拒否は昨年から起こっているものであります。
三月八日の予算委員会で、我が党の岩渕友議員も世耕経産大臣に東電への直接の指導を求め、三月十九日、大臣が口頭で指導したと伺いました。
東電は四月五日、打切りとなった集団ADRの申立人それぞれに対して通知文書を送っております。ただし、この文書は、ADRが示した和解案を受け入れるからもう一度話し合おう、こういうものではありません。資料をお配りしておりますが、この文書の四段落目にあります。個別の申立てのケースにおいて、御事情を丁寧にお伺いして対応するのだとしています。要するに、改めて一人一人申し出ろというものであります。
東電に伺いますが、申立人集団の代表あるいは申立人らの弁護団との協議を再開するのではなく個別に交渉しようとしているのは、これはなぜですか。
○参考人(文挾誠一君) それでは、お答えさせていただきます。
当社はこれまでも、個別の御事情を丁寧にお伺いいたしまして、きめ細やかく適切に対応しながら、和解の成立に向けて最大限努力をしてございます。
今般改めて、その旨を今回集団ADRで和解をお受けできなかった皆様にお知らせさせていただきましたが、なお、当社といたしましては、複数人に共通する個別の御事情があれば、これは、個別、集団の手続の違いによらず、御事情を丁寧にお伺いしまして、丁寧に対応させていただきたいと存じます。よろしくお願いいたします。
○山添拓君 しかし、個別に送っているんですね。集団の事情を考慮するかもしれない、そうおっしゃいますけれども、一人一人に送り付けているわけです。各地で集団申立てがされてきたのは、避難でばらばらにされ、子供からお年寄りまでいる、個別の主張と立証を行うのには困難があるからです。
一方、東電から払われた額では到底包括をされない被害があり、それは地域に暮らす人々に共通している。だから、みんなで力を合わせよう、迅速に解決できるならと、こう奮起をして申立てがされてきました。その集団申立てで一律の賠償が認められた意義をこれは全く踏まえない態度だと言わなければなりません。
東電に伺います。この文書には、集団ADRの打切りの後に、個別に申し立て、和解に至ったケースもあると書いてあります。何件ありますか。
○参考人(文挾誠一君) お答えさせていただきます。
大変恐縮ですけれども、手元に件数は持ち合わせておりませんので、回答を控えさせていただきます。
○山添拓君 調査中だという趣旨ですか。
○参考人(文挾誠一君) そのとおりでございます。
○山添拓君 件数すらも公にできないのに、個人で申し立てればいかにも和解できそうな表現をしているんですね。これは被災者の分断そのものです。
集団ADRの打切り後にADRが示していた和解案の受諾を検討している事案はありますか。
○参考人(文挾誠一君) お答えさせていただきます。
ADRより提示をされました和解案の受諾をお断りさせていただいた打切り案件というふうになった事件につきましては、既に手続が終了しているということでございますので、改めて受諾を検討しているものはございません。
しかしながら、先ほど先生が資料で御提示させていただいたとおり、ADRの打切り後におきましても、個別の御事情に基づいて改めてADRの申立てをされた際に和解に至ったケースというのは、これはございます。個別の申立て、集団での申立てなど手続の違いによらず、御事情を丁寧にお伺いして、和解成立に向けて最大限努力をしているわけでございます。
他方、これからADRを受諾するのかということでもあろうかというふうに思いますが、これにつきましては基本的には非公開の手続ということもありますので、これについては回答は差し控えさせていただきたいと思います。
以上でございます。
○山添拓君 結局、打切りになったものについて指導を受けたけれども、改めてその受諾の可否を検討している事案はないということでありました。
つまり、集団ADRの、これ何年も掛かったものもあります、その手続はなかったことにしてゼロベースで、個別の具体的な事情に応じてなら和解に応じるかもしれない、こういうことです。東電が三つの誓いで述べているような和解仲介案の尊重など全くないじゃありませんか。
経産省に伺います。
集団ADRで和解案を拒否する東電の対応が問題だとされ、大臣の指導に至りました。今のような対応でよしとされるんですか。少なくとも、ADRで示された和解案を尊重した対応を取らせるべきじゃありませんか。
○大臣政務官(滝波宏文君) お答えいたします。
東京電力の受諾拒否により打切りになった集団ADR案件につきましては、御指摘ありましたように、三月十九日に世耕大臣から、東京電力小早川社長に対しまして、個別事情に応じて適切に対応する旨を周知するとともに、お申出があった場合には、御事情を丁寧に伺いながら、きめ細かく適切に対応するよう直接指導を行ったところであります。
この大臣からの指導を受けて、東京電力は、打切りになった集団ADR申立人に対しまして、改めて個別に申立てがなされた場合には御事情を丁寧にお伺いし、きめ細かく適切に対応しながら、和解の成立に向けて最大限努力するという内容のダイレクトメール、先ほど資料も御提示ありましたけれども、これを送付しているものと承知してございます。
いずれにいたしましても、経産省としましては、今後とも、東京電力の対応を注視するとともに、被災者の方々の個別の事情を丁寧にお伺いしながら適切な対応をするよう、東京電力をしっかりと指導してまいりたいと考えてございます。
○山添拓君 要するに、大臣自身が、集団ADRであっても個別対応でよい、こういう姿勢だったということなんですね。せっかく和解案までこぎ着けた、そこへ至るまでにどれだけの思いや葛藤があったとお考えなのかということだと思います。
川俣町小綱木地区の住民の九五%、五百六十六人が申し立てた集団ADRでは、昨年二月に、一人二十万円の慰謝料を相当とする和解案が示されました。
事故の後の一一年四月、隣接する川俣町山木屋地区や飯舘村が計画的避難区域に指定されました。政府が避難指示の範囲を拡大しつつあり、その情報は錯綜し、小綱木も指定されるかもしれないという情報が飛び交っていました。浄水場の水から放射性物質が検出され、原乳や野菜の出荷制限もされました。
計画的避難区域に匹敵する放射線量にさらされるのではないかという恐怖や不安、さらには、浜通りから避難する車の列を目の当たりにし、避難者を受け入れる中でその恐怖や不安、混乱が一層高まり、日常生活の維持、継続が阻害された。その精神的苦痛は想像に余りある。こうした事情をADRの口頭審理や現地調査も踏まえて小綱木地区の住民に共通する被害として認定し、和解案が示されました。
ところが、東電は、そうした共通の不安や恐怖は中間指針で評価済みだとして、昨年十二月に和解案の受諾を拒否し、住民に個別の申立てを今求めています。
文科省に伺います。
中間指針では、個別具体的事情により中間指針以上の損害が認められ得ることを記しています。個別具体的と言われますと、これは一人一人の事情を指すようにも思われるんですが、一定の地域や一定の期間の人々に共通する被害があって、そこに中間指針を超える損害が一律に認められる、こういう場合があることを否定する趣旨なんですか。
○副大臣(永岡桂子君) お答えいたします。
中間指針等は、福島の原発事故によります被害の規模や、また範囲が未曽有のものであることを踏まえまして、可能な限り早期の被災者の救済を図る観点から、類型化が可能で一律に賠償すべき損害の範囲や項目の目安を示した上で、さらに、個別具体的な事情に応じまして、示された考え方以外の損害や異なる賠償額が認められることがあり得るということを基本的な考えとしております。
したがいまして、御指摘いただきましたとおり、一定範囲の住民に共通いたします個別事情に基づく損害がある場合、これは、中間指針を超える損害が一律に認められる可能性があることを否定するものでは決してございません。
○山添拓君 否定するものではないということでした。
ところが、東電はこれまで、集団での和解を受け入れた事案も含めて、中間指針を超えるような一律の賠償については認めないと。例えば、被曝への不安については、科学的な根拠が不明確だとして、和解案を受け入れた場合であっても、その理由は受け入れられないんだとしております。
東電に伺いますが、今お聞きいただいたように、一定範囲の住民に共通する損害として中間指針を超える和解案が出されるケースはあり得るだろうと。今後も和解案の受諾を拒むおつもりですか。
○参考人(文挾誠一君) それでは、お答えさせていただきます。
一定の地域の住民の方々に共通する損害として中間指針を超える和解案が出されたこととか、あるいは集団ADRであることを理由として当該和解案を受け入れられないということでは決してございません。
他方、ADRセンターより御指示、御提示いただいた集団ADRの和解案について、申立人に共通する御事情として主張される内容について、熟慮の結果、受諾することは難しいとの結論というふうに至ったわけでございます。
以上でございます。
○山添拓君 熟慮というよりも、中間指針を超えている損害はないのだ、こういう紋切り型の答弁で和解案の受諾を拒否している例が相次いでおります。
しかし、資料の二ページを御覧ください。
伊達市保原町富成地区の一部の富沢地域では、一旦は拒否していた和解案の受諾をする方向だとされています。既に拒否をした地域についても、いま一度検討し直すべきだということを指摘したいと思います。
この間、全国各地の集団訴訟で判決が続いています。資料の三ページにその一部を御紹介しました。福島のなりわい訴訟、小高の訴訟、いわきの避難者訴訟、神奈川の訴訟。金額は少しずつ異なりますが、帰還困難区域であれ、自主的避難の対象区域であれ、少なくとも中間指針の水準を上回る賠償が命じられております。そして、ADRで同様に中間指針を超える内容の和解案が示されています。一方で東電は、特に中間指針を超える共通の精神的苦痛に対する賠償を拒絶してまいりました。
文科副大臣と復興大臣に最後に伺います。
現在の中間指針とその下での東電の対応、これでは被害の完全救済のために不十分なのではないでしょうか。
○副大臣(永岡桂子君) お答えいたします。
先ほどお話し申し上げました中間指針は、類型型のということでもうお話し申し上げましたのでお分かりのことだと思っております。
その中間指針を決めますのは原子力損害賠償紛争審査会においてでございます。これは、おおむね二回開催をされている審査会の場におきまして賠償状況の把握を行うとともに、おおむね毎年一回実施をしております福島県内の被災市町村への現地視察におきまして、被災市町村の実態の把握ですとか、あと、地元関係者との意見交換を行っております。
これらを踏まえた上で、紛争審査会では直ちに中間指針等の見直しを検討する状況にはないということが確認をされておりますが、引き続きまして、紛争審査会におけます審議、そして被災地の現地の視察等によりまして、賠償状況でありますとか、また被災地における実態の把握を通じて、東京電力における賠償の状況をしっかりとフォローアップすることが重要であると考えております。
また、文部科学省といたしましては、東京電力が自ら定めました新々総合特別事業計画の、先生先ほどもおっしゃっていましたが、三つの誓い、これを遵守をしまして、被災者に寄り添って誠意ある対応を行うことが重要と考えております。
これまで文部科学省の指示の下に、担当局長より東京電力に対しまして、自らが定めました三つの誓いを遵守をし、被害者の方々に寄り添った賠償を一層進めるよう、累次要請を行っているところでございます。今年は三月の二十九日付けで東京電力へ改めて要請を行っております。
○委員長(徳永エリ君) 山添拓さん、時間が来ておりますので。
最後に大臣、簡潔にお願い申し上げます。
○国務大臣(渡辺博道君) まず、東京電力が賠償を実施するに当たっては、個別の事情をよく伺って丁寧な対応を行うことが重要だというふうに思います。
復興庁といたしましては、経済産業省に東京電力に対する指導の徹底を求めてまいりたいと、そのように思います。
また、なお、中間指針等の見直しについては、原子力損害賠償紛争審査会において適切に検討されるものと認識をしております。
以上です。
○山添拓君 終わります。ありがとうございます。