2016年7月13日
『法服の王国ーー小説裁判官』
黒木亮『法服の王国ーー小説裁判官』(岩波現代文庫)を読みました。
もとは産経新聞の連載小説。上下巻で大部ですが、おもしろくて一気に読めます。
複数の裁判官や弁護士の半生を描き、70年代の司法反動、ブルー・パージ(長沼ナイキ訴訟での自衛隊違憲判決などを契機とした青年法律家協会会員を裁判所から排除する動き)と、原発訴訟を主軸に、裁判所の裏側をあぶり出しています。
特に原発訴訟については、科学的な論点も含めてかなり精緻に記されています。最高裁事務総局の采配による裁判官の交代や、国側の代理人を務める訟務検事の対応なども、さもありなんと思わせます。
著者が事実を補っている部分もあるのでしょうが、実在の人物と史実に基づいて書かれており、私もよく知る弁護士の名前も出てきます。司法修習や裁判所内のヒエラルキーを描いたところもリアル。
原発訴訟において、「3.11」前には2つを除いて住民側勝訴の判決はありませんでした。国策である原発推進を、裁判所がいかにアシストしてきたかを痛感させます。その姿勢は、現在取り組まれている数々の原発訴訟(差し止めや被害賠償)においても、基本的には変わらないだろうと思います。私が原発の裁判にかかわってきた少ない経験からも、強くそう感じます。
この本で書かれた原発訴訟以外にも、国策や大企業の不公正を問う様々な事件があり、裁判で勝ち取られてきた重要な成果があります。それぞれに、司法がいかに反動的であってもたたかった人々がいて、否定しがたい事実が突きつけられてきました。
憲法に書かれた権利や自由を、司法にまっとうに保障させるためには、たたかいが不可欠であること、政治を変える必要があることを、改めて思います。