2024年・第213通常国会
- 2024年6月20日
建設アスベスト給付金法に関する質問主意書
質問第二〇〇号
建設アスベスト給付金法に関する質問主意書
右の質問主意書を国会法第七十四条によって提出する。
令和六年六月二十日
参議院議長 尾辻 秀久 殿
建設アスベスト給付金法に関する質問主意書
建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、肺がんや中皮腫といった健康被害を受けた元建設労働者や遺族らが提訴した「建設アスベスト訴訟」は、最高裁が二〇二一年五月、国と建材メーカーの責任を認める判決を出し、菅義偉総理(当時)が原告に謝罪し、国は原告団との間で被害救済のための「基本合意」を締結するに至った。これを受けて同年六月九日の本院本会議で、被害救済のための補償基金を創設する「建設アスベスト給付金法」が全会一致で可決、成立した。原告と同等の被害者について、国の法的責任を踏まえた「給付金」を支給するもので、原告、弁護団、支援者の長年の要求を反映した画期的な制度といえる。
一方、同法は、国との関係では屋外作業者や対象期間外に就労した被害者が救済の対象から外されているという問題があるほか、被害を発生、拡大させたアスベスト含有建材を製造販売した建材メーカーについては、その責任に基づく補償が対象とされていないという大きな問題を抱えている。
給付金支給を含む被害救済の現状、及び、特に建材メーカーに拠出を求める補償基金制度創設の必要性に関して、以下質問する。
一 建設アスベスト給付金法に基づく給付金支給の現状について
同法に基づく給付金の申請は二〇二二年一月から始まり、今年五月二十二日に開かれた第二十八回認定審査会までの審査件数は合計七千百四十六件に上る。
1 給付金を受ける権利について、「認定相当」とされた合計件数、及び、病態区分ごとの合計件数を示されたい。
2 建設アスベスト訴訟の原告となった被害者は全国で千人を超えるが、前記1で「認定相当」とされた件数は原告数をはるかに上回る。原告として裁判をたたかってきた被害者の他にも、救済を必要とする被害者が相当多数に上る事実について、政府としての認識を示されたい。
二 建設アスベスト訴訟の現状について
建設アスベスト訴訟では「基本合意」を踏まえ国との間で和解が進むものの、二〇二一年の最高裁判決が国の損害賠償責任を認めたのは被害者の損害の半分であり、残りの半分は建材メーカーが負うべきとされる。ところが被告建材メーカーとの間では裁判が続き、最高裁判決で国と同様に責任が認められたにもかかわらず、原告との争いが続いている。
1 建設アスベスト訴訟全国弁護団が取り組む全国の建設アスベスト訴訟は現在二十九件に上る。このうち、被告建材メーカーが原告側との和解に応じた例(件数、内容)を、政府として承知しているか。
2 この間、東京高裁をはじめ各地の裁判では結審にあたって裁判所が原告被告の双方に和解勧試を行ったにもかかわらず、株式会社ノザワが神奈川一陣訴訟で原告の一部と和解したほかは、すべて和解を拒み、最高裁まで争い続ける姿勢を変えていない。
一方、八割以上の原告がすでに亡くなり、存命中の原告も多くが重い疾患を抱え、治療や将来の不安と向き合っている。「命あるうちの救済を」という声は当然であり、建材メーカーとの間においても早期解決が求められている。政府としての認識を示されたい。
三 附則第二条に基づく「検討」について
給付金法附則第二条は、「国は、国以外の者による特定石綿被害建設業務労働者等に対する損害賠償その他特定石綿被害建設業務労働者等に対する補償の在り方について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする」と定めている。
1 「検討」は、政府のどの省庁、部署において進められるものか。
2 「国以外の者」とは、主として建材メーカーが念頭に置かれている。「検討」として、厚労省及び経産省において、この間具体的に何を行い、どのような成果が得られているか、また今後どのような「検討」を行う計画があるのか、関連する予算の執行状況とともに示されたい。
3 建設アスベスト訴訟全国連絡会は、建材メーカーに拠出を求める補償基金制度の創設を求め、その必要性及び合理性、根拠と具体的な制度設計について提案を重ねている。二〇二一年五月の「基本合意」(4)は、「国は、建設業に従事する者について…被害者に対する補償に関する事項について、建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行う」としており、建材メーカーに拠出を求める補償基金制度について、政府として同連絡会と具体的に協議を行うべきではないか。
4 建材メーカーに拠出を求める補償基金制度を創設するに当たっては、建設アスベスト被害全体に対する各建材メーカーの影響度、寄与度が問われる。職種別の被害とその原因となる石綿建材の種類、それを製造販売した建材メーカーとの対応関係、主要な石綿建材の種別ごとの市場占有率などが参照でき、なかにはすでに各地の建設アスベスト訴訟において明らかになっている事項もある。
政府として、各建材メーカーに対しヒアリングや必要な資料提出を求めるなど、補償制度を築く上での調査を「検討」の一環として行うべきではないか。
右質問する。
内閣参質二一三第二〇〇号 令和六年七月二日 内閣総理大臣 岸田 文雄
参議院議長 尾辻 秀久 殿 参議院議員山添拓君提出建設アスベスト給付金法に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員山添拓君提出建設アスベスト給付金法に関する質問に対する答弁書 一の1について お尋ねについて、特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律(令和三年法律第七十四号。以下「給付金法」という。)第七条第一項に規定する特定石綿被害建設業務労働者等認定審査会の審査において、令和四年一月十九日から令和六年五月二十二日までの間に「認定相当」とされた件数は六千九百十一件である。また、御指摘の「病態区分」については、給付金法第四条第一項各号に掲げる「特定石綿被害建設業務労働者等の区分」を指すものと解されるが、当該区分ごとの件数については把握していない。 一の2について お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、政府としては、議員立法により制定された給付金法について、給付金法第一条の「石綿にさらされる建設業務に従事した労働者等が石綿を吸入することにより発生する中皮腫その他の疾病にかかり精神上の苦痛を受けたことに係る(中略)判決において、国が労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づく権限を行使しなかったことは、労働者の安全及び健康の確保という同法の目的等に照らして著しく合理性を欠くものであるとして、国の責任が認められたことに鑑み、これらの判決において国の責任が認められた者と同様の苦痛を受けている者について、その損害の迅速な賠償を図る」との規定の趣旨に沿って、適切な執行に努めているところである。 二の1について 御指摘の「二十九件」が具体的に何を指すのかが明らかではないため、「このうち、・・・和解に応じた例(件数、内容)を、政府として承知しているか」とのお尋ねについて、お答えすることは困難であるが、いずれにせよ、御指摘の「和解に応じた例」が御指摘の「弁護団」のホームページにおいて掲載されていることは承知している。 二の2について お尋ねについては、私人間の係属中の訴訟に関する事柄であるため、政府としてお答えすることは差し控えたい。 三の1について 政府におけるお尋ねの「省庁、部署」は、現在は、厚生労働省労働基準局労災管理課及び経済産業省製造産業局生活製品課である。 三の2及び4について お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、御指摘の「建材メーカーに拠出を求める補償基金制度」の検討については、令和三年五月二十四日の参議院決算委員会において、田村厚生労働大臣(当時)が「与党・・・で検討いただくという形、お聞きいたしております。我々は、その検討に基づいて、・・・対応させていただきたい」と述べた考え方に基づき、引き続き適切に対応してまいりたい。 三の3について お尋ねの趣旨が必ずしも明らかではないが、「政府として同連絡会と具体的に協議を行うべき」との御指摘が、御指摘のように「「基本合意」(4)」の「国は・・・建設アスベスト訴訟全国連絡会と継続的に協議を行う」中で「協議を行う」べきとの趣旨であれば、当該「国」は「厚生労働大臣」を指すものであるところ、厚生労働省において「建材メーカー」に係る事業を所掌しておらず、また、その実態の把握等は困難であり、御指摘の「補償基金制度」について「協議を行う」ことは考えていない。 |