2025年・第217通常国会
- 2025年2月12日
- 本会議
トランプ氏の暴走 一つでも批判したか 日米会談 首相の姿勢質す
○山添拓君 日本共産党を代表し、石破総理の訪米報告について総理に質問します。
米国トランプ大統領との初めての首脳会談で総理に求められたのは、世界が直面する課題について認識し、解決に向けて話し合うとともに、批判すべきは率直に批判し、対等、平等な主権国家同士の信頼関係を構築することにありました。
ところが、現実にはどうだったか。パレスチナ・ガザ地区の住民を強制移住させる、パリ協定やWHO、人権理事会から離脱する、トランプ大統領の一連の動きは、国際社会が積み重ねてきた協調と共存のための秩序を踏みにじる暴挙と言うほかありません。
総理は、首脳会談で、こうしたトランプ氏の動きを一つでも批判しましたか。ひたすらトランプ氏におもねり、称賛の言葉を並べるばかりだったのではありませんか。
共同声明は、力による現状変更の試みへの反対を確認しています。トランプ氏は、イスラエル・ネタニヤフ首相との首脳会談で、米国がガザを長期的に所有する、ガザの住民を全て外部に移住させると述べました。まさに力による現状変更の試みではありませんか。
恒久的な停戦をどう実現するか、危機的な人道状況をどう改善し、破壊されたガザの復興をどう進めるか、緊急の支援策が求められる中、トランプ氏が不動産開発のように掲げた構想は余りに浅はかです。
総理は、トランプ氏の構想が国連憲章と国際法、二国家解決という国際社会の合意に反する暴論であるとの認識をお持ちですか。
トランプ氏は、ネタニヤフ首相らに逮捕状を発行したICC、国際刑事裁判所の職員への制裁を可能とする大統領令に署名しました。ICCの赤根智子所長は声明で、裁判所の独立性と公平性を損ない、罪のない犠牲者から正義と希望を奪うことを求めるものだ、断固拒否すると厳しく批判しています。
フランスやドイツ、イギリスなど七十九の国と地域による共同声明は、国際的な法の支配を脅かすものだと非難しています。日本がこの共同声明に加わらなかったのはなぜですか。日本は、ICC規程の起草時より、法の支配の徹底のため一貫して支持してきたのではなかったですか。明確にお答えください。
昨年、大気中の二酸化炭素濃度が二〇一〇年の観測開始以降最も高く、上昇率も過去最大だったといいます。環境省は、大規模な森林火災や化石燃料の使用など人間の活動による排出量の増加が理由と考えられるとしています。気候危機対策は、文字どおり待ったなしです。
総理は、訪米前、米国のパリ協定からの離脱について、引き続き米国の適切な関与を求めていかなければならないと述べました。トランプ氏にパリ協定離脱を改めるよう求めましたか。地球温暖化はでっち上げだ、掘って掘って掘りまくれなどと言い、化石燃料の増産を促すトランプ氏を何ら批判しなかったのではありませんか。
総理が米国の貿易赤字の穴埋めのためにLNGを新たに購入すると約束したことは、気候危機打開に背を向けるトランプ氏に擦り寄り、その姿勢を助長するものです。人類が直面する危機を前に、世界の流れへの逆行ではありませんか。
トランプ氏は、WHOからの離脱表明の直後、拠出金が減額されるなら検討し直すと言い、移民や麻薬の流入を理由にメキシコやカナダへの追加関税を求めたかと思えば、国境警備の強化を合意し発動を延期しました。米国第一の姿勢を恫喝的に示し、取引といって譲歩を迫るやり方が、国際社会との矛盾を深め、米国の同盟国との間でもあつれきを生んでいることを総理はどう認識していますか。
こうした下で、日米同盟を更なる高みに引き上げるなどと言い、日米同盟絶対の姿勢を続けていてよいのかが厳しく問われます。
米国は、二〇二七年度より後も抜本的に防衛力を強化していくことに対する日本のコミットメントを歓迎したといいます。安保三文書に基づく五年で四十三兆円のその先も、大軍拡を続けるつもりですか。
米国はNATO加盟国にGDP比五%の軍事費を要求し、日本に対しても三%以上を求める声が報じられています。物価高騰が国民生活に困難を強いる中、物価上昇率をはるかに上回る軍事予算の拡大が既に暮らしの予算を圧迫しています。やめるべきです。
共同声明は、南西諸島における二国間のプレゼンスの向上を強調しました。政府は来年度、外国領土を直接攻撃できる長射程ミサイルをいよいよ現実に配備するといいます。どこに配備するのですか。沖縄を始め南西諸島で、ミサイル配備に当たり事前に住民に説明する予定はありますか。
政府は昨年、沖縄県うるま市で陸上自衛隊の訓練場を新設する計画を、地元の強い反対を受け断念しました。日米間でどれだけ軍事力の強化を約束しても、住民の声を無視して押し進めることは許されません。真っ先に標的となりかねないミサイル基地や弾薬庫を有無を言わさず増やし続けるなど言語道断です。東アジアの軍事的緊張を高め、平和を脅かす大軍拡はやめるべきです。答弁を求めます。
共同声明が、沖縄辺野古新基地建設の着実な実施が極めて重要などとしたことは看過できません。衆議院で我が党の赤嶺政賢議員が指摘したように、来年度末の時点で埋立ては二割に満たないにもかかわらず、予算は八割を使ってしまう計算です。見積りを超過することは明らかです。政治的にも技術的にも財政的にも破綻した辺野古新基地建設は、中止すべきです。答弁を求めます。
共同声明に、沖縄で相次ぐ米兵による性暴力事件に言及がないのはなぜですか。約一年で少なくとも五件もの米兵の性犯罪事件が発覚しました。玉城デニー知事は、米軍が実施している再発防止策の実効性に強い疑念を持たざるを得ないと述べています。日本政府は、綱紀粛正を求めると米側の主張をただ繰り返すのではなく、実効ある対策とその検証を求めるべきではありませんか。
共同声明は、米軍基地周辺で広がるPFAS汚染の問題にも触れていません。沖縄県の専門家会議は四日、米軍が新たに導入した泡消火剤にしか含まれない成分が基地周辺の地下水から検出されたことなどから、基地が汚染源だと結論付けました。ところが、政府は、米軍との因果関係は不明と逃げ回っています。先日、政府に対策を要請した市民団体、宜野湾ちゅら水会は、現状を人権侵害だと批判しています。基地への立入りを含め、日米両政府が責任を持って調査し、直ちに対策を求めるべきではありませんか。
米兵による犯罪や基地由来の環境破壊、米軍機による事故などの際、必ず立ちはだかるのが日米地位協定の壁です。総理の持論はその改定だと聞きます。トランプ氏に抜本的な改定を求めなかったのですか。お答えください。
総理は首脳会談で、対米投資を一兆ドル、約百五十兆円に引き上げると表明しました。トランプ氏が日本に求める貿易赤字解消に協力して巨額の対米投資をあおるのではなく、物価高騰に苦しむ国民生活を支えるために、国内での設備投資や大幅賃上げを実現する実効的な政策こそ今政治に求められているのではありませんか。
トランプ流の横暴勝手をただそうともせず、国民そっちのけで日米一体の軍事体制強化に邁進する。総理はかつて著書で日本はまだ真の独立国とは言えないと記しましたが、まるで忘れてしまったかのようです。到底委ねることはできません。日米同盟絶対のゆがみを正す本物の改革こそ必要であることを強調し、質問といたします。(拍手)
〔内閣総理大臣石破茂君登壇、拍手〕
○内閣総理大臣(石破茂君) 山添拓議員の御質問にお答え申し上げます。
トランプ大統領とのやり取りについてでございますが、対話相手のいかんにかかわらず、各国首脳と国際社会の諸課題について率直に意見を交わすためには、まず、先方と信頼関係を構築をし、諸課題に係る認識を一致させるということが第一でございます。
さきの日米首脳会談の内容の詳細に関しましては、外交上のやり取りでございますので詳細を御紹介をすることはいたしませんが、率直な意見交換を通じまして大統領の信頼関係構築に向けた一歩とすることができたと、このように意味のある成果であったと考えております。
ガザに対する発言についてでありますが、アメリカの中におきまして様々な議論がある現段階において、大統領による発言の逐一について日本政府として見解を述べることは適切ではございません。その推移を注意深く見極めていきたいと考えておりますが、その上で我が国として二国家解決を支持する立場には全く変わりはございません。関係国・機関とも緊密に意思疎通をしながら、喫緊の人道支援に加えまして、中長期的な復旧復興支援においても積極的に役割を果たしてまいります。
ICCへの制裁に関する共同声明についてでございます。
御指摘に関します我が国の対応につきましては、様々な要素を総合的に勘案した上で決定したものでありますが、個別の声明の交渉経緯等につきましては差し控えるものといたします。
我が国は、重大な犯罪行為の撲滅と予防、法の支配の徹底のため、世界初の常設国際刑事法廷であり、元最高検検事、我が国の元最高検検事で我が国出身の赤根智子氏を所長とする国際刑事裁判所、ICCを一貫して支持をしてきております。そのICCが独立性を維持し、安全を確保しながらその活動が全うできますよう、今後の関連の動向を重大な関心を持って引き続き注視をいたしてまいります。
パリ協定の扱い、LNGの位置付けについてでございます。
日米両国、そして国際社会が直面する課題は実に多いのでありまして、今回の首脳会談で全てを取り上げるような、そのような時間的な余裕はないことは御理解いただけると存じます。その上で、世界の気候変動対策へのアメリカの関与は引き続き重要と認識をしておりまして、アメリカとの協力を探求しつつ、気候変動問題には積極的に今後とも取り組んでまいります。
LNGは、化石燃料の中で温室効果ガスの排出が最も少ないものでございます。再生可能エネルギーの調整電源の中心的な役割を果たすものでありまして、日本へのLNG輸出増加を含む日米エネルギー協力の強化は気候変動対応に完全に逆行するとの御指摘は全く当たるものではございません。
外交姿勢の認識についてであります。
大統領を含めまして、他国の首脳の理念、外交手法について解説したり批評したりはいたしません。
その上で、アメリカにはアメリカの国益があり、各同盟国には各同盟国の国益がございます。これをお互いに追求することは当然のことでございます。むしろ、だからこそ率直に意見を交わし、両者の国益を相乗的に高め合うことが最善であると、このように考えております。日米関係につきましても、このような議論を通じまして同盟を更なる高みに引き上げたいと、このように考えておるところでございます。
二〇二七年度より後の防衛力強化についてでございます。
現行の国家防衛戦略におきましては、「防衛力の抜本的強化は、将来にわたり、維持・強化していく必要がある。」とされており、今般の共同声明における、二〇二七年度より後も抜本的に防衛力を強化していくこととは、現行の国家安全保障戦略等に基づく取組を示すものでございます。
その上で、二〇二七年度より後の防衛力整備の具体的な内容につきましては、その時点での安全保障環境などを踏まえまして、何が必要かを検討し、実施すべき事項を積み上げるということになります。当然のことでございます。
南西諸島へのミサイル部隊配備を含む防衛力強化についてでありますが、令和七年度に配備を予定しております一二式地対艦誘導弾能力向上型の具体的な配備場所につきましては、現在検討中でございまして、総合的に検討いたしました上で適切な時期に決定をいたしてまいります。配備に当たりましては、地元の皆様の御理解が得られますように、丁寧な御説明、丁寧な説明や適切な情報提供に努めてまいります。
南西地域の防衛強化を含む防衛力の抜本的強化、日米同盟の対処力の強化は、抑止力を向上させ、我が国に対する武力攻撃そのものの可能性を低下させることにつながるものであります。地元の皆様の御理解が得られますよう努めてまいりますとともに、防衛力の抜本的強化の取組を着実に進めてまいります。
普天間飛行場につきましては、辺野古移設が唯一の解決策であるという方針に基づきまして着実に工事を進めていくことが、一日も早い全面返還を実現し、危険性を除去することにつながるものでございます。
その上で、普天間飛行場代替施設建設事業につきましては、有識者の御助言も得つつ、十分に技術的検討が行われ、飛行場として問題なく建設可能なものであると承知をいたしております。工事費につきましては、引き続き抑制に努めてまいります。
今後とも、様々な機会を通じまして地元の皆様への丁寧な説明を行いながら、移設工事を着実に進めてまいります。
在日米軍によります性犯罪についてでございます。
昨年は、沖縄における米軍関係者による性犯罪が三件起訴に至りました。米軍関係者による性犯罪はあってはならないものであり、こうした事件が相次いで発生したことを政府といたしましては極めて深刻に受け止めております。さきの首脳会談の場でも沖縄の負担軽減の必要性を説明したところであります。
昨年七月の発表を含めまして、これまでに米側が発表した一連の再発防止策が実際に事件、事故の再発防止につながるということが重要であります。米側に対しましては、在日米軍の綱紀粛正と再発防止の徹底を働きかけてもおり、引き続き、こうした働きかけを行うとともに、日米間で協力をいたしてまいります。
PFOS等についてお尋ねがございました。
PFOS等をめぐる問題につきまして、地域住民の皆様方が御不安を抱えておられるということは十分に承知をいたしております。
PFOS等は日本国内においてこれまでも様々な用途に使用されてきたものでございまして、現時点でPFOS等の検出と在日米軍との因果関係につきまして確たることを申し上げることは困難であります。
その上で、在日米軍との関係では、これまでも現にPFOS等の漏出が起こりました際には、環境補足協定に従い、在日米軍施設・区域への立入り等を実施してきておるところであります。
政府といたしましては、引き続き、関係自治体、関係省庁、在日米軍とも緊密に連携し、必要な対応を行ってまいります。
地位協定の改定についてでございます。
さきのトランプ大統領との首脳会談におきましては、まずは強固な信頼関係を築くことを重視し、安全保障分野を含む日米関係全般について意見交換を行い、日米同盟の抑止力、対処力を高め、日米が直面する地域の戦略的課題に緊密に連携して向き合っていくことで一致をいたしました。私から沖縄の負担軽減の必要性を説明をいたしました。
地位協定につきましては、自民党のアジアにおける安全保障のあり方特命委員会におきまして議論が行われているところでございますが、党における議論も踏まえつつ、日米同盟の抑止力、対処力を強化するとともに、在日米軍の信頼性、同盟の強靱性、持続性を高めていくという観点から検討し、適切に判断をいたします。
対米投資拡大の是非についてでございます。
今回、大統領に対しまして、私から、対米投資額を一兆ドルといういまだかつてない規模に引き上げたい、共にそのために取り組みたいという強い意思を伝えたところでございます。
これは、AIや先端半導体などの技術分野、エネルギー分野を始め、双方に利益がある形で協力していくことを考えておるところであります。日米は互いの国において最大規模の海外直接投資と質の高い雇用を創出しておりまして、こうした関係は我が国の経済、産業にも大きく寄与するものでございます。
同時に、国内投資の更なる拡大も、内閣が掲げます賃上げと投資が牽引する成長型経済の実現に向けて極めて重要なものでございます。年間で、二〇三〇年度百三十五兆円、二〇四〇年度二百兆円という新たな官民目標の実現に向けまして、国内投資を積極的に促進をいたしてまいります。
以上であります。