2016年・第192臨時国会
- 2016年11月21日
- TPP特別委員会
ISDS条項 司法権まで侵害 TPP撤退求める
- 要約
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- 山添議員はTPP特別委員会で、ISDS(投資家対国家紛争解決)条項について、投資先の国の司法権さえ侵害する危険があることを明らかにしました。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
私からは、十六日に続きまして、ISDS条項に関わって改めて質問をさせていただきたい。
そもそも、なぜ国内の司法手続、裁判手続とは別にISDS条項を盛り込む必要があるのか、このことについて外務省の資料の中にはこういうふうにあります。投資家には、投資受入れ国との間で紛争が起こった場合、投資受入れ国の裁判所が投資受入れ国の政府等に対して不当に有利な判断を下しはしないかという中立性に対する不安があるのだと、こう書いてあります。
基本的には、先進国の企業の投資先となる発展途上国の司法制度の不備を理由として、投資先国の司法権を排除するために導入されたのがISDS条項だと言えます。このISDS条項そのものは一九六〇年代から投資協定に盛り込まれてきましたが、八〇年代後半までは利用すらされてきませんでした。ところが、NAFTAが先進国同士の自由貿易協定で初めて導入し、アメリカのエチル社がカナダ政府に対して九八年に仲裁提起をした。これをきっかけに利用が急増し、二〇一五年に至っては年間七十件も提訴されるに至っています。
そこで、ISDSの濫用防止、むやみに提訴されない仕組みをつくろうと求められるようになりました。十六日に質問した際に、大臣は、NAFTAなどにはない濫用防止の規定として、TPPには、法的根拠のない申立て等を迅速に却下できる規定、その場合の申立て費用を投資家に負担させることができるという規定、これを挙げました。これは私は必ずしも正確ではないと思います。
TPPで新しく規定されたもの、NAFTAで利用できる規則や、あるいは日本がほかの国と締結しているEPAなどで規定されていないTPPに固有の規定というのはどんなものか、これを外務省に御説明いただきたいと思います。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
TPPにおいて、濫訴防止につながる規定として、投資章の中に幾つかございます。一つは、第九章の二十三条にあります法的根拠のない申立て等については迅速に却下することができる規定。二つ目は、第二十四条にございますけれども、仲裁廷において、全ての事案の審理、裁定等を原則として公開することを義務付ける規定。三つ目に、これは二十一条でございますけれども、申立て期間を一定の期間、この場合は三年六か月でございますが、に制限する規定。四つ目として、懲罰的損害賠償を命じることはできないとする規定、これは二十九条でございます。さらに、申立てに根拠がないと認められる場合、仲裁手続費用等を投資家に負担させることができる規定。こういうものがございますが、御質問のNAFTAに関しては、裁定の公表、申立て期間の制限、さらには懲罰的損害賠償を禁止する規定、こういうものは定められておりますけれども、審理の公開というものについてはNAFTAには規定がないものと承知しております。
○山添拓君 請求が明白に法的根拠を欠いている旨の異議が出せるということもおっしゃったんですけれども、これに類する申立てを迅速に却下できる規定自体はほかの協定などにも入っています。しかも、明白に法的根拠を欠いている訴えですから、速やかに却下されるのは当たり前のことです。この場合に申し立てた側が費用を負担するというのも、アメリカの国内の契約書などでは通常は入っているものだと聞いています。ですから、それでもアメリカは訴訟社会だと言われていますので、特に濫訴防止の効果が大きいということではないと。今、審理の公開についても濫訴を防止するものだと説明がありましたけれども、これも、全事案を原則として公開するというのが新しいだけで、NAFTAにおいても公開すること自体は可能な規定となっているかと思います。結局、いずれも目新しい規定とは言えないのではないかと指摘したいと思います。
そこで、さらに、このISDSと司法との関係を問題としたいと思います。
ISDSが国内裁判所と別に国際仲裁を認めることから、国内の司法判断を仲裁判断が否定するような事件が起きています。アメリカの石油会社のシェブロンとエクアドルの事件について、どんな事件か、御説明をお願いします。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
御指摘のシェブロン社とエクアドル政府との仲裁でございますけれども、実はこれは米国とエクアドルの間の投資協定に基づくISDSによる仲裁手続だと承知しています。我が国はこの協定の当事者ではございません。さらに、この事案についての当事国でもございません。さらに、まだ最終的な裁定も下されているわけではございません。したがって、正式なコメントをするということは非常に難しいということをまず御理解いただいた上で、御質問でございますので、事案の概要ということをお答え申し上げます。
これは、米国企業のシェブロン社がエクアドル政府を相手に、環境への影響をめぐるエクアドル政府の対応について、先ほど申し上げました米・エクアドル投資協定に基づくISDSによる仲裁手続を提起したものであるというふうに承知しております。
この事案においては、仲裁廷は、エクアドル国内で提起されたシェブロン社を被告とする環境破壊に対する損害賠償請求訴訟に関して、暫定的な保全措置として百八十億ドルの支払を命じる国内判決の執行停止を命じたところでございます。ただし、この暫定的な保全措置命令は、エクアドルの国内裁判が適正手続に反して進められ、その判決は国内法にも明白に反する不公正なものであるというシェブロン社の申立てを受けて仲裁廷が判断したものであるというふうに承知しております。また、この暫定的な保全措置命令は、仲裁廷の最終的な裁定が発出されるまで、あくまでも暫定的に効力を有するものというふうに承知しております。
いずれにしても、本事案は現在係属中であるというふうに承知しております。
○山添拓君 この事件では、御説明があったとおり、国内裁判で環境や健康に対して被害を受けてきた住民側が石油会社に対して裁判を起こした、そこで勝訴したと。にもかかわらず、その判決の停止、暫定的な措置だとありましたが、いずれにしても判決の効力を停止するような命令をされているわけです。司法判断を否定するものです。しかも、政府に対して判決の効力を停止するように求めるということですから、行政権が司法権に対してその効力を止めろと命じるように求めるんだと、三権分立にも反する事態が生じています。
TPPにおいても同様のことが起こり得ると考えます。十六日にも少し伺いましたが、外国投資家がまず日本政府に対して日本国内で裁判を起こす、日本ではその主張が認められずに投資家が敗訴をする、その判決が確定した後にISDSで仲裁判断を求めたところ、仲裁廷では投資家が勝訴する判断が出される、逆転するということが起こり得るわけです。
国内で勝って仲裁で負けた場合、日本政府がそのような立場に立った場合、投資家に対して賠償金を支払うんでしょうか、支払わない場合があり得るんでしょうか。これは石原大臣にお答えいただきたいと思います。
○国務大臣(石原伸晃君) 今のエクアドルの話とは別に一般論としてお話しさせていただきたいと思いますけれども、委員の御指摘は、同一の紛争についてISDS手続による仲裁判定と国内審の裁判の判断の両方が存在して、なおかつその双方の判断が異なって、賠償を払うのか、払わないのかと、そういう御指摘だと聞かせていただきましたが、それはその国の司法制度がどの程度のものであるか、これは他国について言及することは控えさせていただきますけれども、仮に我が国の、委員は法曹界に身を置く方ですから、一番、私などよりも日本の法曹界の中立性、厳正性というものは御承知されていると思いますけれども、透明、公正な法制度、そして、そういうものがなされているこれまでの判例、すなわち行政側が訴えても日本の裁判というのはよく負けるわけですね、行政側が。それは、ある意味では極めて公正中立な判断がなされている。そういうものと外国のものとを単純に比較してどうかと私が答えることはなかなか難しいということは是非御理解いただきたいと思います。
○山添拓君 いや、そういうことを前提として、基本的には支払うということなのか、それとも支払わない場合もあり得ると想定しているのか、これをお答えいただきたいんですが。
○国務大臣(石原伸晃君) 先ほど、くどいようですけれども、エクアドルの件とは全く別に、日本国内でというような仮定になってしまうのですけれども、仮にISDSによる仲裁判断と我が国のこの判断が違って、そういう例外的なことが仮に起こったとして、我が国の立場は、やはり条約を遵守するという立場から仲裁判断に従うということが考えられるんじゃないでしょうか。
○山添拓君 そうですね。TPP協定の中には、一方の紛争当事者は遅滞なく裁定に従うとなっていますから、支払を拒否するということは考えていないということではないかと思います。
そこで、最もよく利用されているICSIDという仲裁廷を利用する場合、TPPでもそれが想定されていると思いますが、その仲裁裁定の日本国内における効力はどのようになるのか、これを外務省にお答えいただきたいと思います。
○政府参考人(山野内勘二君) お答え申し上げます。
委員御指摘のICSIDと申しますのは、国家と他の国家の国民との間の投資紛争の解決に関する条約に基づいて設立されています投資紛争解決国際センターのことであるということでございます。
このいわゆるICSID条約の第五十三条におきましては、紛争の各当事者は、原則として、仲裁判断の条項に服さなければならないというふうに規定されているところでございます。したがって、我が国が紛争当事者となったICSID条約に基づく仲裁において、仮に我が国が賠償義務を負う旨の仲裁判断が出された場合には、我が国はこれに従うということになるわけでございます。
○山添拓君 先ほど石原大臣の答弁の中では基本的には従うということがありましたけれども、従わないケースがあることも前提として、二月に法務省、外務省、内閣官房の方で政府統一見解というものを出されています。裁判所と仲裁廷とで異なった判断が出された場合、それは執行手続に進むのだということが書かれています。その際には、仲裁法に基づいて国内で承認という手続がされるんだと。これは間違いないでしょうか。外務省、お答えください。
○政府参考人(山野内勘二君) 仲裁法の話でございますので外務省に有権解釈があるとは思いませんけれども、この法律を見ますならば、その第四十五条におきまして、仲裁判断は確定判決と同一の効力を有するということが書かれてございます。この確定判決と同一の効力を有するということで、それによって執行決定がなされなければならないということが第四十五条の第一項に書かれております。
○山添拓君 仲裁法の適用があるのかどうかということは外務省の方でお答えいただくということで事前に伺っていますので、お答えいただけますか。
○政府参考人(山野内勘二君) 我が国が、先ほど申しましたように、この仲裁判断に従うということになって、投資家が我が国の裁判所において執行を求めるということを希望する場合には、この判断は我が国の仲裁法に規定されるところの仲裁判断として扱われ、仲裁法第八章の規定に従った執行手続が取られることになるというふうに承知しております。
○山添拓君 仲裁判断というのは裁判官がするものではないので、その承認という形で裁判所が権威付けをするんだということだと思います。
日本政府が負けても支払わない場合があり得るということを前提にしている、先ほど紹介した政府統一見解はそういうものだと思いますが、政府が支払わない場合には投資家が日本の裁判所に執行手続を申し立てることになります。民事執行手続を裁判所に申し立てることで当該裁判所で決することもあるとしているのが政府の統一見解です。
この執行手続の中では、日本政府はどのようなことを主張できるんでしょうか。法務大臣、お答えください。
○国務大臣(金田勝年君) ただいま委員が御指摘になりました点については、TPP協定のISDS条項に基づきます仲裁判断が仲裁法上の承認及び執行の対象となる場合において、仲裁法では、仲裁判断の内容が日本における公序良俗に反するときなどにその仲裁判断は承認及び執行されないと。したがって、一般論としましては、個別の事案により裁判所においてこのような事由があるものとされれば執行決定はされないということになります。
○山添拓君 公序良俗に反する、こういう主張ができるということなんですけれども、日本国内で例えば最高裁が投資家の請求は認めないという判断を下しているのにISDSで逆の判断がされたという場合に、それは国内の公序良俗違反じゃないんでしょうか。最高裁の判決が公の秩序を構成するものじゃないかと思いますけれども、法務大臣、この点はどうでしょうか。
○国務大臣(金田勝年君) 個別の事案ごとに裁判所が判断するものでありまして、法務大臣としては一概にお答えすることは困難であります。
○山添拓君 個別の事案によっては最高裁の判決ですら否定される場合もあるということなんでしょうか。法務大臣。
○国務大臣(金田勝年君) 裁判所が個別の事案ごとに判断する、まあ一般論として言えば、我が国の確定判決と矛盾する仲裁判断が公序良俗に反するとされることも事案によってはあり得るということであります。
○山添拓君 公序良俗に反すると最高裁判決が出ているわけですから、それと矛盾するような仲裁判断というのは、そういうこともあり得るだろうという答弁かと思います。
結局、今の答弁の流れを整理しますと、最終的に投資家が執行したときに執行裁判所でどっちにするか決めるんだと、執行の段階でISDSの判断が覆ることもあり得るんだと、こういうことになっているわけです。そうすると、ISDSの判断に遅滞なく従うという協定上の規定には反することになるんじゃないかと思いますが、外務大臣、いかがでしょうか。
○国務大臣(岸田文雄君) これはあくまで理論上で申し上げるならば、理論的可能性として申し上げるわけですが、これは国内裁判所の判断によって仲裁廷による裁定の執行が認められない場合についてですが、その場合には、政府として裁定の執行を求める外国人投資家と協議するなど、その裁定の趣旨と国内裁判所の判断と、この双方を踏まえた代替的な対応を図ることによって、ISDS手続そのものを無意味にしないよう確保することになると考えられます。
○山添拓君 結局、それはISDSを優先するんだと、仲裁の裁定を優先するんだということだと思います。
日本の最高裁で企業側が負ける判決が確定しても企業としては仲裁廷で紛争を蒸し返す、そこで勝訴を収めるというケースは十分に考えられますが、その場合にISDSを尊重して解決を図るということであれば、これはまさに主権の侵害ではないかと思います。
国内裁判の判断と仲裁廷の判断、これ異なる場合に、仲裁判断を受け入れるかどうか、その都度執行裁判所で考えて、あるいは協定を尊重して投資家と協議をするということになれば、初めから日本の裁判手続のみにしておけばいいわけです。ISDS条項など意味を成さないと思いますが、最後に石原大臣、お答えください。石原大臣にお答えいただきたい。
○国務大臣(岸田文雄君) 先ほど申し上げましたのは、御質問いただきましたので、理論的な可能性として申し上げた次第であります。
そもそも現実においては、このISDS条項、我が国はこれまでの経済連携のときと同様に、TPPの場合においても厳密に国内法との調整を行って、そして留保等の例外を設けて、提訴に至らないようしっかり万全の体制で臨んでいます。そして、TPP自体も従来の経済連携以上に重い条件を課している。先ほど委員が質疑の中で確認していただいたとおりであります。
こういったことから、現実問題、我が国が提訴される可能性はないということを申し上げさせていただいております。その上で、御質問いただきましたので、理論的な可能性として先ほど申し上げた次第であります。
よって、結論としましては、御指摘のような心配、懸念はないと考えております。
○委員長(林芳正君) 時間が参りましたので、まとめてください。
○山添拓君 懸念される事態は世界各地で既に起こっていますので、決して納得できないということを述べて、質問を終わります。