2016年・第192臨時国会
- 2016年12月1日
- 国土交通委員会
道路運送法案 自動車運転手の実態調査、及び改善基準告示の法制化求める
- 要約
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- 今年1月に起こったスキーバス事故を受け、事業許可の更新を導入する道路運送法改正が全会一致で採択される。
- 山添議員は頻発するバス事故の根本解決には、バス事業の規制緩和是正と運転手の労働環境改善が不可欠だと主張。賃金の実態調査と改善基準告示の法制化を求めた。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
私からも、今年一月の軽井沢スキーバス事故によって亡くなられた十五名の方に御冥福をお祈りするとともに、けがをされた方、御遺族の方々に心からお見舞いを申し上げます。
この法案は、その事故を受けて、こうした悲惨な事故を二度と起こさない決意の下に提案されていると承知をしています。法令違反の早期是正、不適格者の排除、監督の実効性向上などはもとより必要なことだと考えますが、事故が起きるたびに幾らか規制を強化するという言わば場当たり的な対応では根本的な解決につながるものではないと感じます。二〇〇〇年の規制緩和により貸切りバス事業が免許制から許可制に移行され、需給調整規制が廃止され競争にさらされました。加えて、労働法制が規制を緩和されることによって、バス運転手の非正規化あるいは低賃金化も進みました。若者の担い手が減り労働者が不足し、結果として経験や技量が不足する、あるいは高齢の労働者が増えることになったわけです。
バス事業者の数、先ほど来言われていますとおり倍に増えたと。資料の一には労働時間と賃金の推移を載せておきましたが、競争が激しくなった結果、バス運転手の平均賃金、これ、貸切りバスだけではありませんが、二〇〇〇年に月三十七万円だったのが、一五年には三十万八千円になったと。全産業の平均を四万円近く上回っていたのが、逆に二万五千円下回る結果となっています。一方で、労働時間は変わらない。全産業平均と比べて所定外労働時間、三十時間近くも長い状態が続いていると。
国交大臣にお伺いしますが、規制緩和が行き過ぎた競争を引き起こし、労働条件の悪化をもたらした、結果として安全性の確保が置き去りにされた、そのことを受けて今度の法改正が必要になった。この事実をどう認識されているか、改めて伺いたいと思います。
○国務大臣(石井啓一君) 貸切りバス事業につきましては、これまで需給調整の廃止や運賃等についての規制緩和を行ってきたところであります。これらの措置は、サービスの多様化など利用者の利便向上という点で成果を上げていると認識をしております。一方で、安全、安心なサービスの確保は最重要の課題であり、これらの規制緩和は安全に関する規制を緩和したものではございません。
なお、貸切りバスの運賃、料金につきましては、平成二十六年四月から、安全に係るコストを反映した新たな制度を導入しておりまして、平成二十八年二月のアンケートによりますと、この新制度の前後において適正な運賃、料金を収受している貸切りバス事業者の割合は二割から八割に増加をしているところでございます。
国土交通省といたしましては、貸切りバスの運賃、料金を適正なものにすることがバス運転者の収入の向上に直結すること、また、軽井沢スキーバス事故において下限割れ運賃の収受が明らかになったことを踏まえまして、新運賃制度の更なる定着を図るため、旅行会社に提出する運送引受書に運賃、料金の上限・下限額を明記することの義務付け、国土交通省に設置をいたしました下限割れ運賃に関する通報窓口の活用、過大な手数料の第三者委員会における検証等の措置を講じてまいります。
また、バス運転者の労働環境の維持向上を図ることは、安全を確保するためにも重要であると考えております。運行管理者の配置基準の厳格化等によりまして、バス運転者の労働条件を定めました改善基準告示の遵守を徹底してまいりたいと存じます。
○山添拓君 事故は繰り返し起きてきているわけですね。今の御答弁では、バス事業や労働法制の規制緩和が今日の事態を招いているということへの反省が感じられないと思います。
二〇一二年の関越道の事故以前にも、二〇〇七年には大阪府の吹田市で二十七名死傷するスキーバスの事故もありました。資料の二には特別重大事故のリストを掲げておきましたが、乗客の死傷事故が繰り返し発生をしています。そのたびに、根本的な原因として規制緩和、批判をされてきました。ところが反省がないと。これ、大事故を繰り返すような規制緩和がサービスの向上をもたらした、利便性の向上をもたらした、こういうふうには到底言えないと私は思います。
先ほど大臣も、労働条件の維持、改善、大事なことだと認識を示されておりました。私も、バスの安全を確保するために、乗客の命を預かることになるバス運転手の働き方の改善、緊急かつ避けられない課題だと考えます。
貸切りバスの事業者、運転者の雇用形態、非正規や正規、あるいは派遣かどうか、賃金や労働時間、社会保険の加入状況など、その実態は把握されているでしょうか。厚労省にお尋ねします。
○政府参考人(安藤よし子君) バス事業における賃金、労働時間等についてでございますが、厚生労働省が実施をしております賃金構造基本統計調査によりますと、貸切りバス、乗り合いバス等の営業用バス運転者の平成二十七年六月の労働時間数及び賃金額につきましては、所定内実労働時間数が百六十九時間、超過実労働時間数が四十時間、所定内給与額が二十三万七千円、これに残業代などを加えました決まって支給する現金給与総額が三十万八千三百円となっております。
雇用形態につきましては、総務省が実施しております平成二十六年経済センサス基礎調査によりますと、一般貸切り旅客自動車運送業における雇用者に占める正社員、正職員の割合は六四・八%であると承知しております。
社会保険の加入状況につきましては、社会保険の適用事業所のうち貸切りバス事業等の事業所が何事業所適用されているかについて個別に把握はしておりませんので、当該事業所に勤務する従業員の社会保険の加入状況についてお答えすることは困難でございます。
○山添拓君 把握されていないことが非常に多いということなんですね。
今、賃金や労働時間については資料一の数字を基に御説明いただきましたが、これは常時十人以上を雇用する事業者だけの数字です。
資料の三を御覧いただきますと、貸切りバスの事業者の七割が保有車両十台未満、五五・四%が従業員十人未満の小規模事業者です。そして、小規模事業者ほど収支の状況も悪い傾向にあります。御説明いただいた以上に、賃金や労働時間の水準が過酷な就労実態があると想像がされます。
今日、厚労政務官もおいでいただいていますので、通告はしておりませんが、是非今の点も踏まえて詳細な実態調査、とりわけ貸切りバスの事業者に関わって行っていただくべきだと思いますので、この点は要望をお伝えしたいと思います。
こうした乗客の安全担保するために重要なのが運転手の労働条件、特に労働時間です。そこで、バス運転手さんの労働時間の改善基準告示に関わってお聞きします。
資料の四にその中身があります。拘束時間一日十三時間、延長すれば十六時間にできる。終業から始業までインターバル、これ八時間などとされています。基準の範囲内で業務に従事しても、一か月に八十時間から百十時間の時間外労働が可能な基準になっています。過労死ラインを超える時間外労働を可能とする基準というのはおかしいんじゃないか。
拘束時間を短くする、インターバル時間を長くするなど、労働時間の規制強化することは検討されているでしょうか。厚労省、お願いします。
○大臣政務官(堀内詔子君) 全ての働く方々、そしてまた、特に自動車運転者を始めとする皆様方が安心、安全な労働環境を確保することは大変重要かつ大切なことだと思っております。そのために、まず企業においてそのルールが守られているということが大切であります。
けれども、ここ数年を見ても、労働基準監督機関が監督指導を行った自動車運転者をする事業場のうち、例えば平成二十七年度においては三千八百三十六件でございますが、そのうち、労働基準法等違反が三千二百五十八件、つまり全体の八四・九%であり、改善基準告示違反が二千四百二十九件、六三・三%もございます。そういった高い違反率があるといった状況にございます。このために、労働基準監督機関では、自動車運転者の労働条件確保、改善のために、地方運輸機関との合同の監督、監査や相互通報制度も実施しながらその履行確保の徹底を今図っているところでございます。
引き続き、改善基準告示について関係労使団体を通じた皆様方に広く知っていただくこと、そして的確な監督指導を行うとともに、国土交通省ともしっかりとした連携をしながらその遵守の徹底に努めてまいりたいと思っております。
改善基準告示の内容につきましては、労働基準法による規制にまた上乗せの規制を課しているものなのであり、これをより厳しく見直すことについては、その事業所の運営にどのような影響があるかということも見極めながら、関係労使の御意見も伺いながら慎重に判断していく必要があると考えております。
○山添拓君 いや、労基法を上回る規制であっても、過労死ラインを超えて働かせることがいいのか、これを容認するのかということが問題なんですよ。
現に、過労死全体の三割が自動車の運転者とされています。機能していないということじゃないかと思います。なぜこれを放置するのかと。強化することを検討もされていないということなんでしょうか。もう一度お願いします。
○大臣政務官(堀内詔子君) お答えいたします。
まず、告示を守っていただく、そういったことが大事だと思っておりますので、そのことから努めてまいりたいと思っております。
○山添拓君 守っていただくということなんですが、罰則もなく法的拘束力がない、だから実効性が乏しいということも指摘をされているわけです。
厚労省は、改善基準告示の法規制化については検討しているでしょうか。できないとすれば、それはなぜか。先ほどの回答と重ならない限度で、端的にお願いしたいと思います。
○大臣政務官(堀内詔子君) タクシー、トラック、バスといった自動車運転者の方々にも労働基準法がもちろん適用されていて、その上に、長い手待ち時間を含めた拘束時間や、長時間労働になりやすいといった、そういった業務の特性があるために労働基準法では規制がない、更に上乗せの規定をしている告示という形で定めることとなったものでありまして、その告示の制定に当たっては、当時関係する業界の労使の方々に集まっていただいて、実情を踏まえた丁寧な丁寧な論議を重ねていただいて、そして合意形成を図りながら定めてきたものであります。
本告示の法制化については、自動車運転者のみに現行の労働基準法を上回る罰則付きの義務付けを行うこととなるため、こうした過去の経緯に鑑み、関係する労使における合意形成を図ることはなかなか難しいのではないかと考えております。
○山添拓君 極めて後ろ向きな答弁だと思います。業務の特性があるからこそ、労基法を上回る規制がされているんですよ。それはやっぱり乗客の安全に直結する課題だからこそ、告示をこれから強化し、あるいは法規制で実効性を高めることが求められているんだと思います。
資料の二に、事故件数改めてお示ししますが四十二件、特別重大事故、改善基準告示違反で事故に至っているケース、四十二件中十四件です。頻発しているんですよ。
これまで労使の対応に委ねてきた、労使の合意の限りに任せてきた、そのために現実には使用者が労働者に対して基準告示違反の乗務を強いてきた。その結果、重大事故が繰り返されているわけです。それでも法制化、罰則付きにするということは検討されないということなのか、これは非常に問題だと思います。
これで、改善基準告示に罰則がない、ところが一方では、道路交通法の六十六条に過労運転を禁止する規定があると。その違反の有無を判断するに当たっては、改善基準に違反していたという事実が考慮されるというふうにも伺っています。
実際、どういう弊害が起きているかと。私、神奈川県の路線バスの運転手から伺った話なんですが、改善基準告示には連続運転時間の上限四時間という規制があります。運行計画の上では基準違反の中に収まるようにダイヤが組まれているんですが、しかし実態と合っていないと。安全確認をしたり接客の対応をしたり、あるいは回送時間などを合わせるとそもそも四時間以内には収まらない、事故や渋滞、不測の事態でなくても上限を上回ってしまうという実態があるそうです。四時間を超える場合には本来は代わりの車を用意したり、代わりの運転手を用意したり、こういうことが必要です。しかし、超えても違法にはならない、だから四時間を超える業務を命じてくるわけです。
運転手は、指示に従わなければ業務命令違反になりますから、従わざるを得ないと。ところが、従って上限時間を超えて運転すると、事故にでもなれば過労運転で罪にも問われると。違反点数二十五点です。免許取消しです。三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金、重い責任も問われると。改善基準告示に強制力がないために、安全運行の確保が現場の労働者の自己責任とされている。これ、理不尽じゃないでしょうか。改善基準告示は国交省令にも取り込まれていますが、罰則はありません。
大臣、乗客の安全のためにやはり法制化が必要じゃないでしょうか。今、安倍政権が働き方改革だ、長時間労働の是正だと言っています。国土交通行政の分野で実行できる長時間労働の規制の分野です。どうか前向きに検討いただきたいと思っています。
この点最後にお伺いして、質問を終わりたいと思います。