2017年・第193通常国会
- 2017年6月1日
- 法務委員会
共謀罪法案参考人質疑 組織的犯罪集団への所属必要なし
- 要約
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- 本法案によって人権規約でのプライバシー権や憲法上の権利を侵害されてしまういった懸念が表明されていることについて、意見をお聞きしました。
- 「共謀罪の処罰では組織的犯罪集団に加わっているかに着目する」との政府の説明について、松宮参考人に意見をお聞きしました。松宮参考人は、法案では犯罪の遂行を2人以上で計画した主体は自然人であることや、条文の文言では計画した人物が組織に属することを要しないと指摘。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
三名の参考人の皆さん、今日は急なお願いにもかかわらずおいでいただきまして、大変ありがとうございます。
私から、まず西村参考人、そして新倉参考人にお伺いいたします。
今も少し話もあったところですが、TOC条約の締結のための国内担保法が必要だということなんですが、そうだとしても、国際人権規約で保障されるプライバシーの権利やあるいは憲法の十三条や十九条、こういった権利を侵すような、それに反するようなものではあってならない、そして、そういった点についての懸念が表明されていることに対してはこれが十分払拭されることが最低限必要ではないかと思いますが、この点についての御意見をお聞かせください。
○参考人(西村幸三君) ケナタッチ氏という国連特別報告者の方の大部な質問状ですけれども、私も拝読いたしました。ただ、質問そのものに対する疑問の方が多くて、本当に十分にこの組織的犯罪処罰法、現行のものと改正法を両方理解されているのかということが実は非常に疑問に感じております。
まず、六条といって、英文で、六条の二、一について翻訳されているんですけれども、そこで英訳が正確なんだろうかというふうに考えられるところがございます。結合目的の基礎としてのという記載が英訳にはなくて、その英訳を翻訳した日本語訳にはあるというふうに私は見受けます。どういう翻訳をしたのかなと思って、グーグル翻訳で試しに実は翻訳をしてみましたところ、ちゃんとグーグル翻訳では、アザー・ファウンデーション・オブ・ザ・ボンド・リレーションシップというふうにちゃんと出てくるんですね。つまり、グーグル翻訳でもできるはずの作業がちょっとここではされていないかもしれないと。ただ、これが縛りなので、六条のですね、そもそもちょっと前提事実の御認識がどうなのかなというふうには感じております。
また、実はその……(発言する者あり)
○委員長(秋野公造君) ちょっと、山添さん、止めますか。
山添拓君。
○山添拓君 大変恐縮です。私が伺いたかったのは、国内担保法を作っていくに当たって、人権規約で保障されるプライバシー権、あるいは憲法上の権利、こういうものを侵すものであってはならないと、その懸念は払拭される必要が少なくともあるのではないかということで、そのことについての話で、恐らくケナタッチ氏の懸念についてはいろんな意見があろうかと思います。それはもう私も重々承知をしておりますので、この点について御意見をということなんですが。
○参考人(西村幸三君) もちろん、憲法への適合性ですね、こういうものはもう絶対条件であると思います。
憲法適合性ということで共謀罪を見た場合に、裁判例というのは非常に少ないわけですよね、ぴったりそれに当たるのかということが、私も学者ではないので判然とはしませんけれども、いわゆる三無事件の最高裁判決というのがありまして、最高裁、昭和四十五年七月二日、ここの判旨で、これは三十一条、デュープロセスと二十一条違反が問題になった事件ですけれども、いわゆる陰謀罪ですね、予備罪が否定されて陰謀罪になった。
ここで、罪を実行するための具体的な準備をすることや、その実行のための具体的な協議をすることのような、社会的に危険な行為を処罰しようとするものであり、その犯罪構成要件が不明確なものとも認められないというふうになっていて、具体的な協議、だから犯罪の合意だけ、いわゆる共謀という言葉からあえて要は計画という言葉に変えた趣旨が、具体的、現実的なものという答弁が政府からされていたかと思いますけれども、余りこの裁判例が引っ張られているわけではないので、私の意見が正しいのかどうか分かりませんけれども、まずまず配慮されているのではないのかなというふうには思っております。
あるいは、平成二年九月二十八日の最高裁判決、これも破防法に関するものですけれども、これは扇動の事案ですが、扇動として外形に現れた客観的な行為を処罰の対象とするものであって、行為の基礎となった思想、信条を処罰するものでないことは各条の規定自体から明らかであるからと書かれています。
準備行為を必要とするという要件を入れているというところは配慮はされている、そこは前回法案よりは改められていると感じております。
○山添拓君 新倉参考人にも一言御意見をいただけますか。
○参考人(新倉修君) 簡潔に言いますと、プライバシーの権利は非常に大事な権利ですよね、やっぱり個人として生きていく上で。やっぱり人から干渉されない自由というのを確保するもう最後のとりでみたいなものですから、これはやっぱり尊重すべきだということをケナタッチさんが言われているのはもっともですし、安倍首相もそれは否定はしていないわけですよね。
だから、そういう点で見ると、この法案にはまだまだ十分慎重に検討すべき案があるという点では私は同感です。
○山添拓君 ありがとうございます。
済みません、質問の趣旨が正確に伝わりませんで、失礼いたしました。
松宮参考人に伺いますが、政府は、組織的犯罪集団が計画し、実行準備行為を行ったことを総体として見ると危険なのだと。その意味では、組織的犯罪集団が加わっているということに着目をして処罰を要するんだという説明をしています。
一方で、政府は、共謀罪は実行の着手前の行為を処罰するもので、固有の保護法益はない、専ら計画をした犯罪により保護される法益の保護に資するものと、こういう答弁もしています。 この点をどのように考えるべきでしょうか。
○参考人(松宮孝明君) 私も、その答弁をされた方の思想までは分かりませんので推測ですけれども、組織的犯罪集団が計画し、実行準備行為を行ったことを総体として見ると危険であるというのですから、これは要するに組織的犯罪だから、一人がやるんじゃなくて大きな組織でやるということになるから世の中は危険を感じるだろうという趣旨のことをおっしゃっておられるのかなという感じがいたします。
ただ、先ほど私、何度も申し上げていますように、この法案の、組織的犯罪処罰法六条の二の第一項の計画は組織的にやる必要ないんですよ、二人以上ですからね。自然人二人以上ですので、組織的犯罪集団が計画しではないので、ちょっとこの答弁は条文と合っていないんじゃないかなという感じがしますね。
もう一つの御質問、この共謀罪は固有の保護法益はなくて専ら計画した犯罪によって保護される法益の保護に資するというのは、これは要するに計画された犯罪、例えば、組織的な殺人罪が計画されたのであればその共謀罪の保護法益は殺人罪の保護法益である人の生命である、それから、計画されたのが窃盗罪、万引きであるというのであれば人の財物に関する権利ですね、これが保護法益であるというふうに、計画された犯罪ごとに保護法益は全部違うんだということをおっしゃっておられるんだと思います。
ちょっと余談ですけど、ただ、この総体として見ると危険ということを言いながら、計画された犯罪の法益が保護法益だと言うと、例えば殺人考えてみますね、組織的殺人罪で、ある一人の人を組織的に殺すということを考える場合に、保護法益はやっぱり一人の人の生命なんですよ。そうなると、一人の人の生命が危険にさらされているという点では、これは組織的犯行であろうと単独犯であろうと具体的にどこまで進んだかによって変わるだけでそんなに変わりませんので、ちょっとこの答弁には矛盾があるんじゃないかなと私は感じています。
例えば、ヨーロッパの結社罪型のように、犯罪をやるぞと社会に公言して結社をつくる、結社をするというようなことが社会の安全に対する公共危険犯であるという理解をするのであれば、総体としての危険というのも論理的に一貫してくるんですけど、そうじゃなくて、計画された犯罪ごとに法益は違うんだというのであれば、総体としてというのは余りよくないんじゃないかと、論理的に一貫していないんじゃないかなという印象を受けています。
○山添拓君 ありがとうございます。
続いて松宮参考人に伺いますが、先ほど来、今度の法案で対象の罪を二百七十七としたことについて、これは絞り込みがされたんだという評価もありますけれども、一方で、これでもまだいろんな恣意的な判断の結果だということもあります。その中で、先ほど松宮参考人からは、本法案はTOC条約を文字どおり墨守する必要はないという立場を示したものだという話もありました。
そこで、TOC条約の五条の一項では、合意罪を選択する場合に、合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴うものとすることができるんだと、こういう規定になっているかと思います。日本には既に陰謀罪がある罪もありますし、あるいは現行法の予備罪の共謀共同正犯という考え方もあるわけです。こうしたものがこの条約上も許容されるオプションといいますか選択肢に当たり得ると考えることができるでしょうか。その際に、予備罪として処罰していない犯罪類型はもちろんあるわけですけれども、そのことについてどのように見ればよいでしょうか。
○参考人(松宮孝明君) 私は、予備罪の共謀共同正犯と予備行為を、処罰条件としてですが、共謀処罰するということとは実質的にほとんど違いはないと考えています。以前、衆議院の法務委員会で井田参考人が現行の予備罪については未遂に近いより危険性の高いものに限って処罰しているとおっしゃったんですが、これは、そうしないと証拠がはっきりしないからでして、論理的に予備罪の成立範囲がそこまで限定されているという意味じゃないんですよ。ですから、これは実質的に同じです。
問題は、現行法で予備段階がまだ処罰されていないものに関しては、共謀罪をつくればその段階の行為が処罰されるようになるという点で違いは出てくる、確かにそうなんですね。しかし、問題は、じゃ、実際上、例えば国際協力の関係で、薬物にも予備罪ありますからね、日本で予備罪処罰がないものについても、例えばコンスピラシーで日本に逃げてきた人物の捜査や引渡しに協力してくれというふうに言われたときに、予備段階だからそれができないんですよというのが一体どれくらいあるのかということなんですね。
実際は、アメリカでもそうですけど、あそこは手続がうるさい国ですから、客観的に間違いない、証拠があるというのでないとコンスピラシーも適用しないので、実際には実行までやっています、もうほとんど。ですから、引渡しに困難を来すということは私はまずないと思っております。
他方、西村参考人がおっしゃったことなんですが、TOC条約五条一項(a)を実は現行法も文字どおり墨守はして、現行法じゃないですね、法案でございます、今回の法案も文字どおり墨守していないというのは二百七十七に対象犯罪を絞ったことから明らかです。これは一方で、例えば会社法にある取締役の収賄罪のような、TOC条約が狙いとしているそういう腐敗がなぜか今回の共謀罪法案では対象犯罪から落ちているという点で恣意的だという疑問を引き起こしているんですが、見方を変えれば、今回の法案はTOC条約の条文を文字どおり墨守する必要はないよねということを明らかにした法案なんですよね。
ですから、済みませんが、西村参考人の言っていることは私は当たっていないなというふうに思っています。
○山添拓君 最後に松宮参考人に伺いますが、共謀罪のこの法案の法定刑は、罪によって五年以下の懲役又は禁錮、あるいは二年以下の懲役又は禁錮、一律の法定刑になっています。そのことによって現行の予備罪などとの整合性が問題として指摘されるケースがありますけれども、この点について御意見をお聞かせください。
○参考人(松宮孝明君) 先日の本会議だったと思いますけれども、参考人の横畠氏が、例えば殺人予備罪より組織的殺人共謀罪の方が五年以下の懲役になって重くなるのは矛盾かと聞かれて、これは組織的にやっているから矛盾じゃないと、先ほどの御質問にあるような、総体として見ると危険という考え方を取っておられると思いますけれどもねというふうな答弁をされたんですけど、実は、他方で、大麻取締法なんかを見ますと、実は現行法の予備罪の方が三年以下の懲役で、共謀罪の二年以下の懲役、法案の二年以下の懲役より重くなるというケースも幾つかあるんですね。これは横畠氏の答弁からすると全く矛盾でして、組織的だから重くすべきはずが逆に軽くなるという、多分裁判所というか、実務はこれ混乱すると思います。
同じような問題は幾つもございます。先ほど申し上げました傷害罪は、傷害結果を起こしても罰金で済む場合もありますのに、共謀罪では罰金の選択肢がないとか、あるいは、懲役刑しかない罪の共謀がなぜか禁錮で処罰できる、禁錮刑しかない罪の共謀がなぜか懲役でも処罰できるという法案になっているということですね。
法案の作り方としてかなりずさんじゃないかというのが私の率直な印象でして、これはもっともっと詰めなければいけないものをこのまま通してしまったら、多分実務も大混乱に陥るだろうというのが私の見方でございます。
○山添拓君 どうもありがとうございました。大変参考になりました。