山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2018年・第196通常国会

高プロ、同一労働・同一賃金 「働き方改悪法案」質問

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。

厚労委員会では初めて質問をさせていただきます。よろしくお願いをいたします。

高度プロフェッショナル制度について伺います。

資料をお配りしました。厚労省が十二人の高度専門職に対して行ったというヒアリングです。

労働条件政策課の職員が企業に出向いて直接話を聞いたとここには記されております。どのような設問でヒアリングを行ったんですか。

○政府参考人(山越敬一君) お答えを申し上げます。

高度専門職に対するヒアリングでございますけれども、これは高度な専門的知識を必要とする業務に従事する方について、現在どのような働き方をしているか、働き方に対しての要望があるかなどについてお伺いをしたものでございます。

今回お示しをいたしましたヒアリング結果でございますけれども、現場で働く方のお話を自由かつ率直にお伺いしたものでございまして、ヒアリングに当たりまして質問項目を計画的に定めて行ったものではございません。

○山添拓君 なぜこの時期に行ったんですか。

○政府参考人(山越敬一君) これは、私ども通常の業務の一環として行ったものでございます。

○山添拓君 それじゃ答えにならないと思うんですけど。そもそも、働き方のニーズを集約するという位置付けの質問ではなかったわけです。

一月三十一日の参議院予算委員会で大臣は、私もいろいろお話を聞く中で、その方は、自分はプロフェッショナルとして自分のペースで仕事をしていきたいんだ、そういった是非働き方をつくってほしいと、こういう御要望をいただきましたと述べております。ところがその声は、十二人のヒアリング結果の概要にはありません。

大臣のこの答弁は、いつ、誰からお聞きになったことですか。

○国務大臣(加藤勝信君) これも前回の委員会でも御説明をさせていただいたところでございますので、これは私がやっぱり個人的にもいろんな方から聞かせていただいているその中身を紹介をさせていただいたと、その前半の部分はですね。

○山添拓君 大臣、個人的に聞いたことで法案作っちゃうんですか。

○国務大臣(加藤勝信君) これも委員会で説明させていただきました。

法案のプロセスにおいては、別にこれを労政審に出したわけでもございません。産業競争力会議等々での議論があり、それを労政審で議論していただき、ここには当然労使の方も入っていただいている、そしておおむね妥当ということで最終的には法案を作らせていただいた、これは、もうこれまで何回も説明をさせていただいております。

○山添拓君 開き直りだと思うんですけれども。つまり、労政審に出したものでもないんだと。労働者のニーズを聞き取った、これに基づいて高プロをつくったんだと言いながら、そもそも、立法事実として使ってきたわけでもないんだというお話でありました。

このヒアリングの結果に、高プロのように労働時間規制を完全に外して二十四時間、休憩、休日、深夜を問わず働く、残業代ゼロの働き方を望んでいるという声、一つでもありますか。

○国務大臣(加藤勝信君) 基本的に高プロはそういう制度ではありません。二十四時間残業なしで働くということを前提にしているわけではありませんから、したがって、(発言する者あり)いや、これは、それぞれの労働者がそうした労働時間の管理、管制の中にそうした規制というか、労務管理のない中で自由にその力を発揮をする、そういう中において、しかも、このヒアリングにおいては、そうした現状に対してどんな思いがありますかと、多分抽象的な形でいろいろな御意見をいただいたと、こういうことだというふうに聞いております。

○山添拓君 大臣、抽象的に話を聞いただけだということをお認めになりました。

アリバイ的なヒアリングによるニーズの捏造というのは余りにも稚拙なやり方ですが、その結果と高プロのような働き方、その結び付きすらないということです。立法事実と言えるような労働者側の要望などないということが、はっきりしたと思います。

そもそも厚労省は、金融アナリストやコンサルタント業務、研究開発職の労働時間などの労働条件について、これまで何らかの実態調査を行ったことがありますか。

○政府参考人(山越敬一君) お答え申し上げます。

高度プロフェッショナル制度の具体的な対象業務でございますけれども、これは、法律の要件は、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果の関連性が通常高くないと認められる業務、この要件を前提といたしまして、省令で、審議会で検討の上、法律成立後、規定していくものでございます。

このようなことから、対象業務の範囲が具体的に定まっていないものでございますので、御指摘のような実態調査は行っておりません。

○山添拓君 実態をつかむためのまともな調査をやらずに何が労働者のニーズですか。高プロと同じく労働時間規制の適用除外が定められているのが管理監督者です。これは、経営者と一体的な立場で、労務管理の裁量を持つことから適用除外だとされています。

厚生労働省の二〇〇四年度、委託研究の管理監督者の実態に関する調査研究報告書によれば、中長期的な経営計画に関する決定権があるかという問いに、余りない、全くないと答えた合計は何%だったでしょうか。人事労務管理の方針に関する決定権については、同様に合計何%でしたか。

○政府参考人(山越敬一君) 御質問のございました平成十六年度の厚生労働省の委託研究として実施をされました管理監督者の実態に関する調査研究の報告書におきましては、事業場における職務や人事管理に関する決定権の程度を五段階の指標でアンケート調査をしております。

このうち、労働基準法第四十一条第二号の適用対象者でございますライン職とスタッフ職の方を対象に実施をいたしました管理監督者調査の単純集計表によりますと、今御指摘をいただきました事業所の中長期経営計画に関する決定について決定権を余り持っていない又は全く持っていないと回答した割合は五六・八%でございます。それからまた、人事労務管理の方針に関する決定について決定権を余り持っていない又は全く持っていないと回答した割合は四七・九%となっております。

ちなみに、労働基準法上の管理監督者でございますけれども、これは、経営方針の決定に参加したり労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者でございまして、これにつきましては、職務内容、責任と権限、勤務態様及び賃金等の待遇を踏まえまして総合的に判断されるものでございます。

○山添拓君 十四年も前の調査なんですが、決定権がないと答えた人が極めて多い結果です。別の項目では、五三・六%の管理監督者が、遅刻や早退が制裁、不利益の対象となるとも答えています。半数以上は名ばかり管理職なんですね。

厚労省はその後、管理監督者についての実態調査を何か行いましたか。

○政府参考人(山越敬一君) 平成十六年度以降、現在までの間におきまして、この管理監督者についての調査は行っておりませんけれども、衆議院段階での附帯決議がございますので、今後この管理監督者について調査を行うことを検討してまいります。

○山添拓君 要するに、やっていないんですか。管理監督者のように時間規制の適用除外がもたらす影響やその検証、対策もなく、また専門職の働き方の実態もつかんでいない。その中で新たに適用除外を拡大するなど、もってのほかだと指摘しなければなりません。

六月五日にこの委員会で我が党の吉良よし子議員が金融アナリストの働き方の実態を紹介いたしました。毎朝七時半にレポート報告のための朝会があり拘束をされると、自律的な働き方とは言えないということを御紹介しました。大臣は、基本的に、一定、例えばこの時間のミーティングに出なさいとか、この時間にあれをしなさいということになれば、これはもう時間配分等の制約を受けていることになる、我々省令を作った段階をベースにすれば当然該当しない、高プロに該当しないと答弁をされました。

一定の時間にミーティングが指定されるような仕事は、高プロは要件を満たさない。これ遡って違法、無効になるということでよろしいんでしょうか、大臣。

○国務大臣(加藤勝信君) 吉良議員の質問に対しても、前提として、今の条文に加えて省令を作ったということを前提にお話をさせていただいたわけでありますけれども、その場合には、使用者から特定の日時を指定して会議への出席を義務付けることにより労働者の時間配分等の裁量を奪うような指示がなされた場合、高度プロフェッショナル制度についていえば法令の要件を満たさず、制度の運用は認められないということになります。その場合には、一般の労働時間制度が適用され、法定労働時間に違反する場合には割増し賃金の支払義務が発生し、罰則の対象にもなり得るということであります。

会議等への出席の要否を含めた時間配分等について、労働者の裁量を奪うような業務指示、こういうことを行わないことは制度上の要件になるというふうに考えておりますが、ただ、その具体的な中身によってはそれは個々に判断をしていくということになるんだと思います。

○山添拓君 裁量を奪うような指示と裁量を奪わないような指示があると、こうおっしゃるんですか。会議に絶対出てくださいと言えばこれ裁量がない、なるべく出てくださいだったらオッケーだと、こういうことでしょうか。

○国務大臣(加藤勝信君) いや、私が申し上げたのは、労働の時間配分に対する指示ということであればそうだと。ただ、そうした具体的なその発言がそれに当たるのか当たらないのかは個々で判断するということを申し上げたわけです。

○山添拓君 個々で判断するということは、法律上も政令上も明確にはならないと、業務指示があったのかどうかということはこれは分からないということなんですね。朝会に出ろと、こういう指示がなされたときでも、これが高プロの要件を満たしているのか満たしていないのか明確にはならないということになりませんか。

○国務大臣(加藤勝信君) いや、ですから、労働時間の時間配分等の裁量を奪うような指示かどうかということを申し上げているんであって、それに該当するかどうかは個々の、例えば、出ろと言うんじゃなくて、たまたまこういう会議ありますよということを通知したことがそれに当たるかどうかと、その判断について申し上げているんで、具体的にあなたがこの日のこうしたミーティングに出なさいよということがあれば、それは労働者の時間配分等の裁量を奪うような指示ということになると、そういうことを申し上げているわけであります。

○山添拓君 高度で専門的な業務が、たまたまこういう会議ありますよと伝えたぐらいで回ると思っておられるんでしょうか。ミーティングへの出席や報告を上司から指示される、指定される、そういう働き方は高プロとは言えないんだと、それならそうはっきり書かれるべきじゃありませんか。

○国務大臣(加藤勝信君) 書くということはあれですけれども、今申し上げたこの条文を踏まえて、特定の日時を指定、あっ、ごめんなさい、労働者の時間配分等の裁量を奪うような指示は対象にしない、これを省令等で書くことを検討したいということを申し上げているわけであります。

○山添拓君 公聴会でも指摘をされていますけれども、そうであればまずその案文を示して、本当にそれで労働者の裁量確保されるのかどうかということが確認できるような状況で審議をしていただく必要があるだろうと思います。

高プロは、もう今お聞きいただいたように、要件そのもの取っても審議を通じてぼろぼろになっている法案だと思います。過労死を促進することが明らかなこの制度をこのまま通すなど断じて認められないということを指摘をいたします。

次に、いわゆる同一労働同一賃金について伺います。

安倍首相は、二〇一六年六月一日に発表した談話の中で、同一労働同一賃金を実現し、非正規という言葉をこの国から一掃しますと述べました。非正規雇用は今や全体の四割に達し、賃金、労働条件の不公正な格差のために、平均給与で三百十五万円もの格差が生じています。

この格差は、非正規雇用が有期契約や間接雇用で不安定なために、使用者と対等に交渉したり権利行使をしたりするのが困難であることから生じたものにほかなりません。非正規労働者は、非正規であるがゆえに弱い立場にあるわけです。本来、雇用は、直接、無期の雇用が原則です。本気で格差是正を言うのであれば、非正規雇用そのものをなくす、減らすための法改正が必要だと考えますけれども、大臣の認識はいかがですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 今のその年収について、多分年収をおっしゃったというふうに思いますけれども、これはやっぱり、例えばパートで、パートというか時間によっても変わってくるわけなんで、それは直ちにということにはならないと思いますが、ただ、我々が申し上げているように、フルタイムで働く場合とパートで働く場合の時間当たりの賃金、これで見ると、海外、これは一律には機械的には比較できませんけれども、海外と日本比べると日本の方が格差が広がっている、このことは一つの問題意識として今回の法案も提出をさせていただいているわけであります。

ただ、今委員おっしゃるように、もちろん正規で働きたいという方が正規で働けるようにそうした形での雇用を促進をしていく、あるいはその必要な能力開発について助成をしていく、これは当然やっていくべき課題だというふうに思います。しかし、同時に様々な制約条件があるわけでありますから、その制約条件の中で働ける働き方を用意していくということもまた必要なことではないかと。ただ、それにおいて、先ほどお話があったように処遇が余りにも違い過ぎる、不合理な格差がある、これは是非是正をしていきたいということで今回の法案を出させていただいているということであります。

したがって、総理も言っておりますけれども、どのような雇用形態を選択しても納得が得られる処遇を受けられ、多様な働き方の選択肢を待遇差を気にすることなく選べる社会を実現していくということで今回の法案を出させていただいているということでございます。

○山添拓君 安倍首相は、非正規という言葉をなくすと言うだけで、非正規の働き方、不当な待遇そのものをなくすとは言いません。企業にとって安上がりで簡単に切り捨てられる使い勝手の良い非正規雇用の増大を野放しにすることは、これは政治の姿勢が問われることを指摘したいと思います。

雇用形態による格差の是正について初めて正面から認めた裁判例が、丸子警報器事件です。長野地裁の一九九六年の判決です。

二か月契約を四年ないし二十五年にわたって反復継続してきた女性の臨時社員が、女性正社員と同じ組立てラインで同じ仕事に従事をしてきた。所定労働時間が正社員より十五分短く設定されておりましたが、実際にはその分残業扱いで同じ時間働き、QCサークル活動にも正社員と同様に参加をしていました。一九九七年当時、勤続二十五年の女性正社員の年収は三百二十三万八千八百円、臨時社員は二百十四万五千八百七十円。正規の六六%でした。

判決は、この格差が公序良俗に違反して違法だとしたんですが、どのような理由でそう判断したものですか。

○政府参考人(宮川晃君) 御指摘の事件は、平成八年三月の長野地裁上田支部においての判決ということでございますので、現行の労働契約法第二十条やパートタイム労働法八条、九条は規定されていない時代の判決でございます。この判決についてはお読みした方がよろしゅうございますか、判決を。

同一(価値)労働同一賃金の原則は、労働関係を一般的に規律する法規範として存在すると考えることはできないけれども、賃金格差が現に存在しその違法性が争われているときは、その違法性の判断に当たり、この原則の理念が考慮されないでよいというわけでは決してない。けだし、労働基準法第三条、四条のような差別禁止規定は、直接的には社会的身分や性による差別を禁止しているものではあるが、その根底には、およそ人はその労働に対しひとしく報われなければならないという均等待遇の理念が存在していると解される。それは言わば、人格の価値を平等と見る市民法の普遍的な原則と考えるべきものである。(中略)したがって、同一(価値)労働同一賃金の原則の基礎にある均等待遇の理念は、賃金格差の違法性判断において、一つの重要な判断要素として考慮されるべきものであって、その理念に反する賃金格差は、使用者に許された裁量の範囲を逸脱したものとして、公序良俗違反の違法を招来する場合があると言うべきであるとの判断がなされております。

○山添拓君 二十年前の判決で示された、およそ人はその労働に対しひとしく報われなければならないという均等待遇の理念、この位置付けは均等・均衡待遇を保障しようという本法案を審議する上でも重く受け止めるべきだと考えます。

資料の四ページに、パート法八条の改定案をお示しいたします。

パート・有期労働者の基本給、賞与その他の待遇について、通常の労働者との関係で不合理な相違があってはならないとしています。政府は、この通常の労働者とは、いわゆる正社員を含む無期雇用フルタイムの労働者であるとし、非正規労働者は不合理な待遇差の是正を求める際、通常の労働者の中でどの労働者との待遇差について争うかを選ぶことができると説明をしてきました。その根拠は何ですか。

○政府参考人(宮川晃君) 議員御指摘のとおり、改正後のパート・有期労働法第八条の規定における通常の労働者とは、いわゆる正社員を含む無期雇用フルタイム労働者全体をいいます。したがいまして、裁判において非正規雇用労働者は、パート・有期労働法八条に基づいて不合理な待遇差の是正を求める際、いわゆる正社員を含む無期雇用フルタイム労働者の中でどの労働者との待遇差について争うか選ぶことができるものであると考えております。

なお、働き方改革実現会議においてお示しした同一労働同一賃金ガイドライン案におきましても、待遇の比較対象となる無期雇用フルタイム労働者について、いわゆる正社員を含む無期雇用フルタイム労働者全体を念頭に置いているとするなど、先ほど申し上げた考え方についてはこれまでもお示ししてきたところでございます。

○山添拓君 いや、全体ということになると、これは不都合が起きるんですね。

衆議院で我が党の高橋千鶴子議員も指摘をいたしましたが、現行の労働契約法二十条、無期と有期の不合理な格差是正を求めたメトロコマース事件の判決の中では、裁判所が勝手に比較対象を設定しています。東京地裁の二〇一七年三月二十三日の判決です。東京メトロの売店業務に従事してきた契約社員が、正社員との本給、賞与、各種手当などの差額を請求した事件です。原告は、原告らと同じく専ら売店業務に従事する正社員十八名との格差を問題にしたわけですが、裁判所は、様々な業務に従事する正社員六百名全体と比較をいたしました。これでは、労働者が比較対象を選ぶということになっていないわけです。この比較の在り方は今度の法案では許されないということですね。

○政府参考人(宮川晃君) 現行法規における一つの裁判の判断でございますので、今回私どもが考えておりますのは、どの労働者との待遇差について争うこともできるという考え方を示したものとして、今回立法をしているものでございます。

○山添拓君 今後は違うということでありました。

法案は、不合理かどうかを判断する考慮要素として、業務の内容及び責任の程度、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を挙げ、どの要素を考慮するかは、問題となる待遇の性質や目的に照らして適切なものを選ぶとしています。

メトロコマース事件の地裁判決では、基本給、賞与、各種手当、いずれの格差についても、会社側の主張、長期雇用関係を前提とする正社員に対する福利厚生を手厚くすることにより、有為な人材の確保、定着を図る目的だと、この会社側の主張に一定の合理性があるといたしました。

しかし、こうした使用者の主観的な意図や目的で格差がよしとされるのであれば、均等・均衡待遇など使用者の説明次第で幾らでも認められることになりかねないと思います。

不合理かどうかについての判断は客観的、具体的な実態に即して行われるべきで、使用者の主観によって判断されるべきではないと考えますが、大臣、いかがですか。

○政府参考人(宮川晃君) 今回の法案によりますパート有期労働法第八条の規定、職務の内容、職務の内容、配置の変更範囲、職務の成果、能力、経験などのその他の事情のうち、その目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとされております。

これらの事情につきましては、当然のことながら客観的、具体的な実態ということでございますが、委員御主張の事業主の主観というものがどのようなものであるかというのは必ずしも判然といたしませんが、いわゆる具体的、客観的に認められるようなものということを私どもとしても考えております。

○山添拓君 メトロコマース事件の原告は、専ら売店業務にしか従事していない正社員、同じ業務に従事している正社員との格差を問題としたわけです。ところが、判決は、大半の正社員が売店以外の様々な業務にも従事している、配置転換や出向を命じられることもあるんだと言い、専ら売店業務にしか従事していない正社員についても就業規則上は配置転換があり得ると、こう言って、配置転換のない原告ら契約社員とは職務内容と配置の変更範囲に大きな相違がある、だから格差は合理性があると、こういう認定をしていったわけです。実際には、正社員であっても勤務先はみんな都内なんです。一か所だけ千葉の西船橋がありますが、転居を伴う配転などないにもかかわらず、そこに大きな相違があると裁判は認定しています。

こういう形式的な判断は、先ほどの御答弁に照らせば、客観的、具体的な実態に即して行われていないと言うべきだと思います。就業規則上、配置転換や出向を命じ得るような規定があったとしても、現実に配転の実績があるか、され得るか、こういう実態に即して判断されるべきだと考えますが、大臣、いかがですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 基本的には、先ほど局長から答弁させていただいたところでありますけれども、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との間で待遇差が不合理であるか否かを判断する際、職務内容、配置の変更範囲などを考慮するに当たっては、客観的、具体的な実態に照らし判断すべきものと考えておりますし、その判断に当たっては、就労規則等に明文化された定めがあれば、それも一つの参考資料になるとは考えられますけれども、それだけではなくて、過去の転勤の実態など、当該事業主における職務内容や配置の変更の実態、これを基に判断することになると考えております。

○山添拓君 これは、私、形式だけでもし判断されるということになれば、使用者は幾らでも格差を合理化できると思うんですね。正社員についてのみ就業規則で配置転換の可能性を入れておけばよいということになってしまいます。実際には配転など命じなくても、規定上の抽象的な可能性だけで職務内容と配置の変更範囲に相違がある、人材活用の仕組みが違うんだと、格差は不合理でないと言い得ることになってしまいます。こういう詭弁を許さないような法律にするべきだと指摘しなければなりません。

実際、メトロコマースは裁判を起こされてどういう対応を取ったと皆さんお思いですか。直営の売店を廃止したんですね。ローソンメトロスという委託型の店舗に変えました。正社員は売店業務から外して、原告ら契約社員は新たにつくった直営の土産物屋店勤務といたしました。

正規と非正規の格差が問われると、比較対象の正社員をなくしてしまうのが企業のやっていることですよ。やってきたことなんです。大臣たちは、先ほどから、労使間の話合いによって各企業間でただされていく、そういう悠長なことを言っている場合じゃないと、格差をきちんとただしていくという実効ある仕組みが求められています。

労働契約法二十条について、日本郵便を相手に争われた二つの事件の判決があります。資料の五ページに比較を付けておきました。いずれも時給制や月給制の有期雇用の契約社員が、複数の手当について、正社員との待遇差を争ったものです。

東京地裁の二〇一七年九月十四日の判決と、大阪地裁二〇一八年二月二十一日の判決です。いずれも年末年始勤務手当、住居手当について契約社員に全く支給しないのは不合理だとし、大阪の事件では扶養手当についても不合理といたしました。

ところが、原告の損害をどこまで認めるかについては判断が分かれました。大阪地裁は正社員と同じだけ払うべきだといたしましたが、東京地裁は年末年始勤務手当は正社員の八割、住居手当は正社員の六割だとしました。同じ企業の同じ業務に従事する労働者の同じ賃金項目について、格差が不合理だとされながら損害が異なる。これでは均等・均衡待遇どころか、裁判によっては同じ非正規の間で新たな格差を生むことになってしまいます。

大臣、この結果を容認されるんですか。

○政府参考人(宮川晃君) 個別の事案につきましては政府としてはコメントを差し控えたいと思いますが、一般論として申し上げますと、最終的には司法判断ではございますが、現行の労働契約法第二十条に基づきまして、どのような待遇差が不合理と認められるか、不合理性が認められた場合にどの程度の請求が認められるかといった点につきましては、どの事情をどの程度考慮するか、当該事情に関する実態をどのように認定するかなど、個々の事案に応じた判断によるものと考えております。

○山添拓君 要するに、そうして判決によって違いが出てもしようがないと言うんですよ。これのどこが同一労働同一賃金なんですか。

なぜこうしたことが起きるかといえば、例えばパート法の改定案八条でも、不合理と認められる相違を設けてはならないと定めて、九条では差別的取扱いをしてはならないと定めていますが、これ以上にはないわけです。

格差是正を実効性あるものとするには、不合理な労働条件の定めが無効とされるだけではなくて、不利益な取扱いがなければこうなるという労働条件が認められるべきです。あるべき労働条件を補充する、いわゆる補充的効力を認めて、労働者が使用者に対して合理的な労働条件の確認とその履行を求められるようにするべきだと考えます。

これ、大臣、いかがですか。

○国務大臣(加藤勝信君) 多分、委員の御指摘はいわゆる補充効の議論なんだというふうに思います。

不合理と認められる相違等がある場合にどのような内容の労働条件を認めるか、これは個々において、また判断、個々の状況においていろいろあると思いますし、なかなか判断が容易ではないというふうに考えますので、法律で一律的に無効の場合には直ちにこうだというのを決めることはなかなか難しいと考えますし、したがって、そうした規定をすることには慎重な検討が必要だと考えております。

○山添拓君 それでは実効性がないということを指摘してきているわけです。

私は、単にこれは格差がなくなればよいというものではない、非正規に強いられる不公正な賃金や労働条件を是正することが重要だと考えます。

メトロコマース事件の原告の皆さんからお話を伺いました。判決では、全ての正社員と比較されて、職務内容やその変更範囲に相違があるとされましたが、実際には売店業務が一番つらくて、正社員がやりたがらない仕事だとおっしゃいます。皆さんも東京メトロを御利用になることあるかと思います。朝六時までに出勤をされます。地下鉄ホームが職場です。走行する電車から鉄粉が飛びます。商品や店内に付着をするために、手は真っ黒です。マスクをしていても、鼻の中も真っ黒だと言います。商品は売る直前まで二重包装しておかなければならない。一人勤務ですと、トイレに行こうにもシャッターを下ろして行くことがなかなかできない。正社員はお昼を外に食べに行くことができますが、契約社員の皆さんは節約のためもあってホームのベンチで食べるそうです。車内から乗客が視線を送ってくる、それがつらいとおっしゃいます。

原告の一人は、手取りは月十三万から十六万です。時間外、賞与、期末手当を合わせて一年間の手取りは百九十八万円余りと言います。同じ年齢で東京二十三区の生活保護支給額は、生活扶助と住宅扶助の合計で月十三万円、年間百六十万円程度です。社会保険料の負担がない分、全額が可処分所得です。この原告の場合には百九十八万円の手取り額から公共料金や医療費や二年ごとの借家の更新料も支払う、まさに生活保護水準です。だから、非正規の尊厳を取り戻そうと立ち上がっているというお話でした。

単に格差を是正すればよいということではありません。ましてや正社員の住居手当をなくそうという日本郵便のように、正規の労働条件を引き下げて同一労働同一賃金を実現するなどもってのほかです。格差是正と同時に、最低賃金の引上げなど非正規の労働条件を底上げする必要があると考えますが、最後に大臣の認識を伺いたいと思います。

○国務大臣(加藤勝信君) 非正規の雇用労働者の方の待遇改善という観点では、正規雇用労働者との待遇差の是正、これはもとよりでありますけれども、全体的な賃金の底上げも大変重要でありまして、最低賃金の引上げについては、昨年三月に取りまとめた働き方改革実行計画に沿って取組を進めているところでありますけれども、この安倍政権発足以降の五年間では時給で約百円の引上げがなされたところでございます。

引き続き、年率三%を目途として引き上げ、全国の加重平均で時給千円、これを目指していきたいというふうに思っているところでございます。

こうした取組とともに、先ほど申し上げたこの非正規と正規の不合理な待遇差の解消に向けたこの法案の着実な施行、こういったことによって非正規雇用労働者の待遇改善を更に進めていきたいと考えております。

○山添拓君 時間が来ましたので終わりますが、今回の雇用対策法の改定案では、労働生産性の向上を促進することを目的規定に盛り込むとされています。とんでもないと思います。生活できない賃金水準で働くことを余儀なくされる非正規労働者の実態に全く寄り添っていないと思います。

およそ人は、その労働に対しひとしく報われなければならず、かつ人たるに値する生活を営むことができる労働条件、それを保障する政治に転換すべきだということを申し上げて、質問を終わります。

ありがとうございました。

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