2019年・第200臨時国会
- 2019年11月14日
- 法務委員会
ハンセン病家族訴訟について
- 要約
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- 法務委員会でハンセン病家族訴訟について質問。 ハンセン病元患者だけでなく、家族が受けた差別被害に対する国の認識をただしました。 森大臣も「元患者のみならず、家族にも極めて厳しい偏見・差別が存在した。 重く受け止め、当事者の意見を聞き、解消に向け取り組みを推進したい」と答弁。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
ハンセン病家族訴訟について質問をいたします。
初めに大臣に伺いますが、大臣は、家族訴訟の原告団の皆さんからお話を伺われたこと、おありでしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) 残念ながら、ございません。
○山添拓君 是非、そういう機会、お持ちになっていただきたいと思います。
私もこの間、家族訴訟の原告団の皆さんからお話を伺ってきたんですが、これもう大変衝撃でした。あの隔離政策を違憲と判断をした二〇〇一年の熊本地裁判決を経て、このハンセン病については遅過ぎたとはいえ解決に進んでいる、こう思っておりました。ところが、家族の皆さんが被ってきた筆舌に尽くし難い被害が置き去りにされてきたものであります。
親や兄弟が療養所に収容されることになり、ある日、白衣で固めた五人、六人が自宅の内外を真っ白になるまで消毒をした、衆人環視の公開処刑のようだったと言います。学校で親がハンセン病だと知れると周囲が豹変をする、運動会のとき、自分たちの家族だけが校舎の間で隠れるようにお弁当を食べた、修学旅行のときは一人だけ押し入れで寝た、療養所の学校でハンセン病は恐ろしいと徹底して教え込まれて、患者である母親と二十センチ以上近づくことができなかった、夫から暴力を受け、病気の父親がいるのに嫁にもらってやったと言われて、父のせいで私が苦労する、こう思うようになって父親を恨むようになったと、こういう事実が顧みられることなく今日に至っておりました。私たち国会議員も率直に反省しなければならないと思います。
今年六月二十八日の熊本地裁判決は、法務大臣が偏見差別除去の義務を負うこと、そのための人権啓発活動が不十分であったことを断じております。
大臣、どのような認識でしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) 本年七月の内閣総理大臣談話にあるとおり、ハンセン病対策については、かつて取られた施設入所政策の下で、患者、元患者の皆様のみならず、家族の皆様に対しても、社会において極めて厳しい偏見、差別が存在したことは厳然たる事実でございます。御指摘の判決については、法律上様々な問題があると言わざるを得ないものの、筆舌に尽くし難い経験をされたハンセン病元患者の皆様、家族の皆様の御労苦に思いを致さなければならないものと深刻に受け止めております。
○山添拓君 大臣、そうお述べになると。
政府は今回控訴を断念いたしましたし、家族の被害については、これいろいろ課題がありますけれども、判決を超える救済を含む法案が議員立法として提出をされ、まさに今日この時間、厚労委員会で審議されております。我が党としても意見を述べてきましたが、この成立に尽くしたいと思っています。
ところで、今大臣も答弁の中で述べられたように、政府は七月十二日に控訴を断念する総理談話と併せて政府声明を閣議決定し、法律上問題があるということを指摘されているんですね。その中には、例えば、偏見、差別を除去するために何をするかというのは政府に行政上の裁量があるんだと、それなのに判決は狭く捉え過ぎている、適切な行政の執行に支障を来すとまで述べております。ほかにも幾つかありますけれども、ほとんど控訴理由を並べるような声明なんですね。
しかし、今後、偏見、差別を除去していくには、この判決の指摘というのは十分踏まえるべきものじゃないでしょうか。大臣、いかがですか。
○国務大臣(森まさこ君) 今ほどお話ししましたとおりでございまして、御指摘の判決について様々な問題があるというふうに政府の談話にもございますが、筆舌に尽くし難い経験をされたハンセン病元患者の家族の皆様の御労苦に思いを致し、真摯に受け止めなければならないものと思っております。
法務省としては、ハンセン病家族国家賠償請求訴訟原告団の皆様を始めとする当事者の皆様の御意見をしっかり伺いながら、厚労省及び文科省とともに偏見、差別の解消に向けた取組を一層推進してまいりたいと思います。
○山添拓君 判決の指摘というのは原告団の主張を受けたものですので、これ是非受け止めていただきたいと。
判決は、法務省などが行ってきた偏見除去の施策、新聞広告だとかポスターやリーフだとか、あるいは人権作文や講演会の開催、こうしたものが一定の効果があるということは認めているんですね。しかし、そうした啓発活動というのは、政府がかつて行った無らい県運動に比べれば規模も頻度も十分でない、マスコミの利用や各住戸、各職場に出向くような、そういう広報活動ではなかったということを指摘しております。これは十分受け止めるべきだということを指摘させていただきたい。
不十分な啓発活動の下でどういう事態が起きていたのか。今日は資料をお配りしておりますが、二〇〇三年、熊本県のある温泉のホテルが国立療養所の菊池恵楓園の入所者の宿泊を拒否しました。当初はホテルに対する批判が相次ぎ、法務局も人権侵害の是正を勧告するなどいたしました。ところが、ホテル側が県に責任を転嫁する発言を行ったために、これ恵楓園の自治会側が謝罪の受入れを拒否いたしました。すると、風向きが一変しました。自治会には中傷の手紙五十通、電話百二十件が殺到し、そのほとんどが匿名だったといいます。この記事には、あなたたちが一緒にお風呂に入るとぞっとします、疎外された腹いせに復讐しているとしか見えません、あなた方は税金で運営される施設で生活していますね、差別されて当然ですなどと紹介されておりますが、このほかにも口にするのもはばかられるような罵詈雑言を並べたものもありました。
法務省に伺いますが、当時、法務省はどのような対応を行いましたか。
○政府参考人(菊池浩君) お答えいたします。
まず、御指摘の宿泊拒否の事件についての対応を申し上げます。
御指摘の事件は、平成十五年十一月十八日、熊本県内のホテルにおいて、ハンセン病の元患者の方々がハンセン病の元患者であることを理由として宿泊を拒否されたという事件でございます。
法務省の人権擁護局におきましては、重大な人権侵犯の疑いがあると判断し、熊本地方法務局及び東京法務局と共同で調査を行いました。そして、調査結果に基づいて、同年十一月二十一日、ホテルの総支配人とホテルの経営会社につき、旅館業法第五条等に違反するものとして検察庁に告発する一方、重大な人権侵犯があったとして総支配人に対して勧告を行うとともに、経営会社に対しても勧告を行ったものでございます。
法務省といたしましては、この宿泊拒否事件に関して、当事者にただいま申し上げたような勧告や告発を行うほか、法務大臣の発言を公表して、この事件が極めて遺憾な事件であることや、これまで以上にハンセン病問題に関する人権擁護活動の強化に努めていきたい旨を明らかにするなどしたところでございます。
○山添拓君 伺いましたのは、その後、自治会に対して様々な誹謗や中傷の手紙や電話が殺到した、これを受けてどういう対応を行ったかということなんですが。
○政府参考人(菊池浩君) お答えいたします。
ただいま申し上げたような宿泊拒否事案に対する対応にもかかわらず、宿泊を拒否された元患者の方々に対して誹謗中傷があったことは非常に遺憾でございまして、人権擁護機関としても更なる啓発活動の充実の必要性が痛感されたところでございます。
そこで、ハンセン病に関する偏見、差別の解消に向けた啓発活動としては、ハンセン病に関する知識の伝達のみならず、当事者の話を聞くことなどによってより共感を感じてもらい、また親と子など家族で考えることも重要である、そういった認識に基づいて、平成十七年度からハンセン病に関する親と子のシンポジウムを開催するなど、啓発活動の更なる強化を図ってきたところであります。
○山添拓君 そうしたシンポジウムなどが、それだけでは不十分だと判決で指摘されたということを御指摘したいと思います。
当時の自治会長は、宿泊拒否よりよほどこたえたと、こう述べております。ですから、根深い差別と偏見の存在が浮き彫りになった事件であり、当時、人権啓発を担う法務省がどういう対応を行ったのか改めて検証していくことが更に求められる、こう御指摘をさせていただきたいと思います。
教育現場でも生徒に誤った認識が広がる出来事がありました。二〇一〇年から一三年に、福岡県の公立小学校の先生が授業の中でハンセン病は体が溶ける病気と説明し、誤解した児童が、怖い、友達がかかったら離れておきますなどと記した感想文を恵楓園に送り、その連絡で教育委員会が事実関係を調査したとされております。
文科省は、昨年の秋、家族訴訟で原告が提出した書面で初めてこの問題を知ったといいます。こうしたことがなぜ起きたのか、また、教育の現場で正しい知識と理解を広げていくためにどのような対策を行うのか、これを文科省に伺いたいと思います。
○大臣政務官(佐々木さやか君) 委員がただいま御紹介をいただきました、平成二十二年から二十五年にかけまして、公立小学校の教員が、ハンセン病は体が溶ける病気などといった誤った内容の授業を行い、その授業を受けた児童の、怖い、うつらないようにマスクをするなどと書かれた感想文がハンセン病療養所に送付される、こういった事案が生じたことは大変遺憾に思っております。
本件については、療養所から県教育委員会に御連絡をいただきまして、県教育委員会において、事実関係の確認、療養所への謝罪、不適切な指導を受けた児童生徒への授業のやり直しの指示、また教職員向けパンフレットの作成、配付などの対応がなされたものと承知をしております。
文部科学省といたしましては、学校においてハンセン病について正しい知識を持って教育に当たっていただくということが大変重要であると考えております。これまでも、厚生労働省作成のパンフレットの活用促進などに取り組んできたところではございますが、今般の熊本地裁判決受入れを受けまして、改めて、各都道府県教育委員会等に通知を発出するとともに、省内に、私を座長といたしますハンセン病家族国家賠償請求訴訟を踏まえた人権教育推進検討チームを設置をいたしまして、今般の訴訟を踏まえた人権教育を推進するための具体的な検討を行っているところでございます。
御指摘のような事案が今後生じないようにするためには、事案の分析を行うとともに、教員の研修の充実を図っていくことが重要であると思っております。例えば、独立行政法人教職員支援機構が実施する人権教育に係る教員研修の内容の一層の充実を図るなど、元患者や御家族の皆様との協議を踏まえつつ、関係省庁とも連携をし、ハンセン病の患者、元患者やその御家族が置かれた境遇を踏まえた人権教育の一層の充実を図ってまいる決意でございます。
○山添拓君 それは是非お願いしたいと思います。
法務省に伺いますが、人権擁護局として、ハンセン病問題に特化した予算というのはこれまでなかったということを伺ったんですね。来年度の概算要求には、ハンセン病に関する人権啓発活動の拡大と記されております。これ、幾ら増額要求をしているんでしょうか。また、何に使うおつもりでしょうか。
○政府参考人(菊池浩君) お答えいたします。
ハンセン病をめぐる人権啓発活動につきまして、今後の施策といたしまして、家族に直接焦点を当てた活動を加えていく必要があるだろうと考えているところでございます。
具体的には、来年二月一日、名古屋市におきまして、元患者の御家族が置かれていた境遇をも踏まえたハンセン病に関するシンポジウムを開催する予定でございます。また、来年度の予算概算要求におきましては、人権擁護関係予算といたしまして約四十億一千三百万円を要求しているところ、シンポジウム等の従来のハンセン病に関する人権啓発活動に加えまして、新たに、元患者の御家族に関する人権問題に焦点を当てた動画や冊子の作成経費を要求しているところでございます。この動画や冊子の作成経費の金額は約三千四百万円となってございます。
○山添拓君 時間ですので終わりにしたいと思いますけれども、ハンセン病の元患者や家族に対する偏見、差別というのは、これは国が助長してきたものであります。戦前、戦後を通じた無らい県運動などの国策としての隔離政策によって、偏見、差別が九十年にわたって増幅をされてきた、だからこそ国は、その除去のために特別の手だてを取る必要があると思います。
差別、偏見の除去と損なわれた家族関係の回復、その両方について政治が責任を持って臨むと、そのために、多くの当事者の皆さんからの意見も聞き取った上で是非積極的に進めていただきたい、このことを最後に御指摘をし、お願いもしまして質問を終わりたいと思います。
ありがとうございました。