山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2019年・第200臨時国会

会社法改定案対政府質疑、参考人質疑を行いました。

要約
  • 法務委員会の会社法質疑で、「株主提案の濫用」について政府見解を求めました。 株主提案権は少数株主の権利です。ところが経済界が、対応することに手間がかかり「対応に苦慮している」「制限しろ」というのです。 株主提案の趣旨は、「開かれた株主総会の実現」に資するものと森大臣も認めています。 株主提案は電力会社等で積極的に活用されています。 東電の株主総会では、「原発廃炉凍結」などとともに「女性登用推進」「議事録記録・管理・開示」などの、意義ある建設的提案がなされています。 株主提案を制限する必要がありません。 午後に行われた参考人質疑では、脱原発・東電株主運動の木村結さんらが意見陳述。 木村さんは東京電力について、「監査役も社外取締役も取締役会の決定を追認するだけ。 原発事故の訴訟では監査役が会社側に補助参加していた」とガバナンスの問題を指摘しました。 大久保拓也日大教授は、「株式報酬の無償発行は理論的に整理されていない問題がある」 「会社補償は現行法理でも行われており導入理由が不明確。“海外との競争に負けるから”というような法整備であってはいけない」などと陳述しました。

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
株主提案権について伺います。
一九八一年に商法に株主提案権が導入をされました。当時も企業の不祥事や社会的責任の問題、あるいは総会の形骸化、こういった点から盛り込まれることになり、先ほど大臣も答弁されておりましたが、会社と株主、あるいは株主相互間のコミュニケーションを高める、開かれた株主総会に、こういう趣旨で導入されたものかと思います。
大臣に伺いたいと思います。
衆議院で前川拓郎参考人が述べましたように、上場企業で株主提案を受けたのは、今年六月総会までの一年間で六十五社です。過去最多と言われておりますけれども、上場企業三千五百社のうち僅か二%です。会社と株主のコミュニケーションというのは、これで十分取られるようになったと言えるんでしょうか。株主が参加することによる株主総会の活性化は果たされたとお考えでしょうか。大臣、いかがですか。
○国務大臣(森まさこ君) 株主提案権の制度は、経営者と株主との間、又は株主相互間のコミュニケーションを図り、株主総会を活性化することを通じて株式会社をより開かれたものとする目的で導入されたものでございます。データの分析については、今すぐにこちらで分析結果を持ち合わせておりませんけれども、私は、株主提案権の行使によって株主総会を活性化させていくことは現在においても重要であると、重視をしなければならないというふうに考えております。
○山添拓君 ありがとうございます。
二%の状況で本当にそう言えるのかと。今株主提案を制限をする必要が本当にあるのかどうか、ここは問われなければならないと考えます。
本法案は、株主提案の数による制限、具体的には取締役会設置会社で十を超える議案を提案することを制限しようとするものであります。
昨日の本会議でその立法事実について伺いました。公刊されている裁判例にもあるということでしたが、具体的にはどの事件ですか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
株主提案権につきましては、近年、一人の株主により膨大な数の議案が提案されたりするなど、その株主提案権が濫用的に行使される事例が見られます。
具体的な事例でございますけれども、例えば公刊されているものでございますと野村ホールディングスの事例、これは株主が平成二十三年度の定時株主総会におきまして百個の議案を提案いたしました。会社はそのうち十八個の議案のみを取り上げましたが、その中にも理解に苦しむ議案が残っております。例えば、会社の略称をYHDとして、営業マンは自己……(発言する者あり)よろしいですか。
それからもう一つHOYAの事例がございます。創業者一族である株主が、平成二十一年度の定時株主総会において百十四個の議案を提案し、会社はそのうち十五個の議案のみを取り上げたものがございます。また、平成二十二年度の定時株主総会におきましても六十八個の議案を提案し、会社はそのうち二十個の議案のみを取り上げたものでございます。また、平成二十三年度の定時株主総会においては六十三個の議案を提案したということでございます。
○山添拓君 結構です。東京高裁の平成二十四年、二〇一二年五月三十一日の決定や東京高裁二〇一五年五月十九日の判決などがあるかと思います。これはHOYAの一連の今御紹介あった事件ですね。
これらの裁判例の中で民法上の権利濫用というのは認められたんでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) 委員御指摘の東京高裁の平成二十七年五月十九日の事例におきましては、一部の株主提案権の行使について、裁判所はその行使が権利濫用に当たると判断したというふうに承知しております。
○山添拓君 昨日の大臣の答弁も、民法の権利濫用法理で規制することは可能だという答弁でありました。具体的な事案で取締役が権利濫用を判断するのは困難な面がある、こういう答弁もされたんですが、権利濫用というのはまさに個別的な判断であって、何か一つの指標によって判断できるものではないと思うんですね。
法務省に伺いますけれども、二つの裁判例の事案ですが、これ、株主提案の数だけをもって権利濫用に当たる当たらないという判断したんでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) この判例につきましては、創業者一族である株主の株主提案でございまして、ちょっと長い経緯がございまして、その背景、事情等もくみして権利濫用というのを判断したというふうに承知しております。
○山添拓君 そうなんですよ。ですから、裁判例で権利濫用と認められたものも、数だけをもって認めた濫用的な事例だとしたわけではないんですね。六十とか百とか出されているものであっても、数だけで認めたわけではないわけですよ。
裁判例で問題となった事案や野村ホールディングスなどの事例は、これ二〇一〇年や一二年、ちょっと昔の、昔のと言ったら言い過ぎかもしれませんが、少し前のものです。近年の事例で一株主が十以上の提案をしたという例はありますか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
十以上の株主提案とした件数ですけれども、数は少ないわけでございますが、ございます。
○山添拓君 じゃ、それは後で伺いたいと思います。
まあほとんどないんですよね、もとより株主提案を受けた会社自体が少ないわけですから。お手元に資料をお配りしておりますが、一ページから三ページ、二〇一八年六月までの間の総会で株主提案を受けたところですが、多くは一件とか二件なんですね。
先ほどの安江議員への答弁の中で、これ十に絞るのはなぜかと、株主総会を活性化し他の株主との対話の時間も確保するんだと、こういう話があったんですけれども、そうなりますと、濫用的とは言えないような提案に対しても制限を課していくということになりかねないと思うんですね。
大臣に次に伺うんですが、これ、なぜ目くじらを立てて制限しなければならないのかということになるわけです。
本会議で大臣は、経済界から対応に苦慮しているとの指摘があったと、こういう答弁をされました。経済界の指摘というのは、たくさんの議案が出されますと、参考書類等の印刷や発送の費用が増えるとか、あるいは総会自体が長時間化するとか、こういう話があるかと思うんですね。しかし、元々株主提案というのは少数株主権です。少数意見に耳を傾けようという趣旨です。ですから、時間や費用が掛かるから、その理由で制限をしていくということであれば、もうどうせ可決されないんだったら議論の余地なしだと、こうなりかねないんですよね。これ、株主提案の趣旨に反すると思うんですけれども、大臣、その認識はいかがでしょうか。
○国務大臣(森まさこ君) 費用や時間というのもあると思いますけれども、そのほかにも、株主提案権が多数出されると、他の議案について検討する時間がなくなったり他の株主が質問する時間が奪われたりすることが考えられますので、やはり全ての株主の議案提案権を尊重するという観点からも立法趣旨になるというふうに思っております。
○山添拓君 時間や費用が掛かるから制限だと、そういう趣旨ではないということですね。
○国務大臣(森まさこ君) 今、冒頭申し上げたんですけれども、時間や、時間と何でしたっけ、費用というのもあると思いますけれどもというふうに申し上げましたので、それはないというふうには申し上げてありません。
○山添拓君 私は、時間や費用が掛かるから制限するというのはやっぱり本来の趣旨に反すると言わなければならないと思うんです。
資料の三ページを御覧ください。三ページですね。比較的多数の株主提案がなされているのは電力会社ですね。法務省は電力会社で株主提案を制限したいと、こうお考えなんですか。
○政府参考人(小出邦夫君) そのような考えはございません。
○山添拓君 それはそうだと思うんですけれども、これ、一番多かった東電でも八件なんですね。
ちなみに、関電を見ていただければ分かるように、異なる株主がそれぞれ提案をしています。一人の、あるいは一つのグループの株主が提案できる数を制限したとしても、総会全体の議案数というのは制限できないわけですね。これは間違いないですか、法務省。
○政府参考人(小出邦夫君) 一人の株主の提案権の数の制限でございますので、総会全体の数の制限ではございません。
○山添拓君 具体的にどのような提案がされているかということを次に四ページにお示ししました。脱原発・東電株主運動事務局が作成をされたこの間の株主提案の議案とその賛同率です。
例えば、二〇一九年の九議案は、株主二百二十四名の提案で提案株数は千九百六十六個、百株で一個ですけれども、千九百六十六個ですね。汚染水の保管や原発事故時の避難計画といった議題から、地域分散型配電システムや議事録の管理や開示に関するもの、あるいは女性登用の推進と、こうしたものまで提案は多岐にわたっております。これ、濫用どころか多彩に問題提起をする場となっていることがこれでお分かりいただけると思います。
法制審議会の場では、経団連や日商の委員から、本当は上限は一個から三個とするのが妥当だと、あるいは従前から三個から五個程度を希望している、こういう意見が出されていたかと思います。これ著しい制限を課そうとしているんですね。
経済界からは、さらにより根本的な株主提案の制限が提唱されています。株主提案は現在、総株主の議決権の一%又は三百個以上の議決権という行使要件があります。これを変更したいというのが経済界の本音ではありませんか。法制審でそのような議論なされましたね。
○政府参考人(小出邦夫君) 委員御指摘のとおり、議決権数百分の一、あるいは株式数三百株という提案権の要件について議論がされ、三百株の要件については廃止すべきではないかというような議論も出されましたけれども、議論の結果、そのような結論にはなっておりません。
○山添拓君 出されている、経済界から出されているんですね。要するに、三百個ぐらいで物を言うなと、少数株主は黙っていろと言わんばかりなんですね。法務省も本音は同じなんですか。
○政府参考人(小出邦夫君) 株主提案権の要件としての百分の一の要件、それから三百株の要件というのはもう趣旨が違いますので、その三百株の株式要件は撤廃すべきというような考えではございません。
○山添拓君 議決権三百個というのは果たして少数株主なのかということを次にお示ししたいと思うんです。
五ページを御覧ください。
二十六日の日経終値を基に、株主提案のための三百議決権の時価を調べてみました。東京電力で千四百二十二万円、関西電力は三千七百十七万円、中部電力四千五百七十八万円、上場会社で三百個を取得するのに必要な投資額の中央値も大体このぐらい、四千万円ぐらいだと言われております。
脱原発の提案など、運動として株主提案を行っている方が大勢おられます。しかし、そういう方々は、議決権を得るために相応の投資もされているわけですね。経団連の委員は、法制審の審議の中で、数千万ならハードルは低いだろうと、こういう発言をされているんですけれども、個人にとっては結構な金額だと思います。株主提案権そのものをこうした個人投資家から、個人株主から奪ってしまおうというのは、要するにこれ、目の上のたんこぶを潰したいと、こういう乱暴な考えだと言わなければなりません。
本法案は、議決権行使書面の閲覧謄写請求権を制限しようとしております。本会議で立法事実を具体的に明らかにするように求めましたけれども、抽象的な危険のみが示されておりました。
改めて法務省に伺いますが、議決権行使書面の閲覧謄写請求について、裁判例などで濫用的な請求が問題となった事例がありますでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) 議決権行使書面の閲覧謄写の請求が、権利の濫用等ということが問題になった裁判例は承知しておりません。
○山添拓君 裁判例として、少なくとも事件として具体的に事実になったものはないということですね。
そもそも、議決権行使書面の閲覧請求というのは何のために定められているんですか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
議決権行使書面の閲覧謄写請求が認められる趣旨でございますが、これは、株主の意思に基づかない議決権行使や書面投票が採決に正確に反映されないといった瑕疵のある処理を防ぎ、株主総会決議が適法かつ公正にされることを担保することにあるというふうに承知しております。
○山添拓君 元々の趣旨はこういうものなんですね。
しかし、本会議でも指摘をしましたように、少数株主が共同提案者を募り、また自分たちの提案に少しでも多くの賛同を得ようとする際に、ほかの株主が株主総会でどのように議決権を行使しているのかを把握することにも重要な意味があり、そのために活用されているのが閲覧謄写でもあるわけです。
こうした場合に、会社が、権利濫用に当たるとして閲覧謄写を拒否することはできるんでしょうか。
○政府参考人(小出邦夫君) お答えいたします。
今回、議決権行使書面等の閲覧等の請求の拒絶事由に関する規定を新たに設ける趣旨は、閲覧等請求権の濫用的な行使を制限することにございまして、適正な当該請求権の行使を制限することは想定していないところでございます。
個別の事案における具体的な事情によるものの、委員御指摘のような、株主が少数株主権の行使に必要な持ち株要件を満たすために他の株主を募る目的で議決権行使書面等の閲覧等の請求を行ったときは、株主がその権利の確保又は行使に関する調査の目的で議決権行使書面等の閲覧等の請求を行ったときに該当すると考えられますので、基本的には会社側は拒絶できないというふうに考えております。
○山添拓君 本当にそのように運用されるのかということが大きな問題であろうと思います。
閲覧謄写と言いながら、撮影やコピーが禁止されている実態があります。ですから、書き写すしかないと。
大臣は本会議で、実務における運用状況や各方面での議論の状況を注視し必要な検討をすると、こう述べました。閲覧謄写請求権のその趣旨に照らせば、少数株主が賛同者を募ろうとするのを妨害するような、こういう会社の態度というのは許されないはずであります。
撮影だとかコピーのその費用を誰が払うのか、これは議論があると思いますが、これは手書きで書き写すしか認めないというのは、これはさすがにふさわしくないんじゃないかと思いますが、法務省、いかがですか。
○政府参考人(小出邦夫君) 閲覧謄写の謄写の意義でございますが、一般に、謄写とは、手書きによる書き写しのみならず、写真撮影又はコピー機による複写を含むものであると考えられております。
他方で、一般に、株主が議決権行使書面の謄写を請求することができるということの意味は、会社は株主に謄写のための場所を提供して謄写をさせ、その間、謄写を妨げてはならない義務を負うことを意味しておりまして、株主は、会社に対して謄本、抄本の交付を求めることはできず、会社のコピー機等を使用させるよう求めることもできないと解されているものと承知しておりますが、会社が任意に謄本又は抄本を交付し、あるいは会社のコピー機等を貸し出して使用させることはもとよりも妨げられないものだと考えております。
○山添拓君 運用状況や議論の状況を注視し、必要な検討をすると、こういう答弁ですので、実際どういう状況があるのかということはお調べをいただいて、そして適切な対応ができるように、要するに、何百人、何千人という、場合によっては書き写すと、二日、三日にわたって書き写しを続ける、こういう事態がないようにしていただきたいと思うんですけど、いかがですか。
○政府参考人(小出邦夫君) 状況を注視して、適切に対処してまいりたいと思います。
○山添拓君 適切に対処いただきたいと思います。
株主提案を受けるのがどれだけ嫌なのかということだと思うんですね。衆議院で前川参考人は、株主提案が導入されて四十年近くになる中、濫用的な事例は一件か二件にすぎないと、こう指摘をされた上で、株主提案権というのは会社の民主化みたいなものだと、民主主義の中ではもういろんな意見が出てくると、それに一つ一つ誠実に向き合っていくのが民主主義の支払うべきコストではないかと、このように述べております。少数株主の権利を尊重した株式会社の民主的な運営に資する、こういう制度構築を進めていくべきだということを指摘をしたいと思います。
それから、業績連動報酬や取締役報酬の個別開示などの問題についても質問をさせていただこうと考えておりましたが、時間が参りましたので後日の質問に委ねて、質問を終わりたいと思います。
ありがとうございました。

 
○参考人(藤田友敬君) 東京大学の藤田でございます。
本日は、この委員会にお招きいただき、意見を述べさせていただく機会を与えられたことにつき感謝いたします。
今回の会社法の一部を改正する法律案、以下改正法案と呼ばせていただきますが、これは法制審議会において本年一月十六日に採択された会社法制(企業統治等関係)の見直しに関する要綱に基づき作成されたものと理解しております。私は、この要綱の作成のために設けられた会社法制(企業統治等関係)部会において、委員として議論に参加させていただきました。もちろん、個々の論点につき個人的な意見がないわけではございませんけれども、なかったわけではございませんが、最終的には要綱全体について採択に賛成しており、したがって、この改正法案による会社法改正が成立することを期待しているものであります。
平成十七年に制定されました会社法は、他の法律の改正等に基づく技術的な修正を除きますと、平成二十六年に一度改正され、今回は二回目の大きな改正ということになります。前回の改正では、取締役会改革やグループ企業のガバナンスといった重要なテーマを取り扱っておりましたが、今回の改正法案も、株主総会の規律、取締役の報酬や責任に関する規制等、我が国の企業や投資家、さらには資本市場の在り方にとって大きな意義を持つ内容を含んでおります。
今回の改正法案の提案理由は、「会社をめぐる社会経済情勢の変化に鑑み、株主総会の運営及び取締役の職務の執行の一層の適正化等を図るため、」と述べてありますが、会社法制は、企業社会が健全に発展するための重要な制度的インフラの一つであり、時代と社会の要請に応じ、絶えず適切にメンテナンスしていくことが求められるわけで、今回の改正もまさにそのような試みの一つです。
ただ、ここで一点だけ注意していただきたいことがございます。会社法は、企業組織や資本市場を支える重要な制度インフラの一つではあるのですが、決して唯一のものではございません。例えば、上場会社の規律には金融商品取引法が重要な役割を果たしております。金商法は、内部者取引や相場操縦規制のように資本市場の秩序を維持する規律も行っていますが、同時に、最近では、議決権行使結果の開示ですとか役員報酬の開示に見られるようなコーポレートガバナンスをめぐる重要な規制ツールでもあります。
また、最近では、ソフトローと呼ばれる規制の意義も強調されています。ソフトローは、会社法や金商法のようなハードローとは異なり、国が作成し、国がエンフォースするような規範ではありませんが、近年、コーポレートガバナンス・コードですとかスチュワードシップ・コードといった重要なソフトローの存在感が増してきております。このように、企業組織あるいは資本市場の在り方を支える重要な制度的インフラとして会社法以外にも重要なルールが存在しており、会社法はそれらと合わさって適切な結果がもたらされることが期待されているものであります。
このように、ソフトローとハードローの間、あるいはハードローの中でも会社法と金商法の間のすみ分け、役割分担、こういったことは会社法制部会の議論でも常に意識されてきたところであります。改正法案の条文だけを見ると何か物足りないというふうに思われることがあっても、それは規制なく野放しにせよという趣旨ではなくて、ソフトロー等による規制を期待しているという場合もあるということに御留意いただければと思います。
以上は改正法案全体に係る意見でしたけれども、以下では主要な改正事項についてごく簡単に述べさせていただければと思います。お時間の制約もございますことから、今回の改正の中でも中心的な内容となっております株主総会関係と取締役関係を中心にお話しさせていただければと思います。
まずは、株主総会関係です。
株主総会関係の第一の改正点は、株主総会関係資料の電子化であります。
現在の会社法の下では、株主総会の招集通知と一緒に、書面による議決権行使のための必要な参考書類等が併せて郵送されております。今回の改正法案は、これらの書類、条文では株主総会参考書類等というふうに呼んでおりますが、これについて電子提供すればよい、典型的にはウエブサイトで株主総会参考書類等を掲載し、招集通知にはアクセス方法を記載すればよいという形にしております。もちろん、現在でもウエブサイトに株主総会参考書類等を掲載している会社はかなりの数あると思いますが、それをしても別途書類は郵送しなければならないとなっていたところを、そうしなくてもよくなるわけであります。
同時に、会社法案は、電子化に対応できない株主についても配慮をしております。書面交付請求権というのを認め、株主が今後も書面で株主総会参考書類等を下さいと会社に請求すれば書面での提供が保障されるということにしております。
改正の意義には、一つには費用の節約、会社にとっても社会にとっても無駄な紙を減らすということは望ましいことではありますが、それに加えて、電子化により印刷の時間が節約できると情報がアップされる時間が早められ、総会への準備がより充実することにもつながります。また、書面の郵送にこだわると、送ることのできる情報に質的、量的な制約が生じるところ、電子提供を認めれば、より充実した情報開示につながる可能性もあります。
なお、念のために付言しておきますと、今回の改正法案が提案しておりますのは株主総会関係資料の電子化でありまして、株主総会それ自体を電子的に行い、物理的な意味での会合は存在しない、いわゆるバーチャル総会ですとか、あるいは株主が電子的に総会にアクセスし、質問したり議決権を行使したりするという話は取り扱われておりません。こういった問題、重要じゃないというわけでは決してないと思うのですが、ただ、こういった問題についてハードローである会社法で規制するのはいまだ時期尚早と考えられ、まずは書類の電子化という手堅いところから法制化しようとするものと考えられます。
株主総会関係では株主提案権についても取り扱われており、具体的には提案数の上限規制が設けられるように提案されております。株主提案という制度は諸外国にもあるのですが、その場合、提案株主は、自分の費用でその提案を他の投資家に知らせ、委任状を取り付けるという形で会社に対抗するのが通常であります。これに対して、日本の株主提案は、提案株主は、一定の要件の下、会社の費用で議案の要領を他の株主に通知してもらうように求めることができることとなっており、その意味で手厚い保護が与えられていることになります。
しかし、総会直前に膨大な数の提案が、提案権が行使されますと、会社としては、要件を満たす提案がどれで、そうでないのはどれかといったことを区別する作業などが大きな負担になってきます。また、総会当日も、特定の株主の提案が株主総会の相当時間を占めてしまうという事態も生じ得ます。
実際こういったことが、会社、さらには、より重要なことには、提案株主以外のその他の株主の共同の利益を害しているのではないかということが問題視されるような事件が現実にも起きてしまいました。この改正法案は、それに対する規制を導入しようとするものと理解しております。
次に、取締役関係です。
第一は、取締役の報酬等です。
役員報酬の規制は、世界的にもコーポレートガバナンスの中心課題として注目されております。日本の会社法は、定款で定めない限り株主総会決議を要求するという点では、例えばアメリカ等に比べると報酬規制が一見厳しそうにも見えるのですが、求められる決議内容は、例えば金銭報酬の場合は取締役全員の報酬総額の合計の上限だけを決めればよく、また、総額を変更しない限りは取締役が入れ替わっても決議し直す必要はないなど、やや形式的な規制になっている面はございます。
改正法は、取締役の個人別の報酬等の決定方針を取締役会で定めることを要求しております。背後にある問題意識は、適切なコーポレートガバナンスという観点からは、会社から出ていく金額の総額だけではなく、誰にどのような性格の報酬をどのような形で与えるのかということこそが重要なので、この点についての方針をきちんと決めさせようという、そういうことなのだと思います。
次に、取締役の責任との関係で、会社補償及び会社役員賠償責任保険という制度が提案されております。
会社補償というのは、会社の業務執行に当たって役員等が第三者に対して責任を負った場合、一定の要件の下、会社から補償を受けるというもので、改正法案はその旨の契約を締結することを認めております。諸外国では割とよく見られるものなのですが、日本の現在の会社法には会社補償制度は存在しません。ただ、民法六百五十条三項に基づいて、会社に対して、一定の場合、請求する可能性があるにとどまります。
そこで、今回の改正法案は、会社補償制度を新設し、一定の内容の補償契約の締結を可能にし、かつ、そのための手続を整備すると同時に、事後的な開示を要求し、透明性を確保しようとしております。
注意していただきたいのは、役員等の対会社責任の免除、軽減についての厳格な規制が形骸化しないように改正法案は留意しているということであります。具体的には、問題の取締役等の行為が、第三者に対する責任に加えて会社に対する責任をも惹起し得るものである場合には、補償契約の対象とはならない、補償の対象にはならないとしていることであります。
次に、会社役員賠償責任保険は、一般にはDアンドO保険などと呼ばれておりますが、これについて、会社が保険契約を締結する場合の手続や開示に関する規制の導入が提案されております。
時折誤解が見られるのですが、これは、今回の改正によって初めて可能になるというものでは決してございません。DアンドO保険は、既に我が国においてもかなり広く利用されております。しかし、現在の会社法にはこれについての規定が存在しておらず、締結のための手続も必ずしもはっきりしません。
改正法案の性格は、これまでできなかったDアンドO保険の利用を可能にするといったものではなくて、むしろ、既に存在するDアンドO保険について、その締結のための手続を明確化するための規律を置き、これに加えて、事後的に開示を要求することで透明性を高めるというものです。あえて乱暴な言い方をさせていただきますと、規制を強化するといった性格のものと理解すべきだと考えております。
最後に、社外取締役について、二点ほど提案がなされております。
第一点は、社外取締役の設置強制であります。
平成二十六年改正の際には、議論の末、設置強制は見送られたのですけれども、今回設置強制を導入したのは、会社法というハードローで社外取締役の設置を確保することが我が国の証券市場への信頼を高めるために望ましいという考えからだと理解されます。
また、社外取締役への業務執行の委託という条文も提案されております。
社外取締役は業務を執行してはならず、業務執行すると社外性を失うというのが現在の法制であります。しかし、社外取締役が行うにふさわしい業務もあるのではないかということが、近時、指摘されるに至っております。
例えば、いわゆるマネジメント・バイアウト、MBOの際に、一般株主を保護するために社外取締役を中心とした特別委員会を設置し、そしてその特別委員会によって条件の向上を図るといったことがなされることがしばしば見られるわけでありますが、その委員会の長である、特別委員会の長である社外取締役が買収者と価格交渉をして買収価格を上げるように努めるといった活動が典型であります。しかし、これは業務執行に当たる可能性がありますので、現行法の下では社外取締役が行うことはできないのではないかという疑念があるわけですが、実質としては、まさにこれは社外取締役が果たすべき役割ではないかと思われます。そこで、改正法案では、こういったことを可能にするために、限定された範囲内ではありますが、社外取締役に対して業務執行を委託することを認めることとしております。
以上のコーポレートガバナンス関係の改正のほかに、改正法案では、社債に関する改正、あるいは株式交付と呼ばれる新しい名称の制度の新設も提案されております。これらが決して重要ではないというわけではありませんが、多分に技術的な性格が強い改正であるために、私の意見陳述では省略させていただければと思います。
以上、今回の改正法案における主要な改正事項、とりわけコーポレートガバナンスに関わる改正点について意見を述べさせていただきました。膨大な改正条文について短時間でお話しさせていただくためにどうしても話が大ざっぱになり、しかも相当早口になってしまい、申し訳ございませんでしたけれども、以上で私の意見陳述を終えさせていただきます。
どうもありがとうございました。
○委員長(竹谷とし子君) ありがとうございました。
次に、大久保参考人にお願いいたします。大久保参考人。
○参考人(大久保拓也君) ただいま御紹介いただきました日本大学法学部教授の大久保拓也です。
これまでに、取締役の報酬ですとか責任に関する規制を中心に研究をしてまいりました。この度は、会社法それから整備法の改正案について意見陳述を行う機会をいただきました。改正会社法に関して、気になる幾つかの点について意見を述べたいと思います。
お手元には、企業法実務研究会の意見書といったものと私のレジュメを配付させていただきました。この企業法実務研究会は、民商法の研究者や実務家が所属する研究会におきまして、改正法、会社法に関する意見書をまとめたものとなりまして、法務省に提出した後に雑誌に掲載をしていただいたものとなります。参考までに御覧をいただければと思います。今回の参考人としての意見につきましては、この研究会における意見を踏まえながら、若干の問題点を指摘をしていきたいと思います。
改正法案の評価となりますが、今回の改正法案は、社会経済情勢の変化に伴い、株主総会に関する手続の合理化、社外取締役の設置の義務付け等のコーポレートガバナンスの改善のための規律の見直し、社債の管理の在り方の見直しの要否を検討することなどが求められており、そこから審議が行われてきたとされておりますので、上場会社向けの規制というのが改正の中心に据えられていることかと思います。
そのうちの一つが株主総会資料の電子提供制度になりますが、この電子提供制度については評価すべき改正ではないかとは思います。これは株主総会の資料をウエブサイトに掲載し、株主に対してそのアドレス等を書面により通知することで株主総会の資料を株主に電子提供する制度を創設するものであります。
現行の会社法においては、株主総会の資料の提供は原則として書面によることとされ、インターネットによる提供をするには株主の個別の承諾を得るということが求められますので、株主数の多い上場会社にとって、資料の印刷や郵送のコストが掛かっていたという問題があります。
ただし、インターネットの提供ということになりますので、いわゆるデジタルデバイドの問題というものを考慮しなければならないということはあったかと思います。
これに対しまして、改正法案では、郵送等のコストを減らすとともに、株主には現行と同じか、より早い、二、三週間ほどですけれども、より早い情報提供を受けることができるというような仕組みを設けるということにしております。また、資料の提供を希望する株主には書面交付請求を認めています。これらの措置がとられるということに鑑みますと、この改正というのは妥当な改正ではないかとも思います。
次に、取締役の報酬に関する規制の見直しというのが改正法案の一つの課題となっておりますけれども、これについても妥当な改正だと考えております。
現行法では、上場会社であっても、報酬の決定方法の機関法制によりまして決定方法に違いが見られるということになります。指名委員会等設置会社では個人別の報酬の内容を報酬委員会で決定しますが、それ以外の会社では個人別の報酬の内容まで決定することが求められてはおりません。これは、日本の会社法が中小会社から公開大会社まで会社法一本で規制をしており、報酬の詳細な開示を望まない中小会社にも配慮したといったことが影響しているのかとも思います。もっとも、外国人株主の増加もありまして、公開大会社、特にグローバル企業におきましては、報酬の開示や決定方針の明確化をすべきだという要求が求められてきております。
そこで、会社法の改正案では、取締役の個人別の報酬等の内容が定款又は株主総会の決議により定められていないときには、一定の監査役会設置会社と監査等委員会設置会社の取締役は、取締役の個人別の報酬等の決定方針を定めなければならないものとし、これを開示することを求めています。こういった改正が行われれば、報酬の開示が現行に比べますとより充実することが見込まれます。
このように、改正法案には評価すべき点が多数見られます。ただ、今、理論的に幾つかの問題もあるのではないかというふうに思います。時間の制約もありますので、ここでは三点ほど問題点を指摘をさせていただければと思います。
一つ目が株式報酬についてとなります。改正法案では、株式や新株予約権を取締役に対するストックオプションとして交付しようという場合の規制を整備しようとしております。現行法では、新株予約権について、その行使に際して必ず財産の出資をしなければならないため、実務上、行使価額を一円として、実質的に出資をせずに、出資を要せずに新株予約権を交付するといったことが行われてきています。
このように、ストックオプションに係る出資について金銭の払込みをしないか、払込金額を極めて低い金額とすることは、労務出資と同じような状況が生じているというふうにも思われます。労務出資は、合名会社、合資会社の無限責任社員には認められていますけれども、その他の合資会社、合同会社の有限責任社員は金銭等の出資しか認められていませんし、株式会社についても金銭その他の財産の出資を前提としているということになりますので、ストックオプションを報酬等と位置付ける場合の規制がこの会社法の改正案には盛り込まれるということにはなりますけれども、理論的には、どう位置付けるか、法的に位置付けるかについての疑問は残っているのではないかと思われます。
二つ目に、株主提案権についてということになります。
改正法案では、株主提案権について、目的等の制限と議案数の制限を提案しておりました。目的等の制限につきましては、さきの衆議院の検討によってこの条項については削除されたということでございますが、議案数の制限の問題というのはまだ残っているのかと思われます。
この株主提案権のうち、議案要領の通知請求権については、取締役会設置会社の株主の提案が十を超える議案について議案要領通知請求権を認めないこととし、提案できる議案の数を十個に限定しようとしております。この改正案が示されたのが、一部の株主により膨大な数の議案が提案された場合や株式会社を困惑させる目的で議案が提案された等、近時の濫用的な行使事例に鑑みて改正するということが検討、会社法の検討の中で示されていたところです。
もっとも、そこで取り上げられた事例がごく一部の特定の株主による行使事例でありまして、その対象会社は行使者が創業者一族であったといったような特殊な事例であったということにすぎません。こういった一部の特殊な事例を根拠として株主の重要な権利である株主提案権の行使が制限されるというのは、立法の在り方としては妥当とは言えないようにも思われます。
もっとも、このような対策では不十分であり、濫用に対する懸念はあるということは理解することはできます。
同様の懸念で、かつて立法においては、平成五年の株主代表訴訟の改正においては、取締役の違法行為時の株主であったか否かという行為時株主原則といったものを検討されたことがありましたが、その導入は見送られたということがありますが、濫用の懸念から権利行使を行わせないといった仕組みの導入にはやはり慎重であるべきではないかというふうに思います。そういった点を考慮するには、制度の導入の趣旨に立ち返って検討するということが必要ではないかと思います。
元々、株主提案権は、昭和五十六年に株主総会活性化の一つの方法として導入されたものですが、株主提案権の濫用が懸念される、特に上場会社などにつきまして、取締役会の設置が求められる会社については、百分の一以上の議決権又は三百個以上の議決権を六か月前から引き続き有する少数株主に限定されるというふうにしています。
少数株主とされていますが、かつての株主運動、一株運動といったような株主などとは異なり、現在、この上場会社でこういった行使要件を満たす株主というのは、実際には大株主と見るべき数の株主ではないかとも思います。また、中小会社であった場合ですと、経営権を握っていない大株主が行使するといったことが考えられるかと思います。
こういった権限の濫用防止策として、議案が法令、定款に違反する場合、実質的に同一議案について一定の賛成を得られなかった日から三年を経過していないという濫用防止策も現行法でも定められているということもあります。
また、今回の改正では、招集通知の印刷等に関するコストの増加も予定されているところですが、改正法案では、株主総会資料の電子提供制度を採用する会社については、その電子提供することで対応することができるものもあると考えられます。
そういったところを考慮しますと、株主提案権が創設された趣旨というのを考慮しまして、現在ではこの株主との対話というものが求められる最近の社会情勢に鑑みて、議案数の制限を付ける必要性も乏しいのではないかとも思います。
三つ目は、株式交付の制度となります。
現行法において、対象会社を完全子会社にしたい場合の制度としては株式交換制度があります。もっとも、対象会社を買収しようとするものの、対象会社を完全子会社化と、子会社とすることまでは望んでいないという場合もあります。
改正法案では、株式交付という買収の手法を新たな組織再編行為として新設しようとしています。株式交付とは、買収会社が対象会社を子会社とするために、対象会社の株式を譲り受け、その株式の譲渡人に対して対価として買収会社の株式を交付するという、そういう制度となります。
この方法を現行法の下で行う場合、買収会社が対象会社の株式を現物出資財産として買収会社の株式を発行しなければならず、そういった場合には検査役の調査が必要となるといったために、手続的な時間が要するという問題点があるという指摘がされております。
そこで、言わばその部分的に株式交換制度を導入するといった位置付けで、株式交換制度に倣い株式交付制度を導入している、こんなふうに考えられるのではないかと思います。
もっとも、株式交換制度は、持ち株会社の創設、つまりは結合企業を形成する手法として導入されたものですが、株式交付制度はそういった理念に基づくものというわけではないのではないかとも思います。対象会社の株式を現物出資財産とする規制を避けるために、株式交換制度になぞらえた制度としたものではないかとも考えられます。
現物出資規制は資本充実規制の一環として重要な役割を果たすものであり、出資財産の評価というところが問題となります。その厳格な規制を回避する手法として株式交付制度が導入されるということであるとすれば、妥当ではないのではないかとも思います。また、改正法案が実現された場合であったとしても、この現物出資規制の適用範囲といったところ、そういったところをやはり理論上明確にするということが求められるのではないかなというふうに考えているところです。
その他にも多数の改正事項というのがありますけれども、時間の関係がありますので、私の意見は以上となります。御清聴ありがとうございました。
○委員長(竹谷とし子君) ありがとうございました。
次に、木村参考人にお願いいたします。木村参考人。
○参考人(木村結君) 御紹介いただきました木村結と申します。本日は、参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。
私が所属しております脱原発・東電株主運動について少し御紹介をさせていただきます。
一九八六年にチェルノブイリ原発事故が起こり、八千キロも離れた日本でも農作物が三百七十ベクレルという高い基準値を超えました。その三年後、昭和天皇が亡くなったニュースに隠れて報じられたのが、福島第二原発三号機の大事故でした。回転板が脱落して警報器が鳴り響いても運転員は原発を止めず、大惨事になる直前でした。
子育て中の私は、情報公開を東京電力に求めましたが、東電は全く応じてくれませんでした。そこで、友人たちに声を掛けて東電の株を買い、株主総会で情報公開を求めることを思い立ちました。当時、東電株は単位株で百株で五十九万円もしておりましたので、私は借金をして百株購入いたしました。一九九一年には、二百四十九人、三万七千三百株集まり、株主提案権も行使できるようになり、その後、二十九年間連続して提案しております。原発を有するほかの八つの電力会社でも同様の株主運動があり、活動し、交流を図っております。
二〇一一年の福島第一原発事故直後の東電株主総会には、九千三百人もの株主が総会に参加、用意された六つの会場から人があふれました。口々に、国民の代表として参加した、株主として黙ってはいられないとの怒りの声が充満していました。
大企業、特に国民の生活、安全に大きな影響を与える医薬品や原発などを扱う企業は社会的責任も大きいと考えています。その企業経営を監視する株主としての役割も私たちは大きく担っているんだと思って活動しております。もちろん、全て自前の費用で活動しており、この活動に関してどこからも報酬をいただいておりません。私自身、一般企業で働きながらこの活動を続けてまいりました。
午前中も実は今日傍聴させていただきましたが、会社は社会の公器であるという言葉を何人もの委員の方々から御紹介がございました。その都度、私は、私たちも本当に同じように思って提案をしているのだということを今日もお話しできるというふうに思っております。詳しいことは後ほどお話しいたします。
先日、衆議院の法務委員会において、私たちの主張を尊重していただき、修正案が出され、全会一致で可決していただきました。このことにはとても感謝をしております。しかし、この会社法の一部を改正する法律案には、まだまだ多くの問題点がございますので、指摘させていただきます。
まず一つ目は、三百五条の四項です。本条項は、株主が同一の株主総会で提案することができる議案の数を制限するものですが、このような改正の必要性を根拠付ける立法事実はないと思われます。過去三年間を商事法務という雑誌で、資料編で調べましたが、三千五百社ある株式会社の中で、株主提案が行われたものは、二〇一七年五十二社、二〇一八年五十八社、二〇一九年で六十五社と、微増はしておりますが、たった二%未満です。一人で十件を超えての提案は、三年間でたった七件、七社のみです。株主提案の数を制限する理由は見当たりません。
会社全体で最も提案数が多い関西電力においての事例を述べてみたいと思います。
二〇一九年、脱原発で関電株主行動の会が八件、京都市が五件、大阪市が八件、うち京都市との共同提案が四件、他団体が四件、合計の二十一件でございました。この京都市も大阪市も御存じのように脱原発提案でございます。しかし、共同提案をするなど、大阪と京都はですね、共同提案をするなど配慮がなされており、ほかの団体も節度を持った提案数を維持しています。
いたずらに多くの提案をしたのは、株主提案権が成立してから三十九年間でたった一件、二〇一二年の、まあ百件を超えたものは一件ですね、二〇一二年の野村ホールディングスしかありません。午前中には小出さんが、課長ですか、が二件ほど六十件を超えた事例を述べていらっしゃいましたが、その中でも、六十件を超えても会社の提案、会社がそれを提案として受理するのはその中の十件とか数件にとどまっております。
更に付け加えると、関電においてもほかの電力会社でも、株主の発言は三分に制限されております。株主総会に要した時間は、最長の関電の三時間四十七分、これは二〇一九年のデータです。ほかでも三時間を超えるものは、三年間で二〇一七年の東電の三時間四分のみでございます。いたずらに長引かせるとか、そういうことはほとんどの株主提案ではありませんし、議論を、会社の方が発言を非常に制限をして株主総会を早く終わらせようというふうにしております。それが事実でございます。
以上のとおり、そもそも立法事実がなく、会社側の恣意的な判断が予想される本条項は削除をしていただくよう願います。
二点目、三百十一条ですね、書面による議決権の行使に移ります。
株式会社は、議決権行使書の閲覧を、請求を拒否できる、拒否することができる例として、調査以外の目的で請求を行ったとき、請求者が当該株式会社の業務の遂行を妨げ、又は株主の共同の利益を害する目的で請求を行ったとき、請求者が前項の電磁的記録に記載された事項を法務省令で定める方法により表示したものの閲覧又は謄写によって知り得た事実を利益をもって第三者に通報するため請求を行ったときとしていますが、上記に該当するようなことがこれまで起こったということを承知しておりませんし、具体的にどのような場面を想定されているのかも不明でございます。立法事実も存在しないのではないかと思われます。
私たち九団体は、株主提案をした後、各々の電力会社の本店にて議決権行使書の閲覧、謄写請求をし、二日から数日掛けて手書きで書き写す作業をしています。時間が掛かるのはコピーが許されていないからです。そこには電力会社の社員が交代で見張り役に付きます。個人情報を開示しているのですから当然ですが、それが会社の業務の遂行を妨げていると判断されたら拒否できることになります。
さらに、ここにも株主の共同の利益という文言は残っており、少数株主が賛同者を募る行為が共同の利益を害すると判断されたら拒否できてしまいます。衆議院法務委員会での削除と平仄を合わせるべきだと思います。
知り得た事実を利益をもって第三者に通報とは、例えば、○○社は原発再稼働に賛成票を入れた会社だから不買運動しましょうと呼びかける行為は含まれてしまうのでしょうか。曖昧な表現がそこかしこにちりばめられており、会社が恣意的に解釈できる条文はふさわしくありませんし、具体的な事件を列記されないなら、立法事実がないと言わざるを得ません。
三つ目に、第二編第四章第一節の三款、三百二十五条の二から七まで、電子提供措置について申し上げます。
電子化は避けられない課題だとは思いますが、運用に当たっては移行期間を五年間設けるなどの措置が必要と考えます。
条文では、書面交付請求ができることになっており、はがきが送られ、そこにはメールアドレスが記載されているとの説明がありましたが、電力株で考えてみますと、昔から安定株で配当も良かったために資産として代々受け継がれている方が多く、所有者も御高齢の方が多いのが実情です。メールアドレスを打ち込み、的確に返信できる方がどれほどおられるでしょうか。
十年前、株券の電子化に伴い証券保管振替機構、保振機構が設置され、株主提案権を行使するためには、それまでは提案株主になる合意書にサインと押印をすれば事足りましたが、十年前から証券会社に当該株を所有しているという証明をしてもらう必要があり、その手数料を一回につき三千二百四十円、今後、今は三千三百円になりましたが、支払わなければならない証券会社もあり、今それは、手数料を取る会社は増加しています。
手続も煩雑で、国で決められた期間内、四週間で手続を終えなければいけませんが、その手続をスムーズにやってくれない証券会社も多々あります。そのため、二〇〇八年には四百九十六人、三十三万六千株の賛同があった東電株主運動の提案が、電子化に伴う手続を嫌って、二〇〇九年には二百八十三人、十七万四千八百株と半減しました。
移行期間を設けていただくよう切に望みます。
また、三百二十五号の五条一項では、電子提供事項について書面交付請求ができる旨の定めがあるものの、同三項では、株式会社は、電子提供措置事項のうち法務省令で定めるものの全部又は一部について、前項の規定により交付する書面に記載することを要しない旨を定款で定めることができるとしています。さらに、同四項では、書面交付請求をした株主の権利は一年で消滅し、書面交付を希望する株主は毎年その請求をしなければならないことになっております。これでは会社の事務負担の軽減ばかりが重視されており、インターネットの利用が困難な御高齢の株主等に対する配慮が十分になされているとは言えません。
現状をお話しすれば、株主提案とその説明は一提案各四百字にまとめて株主招集通知に記載されます。株主の手元に届く書面でじっくり検討して、同封の議決権行使書に賛否を記入し投函するというこれまでの株主の権利が大きく阻害されることになりかねません。
四番目として、第四百三十の二及び四百三十の三です。補償契約及び役員等賠償責任保険契約について申し上げます。
役員等賠償責任保険契約については、国内外の優秀な取締役招聘のため、既に各社の取締役会で決定し、行われているとのことですが、そうであれば会社法で改めて規定する必要がどこにあるのでしょうか。
企業の社会的責任を考えるとき、取締役には緊張感を持って執務に当たっていただきたいと思います。取締役が法令違反を理由に第三者から訴訟を提起された場合に、会社が取締役の裁判費用等を補償する契約を締結できるとされていますが、取締役に悪意があっても重過失があっても会社の資金でこのような裁判費用が補償されるというのは、優秀な人材を国内外から確保するためという目的から大きく逸脱しています。
悪意のある、重過失を犯すような人材に高給を支払い、その取締役が法令違反を犯した際に裁判費用等を補償することが会社の利益や発展につながるとはとても思えません。むしろ、悪意や重過失がある場合にまで補償を認めてしまうことは、違法行為に手を染めてでも目先の利益を上げようとする誘惑を誘うことになりかねません。取締役個人が自分で費用負担すべきものであります。
最後に。私が初めて東電の株主総会に出席した際は、東電の本店の二階で二百名ほどの会議室でした。総会屋とおぼしき人たちが居並び、ほかは下請や社員OBでした。質問の声はやじと怒号でかき消され、とても一流会社で行われていることとは思えませんでしたし、恐怖すら感じました。私たちが参加し、提案権を獲得してからは日比谷公会堂で開催するようになりましたが、取締役が並ぶひな壇の前には警備会社の制服を着たガードマンが並び、株主から役員を守っていました。総会屋は幅を利かせていましたので、私たちもとても恐ろしく、株主提案席を特別に確保してもらい、身を守りました。
私たちが株主提案ができるようになったのは、一九八一年に商法が改正されたおかげでございます。その趣旨は、形骸化している株主総会を民主的に運営するため、株主が意見を発表し合い、ほかの株主や会社や取締役と相互に信頼関係を築くためでした。三千五百社で株主提案が行われているのはたった六十五社、二%に満たないのです。まだまだ改革の道半ばです。株主総会をもっと自由な議論で活性化することこそ政府がすべきことで、個人株主の権利を制限することではありません。
冒頭、株式会社は社会の公器であるという気持ちで提案していると申し上げましたが、今年の提案の一部は……
○委員長(竹谷とし子君) 木村参考人、お時間が過ぎておりますので、御意見をおまとめください。
○参考人(木村結君) はい。あともう少しで終わります。
今後の見どころ、聞きどころというチラシをお送りしてございますが、これは毎年株主総会で株主に配るものです。この中の第九号議案は女性登用の推進、十号議案は会議議事録の記録と管理及び開示……
○委員長(竹谷とし子君) 木村参考人……
○参考人(木村結君) そして、災害に強い地域分散型送配電システムの推進など、社会の、脱原発だけではなく、会社の社会的責任ということを訴えております。
長くなって失礼いたしました。以上でございます。

 
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。今日は三人の参考人の皆さん、大変ありがとうございます。
初めに、三人の参考人のそれぞれに伺いたいと思います。
今、日本を代表する企業の不祥事が相次いでいる状態かと思います。東芝の粉飾決算や日産自動車の役員報酬についての虚偽記載、また特別背任、さらには、関電の原発マネーの還流疑惑があり、社外取締役がいても不正を見抜けていない実態があります。また、関電の場合には、取締役を監視すべき監査役会が問題の隠蔽に加担をするという有様だったと、このことも報じられております。
昨日、本会議の場で森大臣は、今度の法改正案の提出に当たって、企業で不祥事が生じていることも踏まえた議論がされたものと述べておりました。
参考人の皆さんから見て、今度の法改正はこうした企業の不正防止に必要十分なものと考えるかどうかと、この点の御意見を藤田参考人、大久保参考人、そして木村参考人にそれぞれ伺いたいと思います。
○参考人(藤田友敬君) 直接のお答えになっているかどうか少し自信がないところもあるのですが、よく企業の不祥事の防止のために社外取締役が役に立つんですかということを聞かれます。これは、社外取締役の役割についてのかなり深刻な認識の誤りではないかと思っております。
不祥事を見付けて、それを、不祥事を、会社の隠れた不祥事を見付け出してくるような機能というのは社外の人に期待すべき機能ではない、そんなことは社外の人に簡単に分かるはずがないと思うのですね。社外取締役が監督機能を果たすというのは、決してそんなことを期待しているのではありません。内部統制システムの充実などであればそういうことに寄与すると思いますし、まだしも、常勤監査役などが一生懸命する方がそういうことには役に立つんだと思います。
社外取締役の機能というのは、経営陣と距離を置いたような立場の人がその経営陣を評価し、場合によっては首を切る。不祥事を起こすような、そういったことをするような経営陣、あるいはそんなことをする人、経営陣を首にするとか、そういったような意味での監督。それは、従来からいる社内の人だとかつての上司と部下のような関係が持ち込まれるために、どうしてもそれが抑止が利かないときに、独立性が高いから容赦なく首を切ったり給料を削ったりできる、そういった意味での監督を期待しているのであって、決して自ら不祥事を暴くようなことを社外取締役に期待しているわけではないと思うんですね。
ただし、そういった形で独立性の高い取締役会なり中の委員会がつくられると、その下に実効的な内部統制システムなんかが置かれることによって、不祥事の防止に間接的に強化されていくことになることが期待されるとは思っております。
以上でございます。
○参考人(大久保拓也君) 企業の側でこの不祥事が起こってきたりする、その体制を、それが起こされないための体制をどうするか、企業の側の経営体制ということも必要になるんだろうと思います。そこで、先ほど内部統制システムの御発言がありましたけれども、会社の側で自発的に法令遵守を充足するための体制、これをきちんと構築していくという、そういうことが必要になるだろうと思います。
また、企業の不祥事があった場合、そこが分かった場合に内部告発等が最近は出されてきますので、その不祥事が分かった場合に、それを適切に対応することができるのかどうか、この場面ではやはりこの社内の取締役や社内の監査役よりかは社外の取締役、社外監査役といったものが適切に対応する、そういったものが存在して対応することのできる体制が整えられているということであれば、企業の不祥事は防ぐことができる体制が構築できるんじゃないかと思います。
それから、会社法では社外取締役を導入を強制するという、進めるという、そういう改正もありますので、その点は一歩前進になるんじゃないかなというふうに考えております。
○参考人(木村結君) ありがとうございます。
私が知るところは会社は東京電力ぐらいしかないんですけれども、東京電力の例えば監査役、それから社外取締役が機能しているかと申し上げますと、全く機能はしておりません。それはなぜかと申しますと、取締役会の様々な提案とかそれから報告に関して監査をして何か異議を申し立てたとか、それからその提案を拒否したとか、そういうことは全くございませんし、単なる追認機関であるというふうに私たちは考えております。
ですから、社外取締役と申しましても、本当にほとんど同業者のような人たちが取締役になっていたり、社外取締役になっていたり、監査役といっても利益が合致している人たちが監査役に就任しているということをきちんと正さない限り、本来の監査役とか社外取締役という任務は、責務は果たせないんじゃないかというふうに感じております。
例えば、三・一一の原発事故が起きたときに、私たちはずっと株主でいましたので、すぐに取締役の個人責任をこれは追及しなければいけない、やはり社会的な責任というのは取締役個人に担わせるべきではないかと思いまして、株主代表訴訟を起こしました。
そうしましたところ、会社側は、まず株主代表訴訟というのは、監査役に私たちが提案をして、訴訟してくださいと、取締役を、訴訟を、取締役に対して監査役が、訴えてくださいというものを監査役に対して言う、訴えるんですけれども、六か月、東電の監査役は何もせずに、仕方なく株主としての私たちが、会社の利益を、損益を取締役に対して賠償しろという訴えを起こしたというのが実態です。
しかも、なおかつ会社側は、本来ならば株主が会社を、会社を守るために起こした株主提案ですので、あっ、ごめんなさい、六十日ですね、失礼しました。
本来ならば、会社側に対して私たちが会社を守るために株主が起こしたものに、本来ならば東京電力としては私たちに味方に付いて補助参加するのであれば分かるんですけれども、あろうことか事故をそのまま黙認した、事故というか、事故が起こるのが分かっていながら津波対策を取らなかったりした取締役に対して補助参加として付いたという経緯がございますので、やはり今の監査役、それから社外取締役は、もっとそちらの方をきちんと具体的に任命する基準を設けるなりした方がよろしいのではないかなというふうに思っています。
○山添拓君 大変ありがとうございます。
脱原発・東電株主運動の皆さんも三十年にわたって原発の危険性も警鐘を鳴らしてきたと、それは本当に頭の下がる思いがいたします。
次に、藤田参考人、大久保参考人に伺いたいのですが、取締役報酬の規定に関する改定について、法案では、取締役への株式報酬の無償発行を可能にするという特則や、取締役がストックオプションを権利行使する際の出資を不要にする、こういう特則が盛り込まれているかと思います。これらは、日本の経営者報酬に占める業績連動報酬の割合が低いと、欧米に比べて低いということを背景に、この業績連動報酬を積極的に導入しようという狙いに基づくものかと思います。
しかし、この業績連動報酬というのは、アメリカなどでも様々なモラルハザードを生じさせているという問題点が、マイナスが指摘をされています。目先の高額報酬を得ようとして見かけだけの会社の業績向上を演出する、成功報酬の積み増しを図ろうとし、そのために例えば賃金カットをしたり、リストラをしたり、非正規雇用に置き換えたり、従業員のモチベーションを下げ、結果として中長期的には会社の業績を悪化させると、こういう事態を招きかねないということが指摘されているかと思うんですが、この点についてそれぞれどのようにお考えでしょうか。
○参考人(藤田友敬君) まず最初に、今回の法案が積極的に業績連動報酬を奨励しているような趣旨かというと、決してそうではないと思います。これは完全に中立的で、ただ、合理的な株式報酬あるいは業績連動報酬を導入するために不都合なようなところを改正する、最低それだけはするということで、そういうものを採用するかどうかは企業に委ねる、さらには、そういったものについて投資家からの目を意識して、が意識されるように透明性を高めると、そういったもので、業績連動報酬を増やすこと自身を自己目的にしているわけでは決してないとまず理解しております。
業績連動報酬に長所も短所もある、これは御指摘のとおりですし、業績連動報酬といってもいろいろなものがございますが、つくり方に、設計の仕方によっては非常に望ましくないインセンティブを与える可能性があります。
ただ、報酬の設計の内容にまで法律で立ち入って規制するわけにはいきませんので、したがって、どういう方針でどういう種類の報酬をつくる、与える、個別に与えるつもりなのですかということを決定させ、それを開示させ、それでそれを投資家の目にさらし、適宜それが淘汰されるようにする、そういう仕組みを用意するというところで止めたのだと思います。
そういう意味では、基本的には正しい方向にまた向かっている、諸外国で濫用されることがあったということも踏まえても、正しい方向に向かっていると思っております。
○参考人(大久保拓也君) 株式報酬、ストックオプションなどの業績連動報酬の導入について、従前、報酬規制のところでは、ストックオプションの導入、株式報酬を導入するに当たっては、会社法の三百六十一条という規定がありますが、それのどの規定に、定額報酬に当たるのか、それとも業績連動報酬に当たるのか、その辺の位置付けが必ずしも明らかではないというようなところがありました。そういう手続的に明らかでないところを今回の改正では明確な位置付けを与えたと、こういうような態様になるのではないかと思います。そういった意味では、ストックオプションの付与の仕方を明確にしたというのが今回の改正になるんだと思います。
ただし、無償の発行だとすると労務出資になるのかどうか、その辺りの十分な理論的な位置付けというのはまだ明確になっていないのではないかと思いますけれども、その点が明らかになるとすれば、ストックオプションを導入する場合の手続などが明確になった、こういうふうに位置付けられると思います。
ただし、御指摘のモラルハザードの対策をどうするか、これは各会社で報酬の付与の仕方、ストックオプションの行使条件の設定、そういったところを各会社で取り扱っていくということが必要になります。そのためには、各会社にこういうストックオプションを導入しなさいというふうなことまでは当然に言えませんので、そこでは報酬の開示を充実させるという形で透明化を図っていく、こういう改正を行ったものと思います。そういった意味では評価できると思います。
○山添拓君 ありがとうございます。
最後に、時間の許す限りでなのですが、会社補償に関して、大久保参考人も参加をされている企業法実務研究会の意見書を配付いただいておりますが、この中では、研究会としては反対だということが書かれております。今日、冒頭の意見陳述の中では触れられていない点かと思いますので、この点に関わっての大久保参考人の意見をお聞かせいただければと思います。
○参考人(大久保拓也君) ありがとうございます。
会社補償の点については、委員会、研究会の中で示されたところになります。ここの意見の中では、むしろ新しい会社補償といったような規定を設けることよりも、むしろ現行の判例法理で確立されている経営判断原則といったもの、これを明確にするということの方が先決になるのではないか、そのように思います。
また、確かに立法の議論の中では、諸外国で積極的に導入されていると、それに対して日本にはそれが存在しないので競争に負けると、こういったようなところもあったのかとは思うんですけれども、諸外国であるからすぐに日本で導入するという、拙速に導入するということまでは必要ではないのではないか、こういったところで本委員会の検討の中では反対をしたということになります。
○山添拓君 ありがとうございました。終わります。

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