山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2021年・第204通常国会

本会議で、少年法改正案について反対討論を行いました。

要約
  • 参議院本会議で、少年法改正案について反対討論 少年院収容者の約65%が中卒・高校中退者で、被虐待経験のある者は、男子で35%、女子で55%に上ります 健全育成のために重要な機能を果たしており、改正の必要はありません 若年者やその保護者の苦難に寄り添い、生きづらさを解消する政治こそ必要です

○山添拓君 日本共産党を代表し、少年法等改正案に反対の討論を行います。
冒頭、名古屋入管でスリランカ人女性のウィシュマ・サンダマリさんが亡くなった事件について述べます。
発熱や嘔吐など体調不良で十分食べることができず、外部の病院では点滴や入院の必要性も指摘されていました。にもかかわらず収容が継続され、必要な治療を受けられないままに命を落としました。あってはならないことです。
来日した二人の妹さんは、姉が大好きだった国でこんなことになり耐えられない、明らかに都合の悪いことを隠そうとしているように見える、納得できない、ビデオを見ずして母親に報告できないと話します。映像記録を直ちに開示すべきです。
入管庁が真相解明に背を向ける中、世論と運動が大きく広がり、政府は入管法改定案の今国会成立を断念しました。当然です。
同時に、入管難民行政は抜本的な改善を求められています。野党は本院にそのための法案を提出しています。全件収容主義を改め、収容は裁判所が認めた場合に限り、その上限期間を設ける、難民認定は入管から独立した機関で行う、国際人権の水準に見合った真の制度改正を強く求めるものです。
以下、少年法改定案の反対理由を述べます。
本法案は、十八歳、十九歳の少年について、形式的には少年法の適用対象としながら、新たに特定少年と規定し刑罰化を図り、実質的には少年法の適用を除外する範囲を広げ、少年の健全な育成という基本理念に反する事態をもたらそうとするものです。
そもそも立法事実が欠ける法案です。少年事件はピーク時の十分の一に激減しており、凶悪化しているわけでもありません。法制審でも国会審議においても、現行少年法とこれに基づく保護処分は有効に機能しているとの評価が繰り返し語られました。質疑の中で大臣自身も、本法案は少年事件の厳罰化を図るものではないと答弁しています。
唯一の立法事実は、公選法や民法の年齢引下げと合わせるというものです。しかし、法制審で委員を務めた橋爪隆参考人が述べたとおり、これは論理必然ではなく政策判断です。
少年院収容者の約六五%が中卒、高校中退者で、被虐待経験のある者は、本人が申告しただけでも男子で三五%、女子で五五%に上ります。発達障害や知的障害があるにもかかわらず、専門的な治療や療育を受けられなかった少年も少なくありません。こうした実態を置き去りに、来年四月に迫った成年年齢引下げをにらみ、期限ありきで進めたことに厳しく抗議するものです。
この下で、本法案は、少年法制に数々のゆがみをもたらすものとなっています。
少年事件は、家裁調査官がきめ細かな社会調査を行い、個々の少年の心情や境遇など要保護性を見極め、少年院送致や保護観察といった処遇を決める基礎とします。
本法案は、事件を家裁から検察官に送り返し、成人と同じ刑事処分を行う原則逆送対象事件を大幅に拡大しようとしています。新たに短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を対象にすると言いますが、法定刑の重さを基準に一律に逆送とすることは、少年一人一人に寄り添う少年法の基本原則に反しています。
子供の権利擁護活動に携わってきた弁護士の川村百合参考人は、二〇〇〇年改正で原則逆送事件が創設された現行法の下でも、調査官調査が弱体化、変質してきたと批判しています。少年の健全育成にそぐわない調査が更に広がりかねません。
本法案は、事件を家裁の保護処分に付す場合に、少年院送致などの期間の上限を犯情の軽重を考慮して定めることとしています。しかし、犯情は成人の量刑に用いられる概念であり、要保護性に応じて教育的措置を行う少年法の保護処分とは相入れません。犯情の軽重で処遇が決まることになれば、要保護性に関する調査官の社会調査や少年鑑別所の心身鑑別は形骸化することが懸念されます。保護処分の処遇は、刑事処分の考え方ではなく少年法のルールの下で決めるべきです。
本法案は、十八歳、十九歳を虞犯の対象から外します。虞犯とは、犯罪性のある人若しくは不道徳な人と交際し、又はいかがわしい場所に出入りすることなどの虞犯事由があり、かつ将来罪を犯すおそれがある場合をいい、十八歳、十九歳で少年院送致となる少年もいます。
元小田原少年院長の八田次郎氏は、次のように述べています。少年非行は減少しているが、不登校、引きこもり、いじめ、自殺、虐待は著しく増加し、貧困、競争の問題もある。少年らの生活環境は良好とは言えず、むしろ生きづらい社会になっている。抑圧が強く、少し外れると同調圧力によってバッシングされる。居場所を失った少年に、大人が甘言を弄して近づき、犯罪に誘っていく。虞犯は、少年らの生きづらい社会のセーフティーネットとして機能しており、最後のとりでである。
虞犯は、児童養護施設における保護のように任意の措置とは異なり、強制力を用いた矯正教育であることに意義があり、法務省も、少年の保護、教育上一定の機能、役割を果たしていると答弁しました。十八歳、十九歳を少年法の適用対象としながら虞犯の対象から外すのは、立ち直りの機会を必要とする少年に冷たい法案だと言わなければなりません。
このほか、十八歳、十九歳の事件について、起訴時点で推知報道が解禁され、資格制限の緩和措置も適用しないなど、事件を刑罰化することに伴い、多くの点で更生と再犯防止、立ち直りのための少年法の意義を後退させています。加えて、本法案は被害者の権利保護を強めるものでもありません。
元非行少年の大山一誠参考人は、自らの体験を切々と語りました。両親が離婚し、着るものも食べるものにも困り、母の暴力に苦しみ、同級生に暴力を振るい、中学生になり非行に走り、十八歳で起こした傷害事件で少年院送致となったこと、刑務所とは異なり進級制の少年院では、問題を起こせば一か月単位で出院が延びていくこと、五十手前の法務教官が十代の自分たちと本気になって毎日一緒に走り回ってくれたこと、そうした中、単独室で内省していたとき、耳元で、何のために生まれてきたんだという声が聞こえ、心を入れ替える決意をしたこと、まさに育ち直りというべき体験です。
本法案は、十八歳、十九歳からこうした成長発達の場を奪い、少年の健全育成のために重要な機能を果たしてきた少年法制を大きくゆがめるものです。
五月六日、家裁調査官を三十八年務めた伊藤由紀夫さんが亡くなりました。生前、本法案について論じた書物で次のように述べています。統計的には、非行は十六歳が一番多く、十七歳以降は減少します。すなわち、十八、十九歳で非行から脱していないのは、相当多くの問題を抱えており、どう処遇、手当てしていくのかを考えさせられる、ある意味、貴重なケースです。そこを改正案では、刑事処分優先として保護処分の可能性を狭めてしまう。実務経験者としては、十八、十九歳の実態を見ていない、そこが一番許せないし、本当は十八、十九歳の健全育成について考えていないんだなと、非常に悲しい思いを持ってしまいます。
有効に機能している現行少年法を、立法事実もなく変える必要はありません。家裁調査官を増員し、様々な背景を持つ少年の性格や環境を丁寧に把握できるよう社会調査を充実させ、個々の少年の要保護性に応じた処遇を適切に行う体制整備が求められています。
少年を含む若年者やその保護者の苦難に寄り添い、生きづらさを解消する政治こそ必要であることを強調し、討論とします。(拍手)

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