2021年・第204通常国会
- 2021年6月14日
- 内閣委員会
内閣委員会で 土地利用規制法案 についての参考人質疑
- 要約
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- 内閣委員会で 土地利用規制法案 についての参考人質疑。 各参考人から「思想、宗教、家族関係、職歴等、個人情報が丸ごと収集されかねない」「条文を読むだけでは国民が懸念する。何らかの歯止めとなる措置が必要」「止められる人や機関もなく、事後的検証もできない。」 など懸念が示されました。
○参考人(吉原祥子君) 本日は、意見陳述の機会を与えていただき、誠にありがとうございます。公益財団法人東京財団政策研究所の吉原と申します。
東京財団は民間の政策シンクタンクで、私はその中で日本の土地制度の課題について調査を行ってまいりました。また、昨年開催された国土利用の実態把握等に関する有識者会議に参加させていただきました。
今日は、これまでの土地制度に関する調査の経験を踏まえながら、この度の法案の必要性と課題について所見を申し述べます。お手元にA4二ページの資料を配付させていただきましたので、御覧いただければ幸いです。
私ども東京財団が土地問題に着目するきっかけとなったのが外資の森林買収でした。十年以上前になりますが、北海道を中心に外国資本が日本の森林を買っているという関係者からの問題提起があり、実態調査のための研究プロジェクトを開始しました。そこから見えてきたのは、実は我が国ではそもそも土地の所有や利用の実態を行政が十分に把握し切れていないという土地制度そのものの課題でした。それは言い換えれば、急速な社会の変化に対して既存の制度では対応し切れない部分があるということでもありました。
社会の変化というのは、申し上げるまでもありませんが、まず人口減少、高齢化があります。それに伴い、空き家、空き地が増加しています。その一方で、経済活動はグローバル化し、不動産も国際的な投資対象になっています。そして、相続によって都会に住む子供世代が田舎の土地の所有者になったり、海外の投資家が日本の不動産を所有するなど、地域からは顔が見えづらい不在地主も増えています。東京都主税局によると、東京二十三区では国外に住所を有する固定資産税の納税義務者は二〇一三年から二〇一九年の六年間で八倍に増加しているとのデータもあります。
他方、こうした急速な社会の変化に対して、従来の土地政策は、明治以来、人口の増加や、土地は有利な資産という考えを前提に、国内市場における地価高騰や乱開発などの行き過ぎを抑制することが主眼でした。個人の所有権に関わる課題については踏み込んだ検討が行われてきたとは言えず、安全保障上の土地政策もほとんど講じられてきませんでした。
従来の土地政策の特徴を具体的に、従来の土地制度の特徴を具体的に見てみますと、まず、土地に関する情報基盤の在り方として、不動産登記簿、固定資産課税台帳、農地台帳など、目的別に様々な台帳が作成されています。しかし、それらの情報を一元的に把握できる仕組みはありません。行政が持っている台帳のうち、主な所有者情報源となっているのが不動産登記簿です。しかし、権利の登記は任意であり、登記後に所有者が転居した場合でも住所変更の通知義務はありません。
なお、後ほど述べますが、この点については今国会で法改正が行われ、相続登記が義務化されたところです。
また、土地所有者の探索においては住民票や戸籍が大きな情報源になりますが、土地が所在する自治体に住民票を置いていない不在地主や国外に在住する非居住者については、そうした住民票や戸籍といった基礎情報がなく、不動産登記が行われていなければ所有者探索は極めて困難になります。
次に、規制の在り方ですが、個人の所有権は諸外国に比べて極めて強いという特徴があります。例えば、土地の売買について、農地以外は売買規制はありません。たとえその土地が安全保障上重要な国境離島や防衛施設の隣接地であっても売主と買主の合意だけで取引は成立し、購入者も問いません。売買の不動産登記は任意であり、登記をしないことも自由です。
土地の利用規制については、農地法や森林法など、個別の法律で一定のルールは定められています。しかし、農地の違反転用や森林の再造林放棄が事実上、現状追認されているケースが少なくないなど、実質的な効力については課題も多いと言われています。こうした現在の土地制度が抱える課題が具体的な事象となって表面化したのが、近年、社会的な関心の高まった所有者不明土地問題であり、また安全保障上の懸念であると考えます。
所有者不明土地問題とは、不動産登記簿などの台帳を見ても現在の所有者が直ちには分からないという問題です。そして、安全保障上の懸念というのは、土地利用の実態を把握するための法的根拠が十分でなく、万一の際に対応できる備えがないという問題です。いずれも構造的な課題であり、市場、マーケットに任せているだけでは解決が難しい問題です。
土地は、個人の財産であるとともに我々の暮らしの土台であり、経済活動の基盤であり、そして国土です。土地は我々自身がつくり出せるものではなく、次の利用者や次の世代に適切に引き継いでいく必要がある財です。土地が持つそうした公共的な性質に鑑みると、社会の変化に応じて制度の見直しを行うことは必要であると考えます。
それでは、こうした現状の課題について、近年どのような政策対応が取られてきたのでしょうか。
資料の二ページを御覧ください。
所有者不明土地問題については、問題の発生防止や土地の適正な利用と管理、相続による権利の承継の円滑化に向け、近年、土地制度と民事基本法制の両面から抜本的な改正が行われました。まず、二〇一八年六月には、所有者不明土地を公共的な目的のために利用可能とする特別措置法が成立しました。昨年三月には、約三十年ぶりに土地基本法が改正されました。そこでは、災害の予防、復興など、持続可能な地域の形成を図る観点から、土地の適正な管理の必要性が明示され、また、土地所有者の責務として、登記など権利関係の明確化と土地の境界の明確化に努めることが新たに規定されました。そして、今国会において、この四月に民法、不動産登記法の改正が成立し、相続登記や住所変更登記が義務化されたところです。
他方、安全保障上の懸念への対応については、二〇一〇年に北海道の調査により道内における海外資本等の林地取得状況が判明して以来、林野庁による毎年の調査の結果の公表や旧民主党ワーキンググループによる議論などが重ねられてきました。いまだ法律の制定には至っていませんでしたが、この度の法案はまさにこうした積み重ねの上に形になったものと理解しております。
今後、安全保障をめぐる国際情勢は緊迫度を増していくと考えられます。と同時に、人口減少が進む中、地域の活性化のためには多様な人材や優良な投資を国内外から呼び込むことは必須です。この度の法案は、そうした自由な経済活動を前提として、内外無差別の原則に立ち、国民の安全を守る観点から、土地の利用実態の基本的な調査と万一の際の利用規制を定めるものであり、これまでの日本の土地制度に欠けていた重要な法案であると考えます。
そして、こうした新しい法律の運用に当たっては、国民への分かりやすい説明が必須であることは言うまでもありません。今後、基本方針の策定や注視区域及び特別注視区域の指定に当たっては、これまで内閣委員会の御議論で度々御指摘があったように、国会への報告や国民への十分な説明と情報開示が必須であると考えます。そして、その過程において、国にとって守るべき場所や事柄は何か、またどのような方法が適切かということについて議論が更に深まっていくことが期待されます。
今後、技術の進歩によって安全保障上のリスクは更に多様化すると考えられます。そうした様々なリスクに対応する万能薬はありません。今後は、今回の法案を含め、様々な法制度が相互に補完し合いながら、過度な規制が行われることのないよう、また法の抜け穴が生じないよう、制度全体を見渡したバランスの取れた議論が必要であると考えます。是非、この度の法案が成立し、国民への十分な情報開示を行いながら適切に運用されることを心より願っております。
以上が所見でございます。ありがとうございました。
○委員長(森屋宏君) ありがとうございました。
次に、半田参考人にお願いいたします。半田参考人。
○参考人(半田滋君) 本日は意見陳述の機会をいただきまして、ありがとうございます。
私は、東京新聞でおよそ三十年にわたって防衛省・自衛隊、そして在日米軍のことをひたすら取材をしてまいりました。その取材を通じて、自衛隊の海外の活動や、あるいは国内の自衛隊の在り方などについて、実際に現地に行き、多くの自衛官や防衛官僚の皆さんと会って実際に取材をし、記事にしてきた者であります。現在は防衛ジャーナリストとして様々な論考を雑誌やSNSで発表しております。
今日お話をするこの重要施設周辺及び国境離島等における土地等の利用状況の調査及び利用の規制等に関する法律案、これを土地取引規制法案と便宜上名付けまして、これから意見を述べていきたいと思います。
まず、お手元のレジュメにありますとおり、この問題について三つのポイントに絞っています。一つは、米軍や自衛隊、海上保安庁、生活関連施設などの敷地の周囲約一キロと国境離島などを個別に注視区域や特別注視区域に指定し、所有者の個人情報や利用実態を不動産登記や住民基本台帳などを基に政府が調査をする。二つ目として、必要に応じて所有者に報告を求め、利用中止を命令できる。三つ目として、利用の中止命令に応じなければ二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処すと。この三つが大きなポイントであるかというふうに思っています。
次に、論点について具体的に説明をしていきます。
一、個人情報が丸ごと収集される。
この法案は、注視区域に指定される対象区域が広く、その分、広範囲にわたって住民の調査が及びます。重要施設、つまり自衛隊、米軍基地や海上保安庁施設、そして重要インフラが注視区域となり、周辺一キロに住む住民が調査対象となります。
調査は、現地調査から始まり、内閣総理大臣が必要があると認めた場合、地方自治体などに土地利用者の氏名、住所その他政令で定めるものを求めることができると書かれていますが、その他が何かは法制定後の政令まで分からないという曖昧さがあります。土地登記簿や住民基本台帳を見るだけでは、氏名、住所が判明するだけで、土地利用者の属性は分かりません。
そこで、政府が必要があると認めるときに土地利用者から報告又は資料の提出を求めることができるとの規定を根拠に、更に個人情報を収集することになります。収集される個人情報は、思想、宗教、家族や姻戚、友人関係、海外渡航の有無、現在及び過去の職歴、趣味などを幅広く総合的に収集することによって、初めて意味を成すことになります。つまり、重要施設の近くに住んでいるというだけで個人情報が丸ごと政府に収集される、そのこと自体に問題があるというふうに思います。
二番目、土地取引が抑制される。
特別注視区域に指定された場合、二百平方メートル以上の土地取引は内閣総理大臣に届出を義務付け、違反した場合に刑罰を科すことにしています。
例えば、東京屈指の住宅密集地、新宿区にある防衛省の周囲一キロが特別注視区域に指定されるのは確実でしょう。防衛省と同様に、米軍で司令部機能のある東京の横田基地、神奈川の横須賀基地及びキャンプ座間、沖縄県のキャンプ・コートニーも指定される可能性が高いと考えられます。いずれも住宅地に囲まれ、普通に土地取引が行われています。土地取引規制法案が制定された場合、内閣総理大臣への届出と許可という手続が加わることにより、自由な土地取引が抑制され、土地価格が下落する可能性があります。土地価格の下落は注視区域においても発生する可能性があります。土地利用者にとっては、重要施設の周辺に居住するというだけで財産が目減りする可能性があるのです。
大変に奇妙なのは、不動産業界、ホテル業界、建設業界などの産業界から反対の声が上がらないことです。二百平方メートルといえば、これから計画するビルやホテルの多くが該当します。手続の煩雑さに嫌気が差し、ビルやホテルの建設を他の場所にしたり諦めたりする例が出てくるのではないでしょうか。
政府は、昨年、GoToトラベルキャンペーンに踏み切り、コロナ禍で苦しむ観光業の支援を実施しました。一方、この法案は、ホテル建設を抑制することから、外国人観光客を増やすというインバウンド政策と矛盾するのではないでしょうか。これまでの政権が目指した方向性とは真逆の法案を通常国会の終了間際に提出し、およそ熟議とは程遠い審議のまま採決に移るとすれば、大いなる矛盾を抱えることになります。
三つ目、曖昧な重要インフラの中身。
重要施設となる生活関連施設、つまり重要インフラについて、法案は政令で定めるとしており、これまでの国会答弁で政府は、原発と、自衛隊と共用している民間空港を挙げています。だがしかし、例えば内閣サイバーセキュリティセンターは、情報通信、金融、航空、空港、鉄道、電力、ガス、政府・行政サービス、医療、水道、物流、化学、クレジット、石油の十四分野を重要インフラに特定しており、法施行後、政令によって範囲が止めどなく広がる可能性があります。
こうした重要インフラの多くは都市部に集中しており、今回の土地取引規制法案は多くの国民に調査の網を掛けることになっている点を指摘しておきます。
法案にある政令で定めるとの言葉は、行政府への丸投げであり、立法府としての責任放棄にほかなりません。法案には、何が生活関連施設となるのか、具体的に示す必要があります。
外国の例として、米国、豪州、韓国には基地周辺の土地取引を規制する法律があるものの、重要インフラにまでは踏み込んでおらず、この土地取引規制法案は他に例を見ないほど土地規制の範囲が広がる可能性があります。そもそも、英国やフランスはそうした規制そのものが法律としては存在していません。
四、立法事実がない。
法制定をする必要性として、地方議会における懸念が示されたことが挙げられています。二〇一三年九月の長崎県対馬市議会で、韓国人による自衛隊基地周辺の土地の取得が取り上げられました。対馬市長は取引を認めた上で、対馬の土地の〇・〇〇六九%が該当すると答弁をしました。市面積の〇・〇一%にも満たない土地の取引が問題視する、される必要があるでしょうか。
面積の問題ではないという指摘もあるでしょう。私は、二〇一〇年二月、対馬に行って取材をしました。海上自衛隊対馬防備隊近くの土地を韓国資本が購入したとされ、部隊から見えるところに民宿がありました。部隊によると、所有者は韓国人で、韓国の釣り人を受け入れているとの話でした。
対馬と対岸の韓国釜山との間は、高速フェリーで約一時間。コロナ禍の前まで、対馬は韓国からの観光客や釣り客であふれていました。韓国資本が土地を購入してホテルなどを建設するのはおかしな話とは思えません。実際に、不法侵入、通信妨害など、機能を阻害する行為はあったのでしょうか。あったとすれば、現行法で対応できない理由は何なのか、政府は明らかにする必要があります。
防衛省は、全国約六百五十の防衛施設に隣接する土地を調査した結果、自衛隊の運用に支障が出たことは確認されていないとしています。この法律を制定する必要性、つまり立法事実がないにもかかわらず制定を急ぐのだとすれば、別の理由を疑わないわけにはいきません。
五、機能する理由、機能を阻害する行為はさじ加減。
沖縄県警は、今月四日、チョウ類研究者の宮城秋乃さんの自宅を家宅捜索し、パソコンやビデオカメラなどを押収しました。宮城さんは連日のように事情聴取を受けています。宮城さんは、以前から米軍から政府に返還された北部訓練場から廃棄物の回収を続けてきました。土地の返還時、原状回復は日本政府が行うことになっていますが、いいかげんな作業だったため、あちこちに薬きょうや空き缶などの廃棄物が散乱しています。その廃棄物の一部を北部訓練場のメーンゲートに置いたことが威力業務妨害などに当たるというのです。置かれた廃棄物は空き缶などで、またいで通れる程度の分量でしかありません。米軍は、兵士らの不道徳を恥じることはあっても宮城さんを逆恨みするのは筋が違うと思いますが、通報を受けた沖縄県警の対応は、土地取引規制法案の先取りと言うほかありません。
法案は、安全保障上の観点から、重要施設及び国境離島等の機能を阻害する土地の利用を防止とあるので、政府が機能を阻害すると認定すれば、住民が立ち退きを求められることになります。宮城さんが廃棄物を置いた行為について、沖縄県警は機能を阻害すると認定しました。この事例から、何が機能阻害に当たるのか、認定する側のさじ加減一つであることが分かります。
六、沖縄の離島は注視区域になる。
沖縄県など国境離島は、島そのものが注視区域に指定されるのは確実です。すると、百四十五万人いる沖縄県民全てが調査対象になる可能性があります。これを本土並みに自衛隊基地や米軍基地の周囲一キロとしても、相当数の住民が対象となります。
例えば、普天間基地のある宜野湾市の場合、沖縄平和運動センターの調査で、対象者は宜野湾市民の九割に当たる十万人と試算しています。普天間基地は、沖縄戦のどさくさで住民が避難している間に米軍が町役場や住宅を取り壊し、滑走路を造りました。その周りを囲い込んで基地としました。戦後、戻ってきた住民らは仕方なく普天間基地の周りに家を建てて住み始め、現在のように住宅に囲まれた基地となりました。
一九七二年の本土復帰時、沖縄県側は原状回復を求めましたが、政府はこの要求を受け入れず、基地が固定化されました。今なお米軍専用施設の七割が沖縄に集中し、本土は沖縄の負担の上にあぐらをかいていると言われても仕方がありません。
自衛隊のミサイル基地が開設された宮古島、開設準備が進む石垣島も同様です。特に、宮古島の場合、収賄罪で起訴された前宮古島市長の三回にわたる防衛省高官との面会で購入を求め、防衛省がこれに従ったゴルフ場跡地に宮古島駐屯地が開設されました。最初に計画した島の北東部の端にある牧場跡地でなく、市街地に近いゴルフ場となったことで、周囲一キロに住む住民が調査の対象となります。宮古島では、現在でも弾薬庫の開設をめぐり反対する住民が多く、反対運動とつなげて住民の個人情報を収集するのは確実ではないでしょうか。
七、情報保全隊が前例。
自衛隊のイラク派遣に際し、派遣に反対する市民らの行動を東北情報保全隊が監視し、個人情報を収集していた事実が明らかになっています。公表していない本名や勤務先の情報収集はプライバシー侵害で違法だとされ、裁判所から賠償金の支払を言い渡されました。
このように、違法な手法で個人情報を収集してきたのですから、土地取引規制法が制定された場合、必ず個人情報を収集するのは明らかではないでしょうか。現状の政府の体制では個人情報の収集に手が回らなくなるのは明らかであり、組織の新設や拡充が行われるという行政改革に逆行する焼け太りとなるのも懸念材料の一つです。
八、まとめ。
国の安全保障が重要なことは言うまでもありません。しかし、個人の権利を軽視した上に成り立つ国とは、ゆがんだ虚像というほかありません。国民の私権が抑制され、国家が利益を得るような国は、まともな民主主義国家とは言えません。この法案は、思想、良心の自由、プライバシー権、財産権などの私権侵害につながるおそれがあることを指摘しておきたいと思います。
終盤国会に入り、国民投票法改正案といい、この土地取引規制法案といい、左右対決の法案が矢継ぎ早に審議されています。左右対決は有権者の投票行動の変化を呼び込みません。自民党支持層三割、野党支持層二割、無党派層五割と言われる支持層を一層固定化することになります。例えば、消えた年金問題のような富裕層と低所得層といった上下が分割されるような問題であれば、無党派層による雪崩現象が起きる可能性はあるでしょう。しかし、この左右対決の二法案を持ち出したところに、迫りくる総選挙対策を感じないわけにはいきません。有権者の目をコロナ禍による上下対決から背けさせ左右対決に持ち込むことで、政権政党にとって有利に働くのではないでしょうか。
これまで述べたとおり、この法案の問題は、沖縄など離島の問題ではありません。東京や神奈川といった大都市の住民が調査対象となり、各地で自由な土地取引が規制されるのです。広く国民全体の問題であることを強調しておきます。
御清聴ありがとうございました。
○委員長(森屋宏君) ありがとうございました。
次に、馬奈木参考人にお願いいたします。馬奈木参考人。
○参考人(馬奈木厳太郎君) 東京合同法律事務所に所属している弁護士の馬奈木と申します。貴重なお時間をいただき、ありがとうございます。
私は、「生業を返せ、地域を返せ!」福島原発訴訟という、原発事故の被害者が国と東京電力を被告に原状回復と被害救済を求めた裁判に関わっています。また、沖縄の問題にも様々な形で関わってきました。そうしたことから、沖縄や原発も含め、これまで余り議論されていない論点を中心に意見を述べたいと思います。
本論に入る前に、法案に対する私の印象を述べておきます。
この法案は、大体において四つの言葉から成り立っています。内閣総理大臣、等、その他、できる、であります。例えば、内閣総理大臣は、○○等について、○○その他の○○に対して、○○することができるといった感じです。等やその他という幅を持たせる表現が多いです。何より、内閣総理大臣という主語が圧倒的に多い。二十八か条の条文の中に何と三十三回も出てきます。その結果、この法案は、国民の権利を保障するものではなく、政府に権限を与える行政命令のような内容になっています。言わば、内閣総理大臣の内閣総理大臣による内閣総理大臣のための法案という印象を抱かざるを得ません。
もう一点、私は、安全保障論の専門家ではなく、法律が適用される現場に携わっている者です。そうした実務家の立場からは、この法案は一読して、現場の人や当事者の意見を聞かないまま、そうした形で作られた法案だなというふうに感じました。
以下、四点にわたってお話しさせていただきます。
まず、区域指定による影響と弊害についてです。
注視区域については検討中とのことですが、特別注視区域に指定されると重要事項説明義務が生ずるとされています。売買などの契約に先立って、宅地建物取引士の方が説明をすることになりますけれども、これは書面に特別注視区域に指定されていると一行書けばいいというものではありません。根拠法令を資料に付けた上で、こんな会話が展開されることになるかもしれません。
この土地は土地利用規制法に基づく特別注視区域に指定されています。
それってどんな法律ですか。
国民生活の基盤の維持並びに我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与することを目的とする法律でして、土地等の利用実態を調査することになります。
何のために調査するのですか。
重要施設に対する機能阻害行為を防止するためです。
何かリスクがあるのですか。
リスクのあるなしも含めて調査します。
調査内容はどんなことですか。
氏名や住所、その他政令で定めるものですが、なお必要があると認められるときは、土地等の利用に関して資料の提出や報告を求められることがあります。
誰が調査対象者なのですか。
利用者その他の関係者となりますが、利用者の定義はありますが、その他の関係者の定義はありません。
いつ調査されるのですか。
権利変動の際といった限定がないので、恒常的に調査される可能性があります。
調査されるときは何かお知らせがあるのですか。
そのような規定は設けられていません。
どんな手法の調査なのですか。
手のうちは明かせません。
周りの人にも聞くのですか。
第三者からの情報提供の仕組みも検討中です。
機能阻害というのは。
閣議決定において例示されますが、一概には申せません。でも、勧告を受けたら分かりますから、大丈夫です。
冗談のように聞こえるかもしれませんが、これは政府答弁です。実際にこんなやり取りをしたら、皆さんは買いたい、借りたいと思いますか。
政府は、不動産に与える影響は少ないと根拠もなく述べていますが、そんなに甘くはないはずです。当事者の立場で想像してみてください。自分が調査されるかもしれない、規制が掛かるかもしれない、そうしたところをわざわざ購入しますか。しかも、この法案は、政府の説明では安全保障上のリスクがあるから法整備しようという話なわけで、区域指定されるとその地域はリスクがあるというふうに一般には受け止められるのではないですか。さらに、五年後には見直しもあり得るわけで、そうすると更に規制が増えるかもしれない。一キロだって一キロのままではないかもしれない。区域指定された地域にとっては大打撃です。どの程度のリスクかもはっきりしないところで、これは官製風評と言わなければなりません。
政府は、地元から不安の声が上がっていると言いますが、地元の人も、いやいや、こんな内容は望んでいないよとおっしゃるのではないですか。区域指定されることが当該地域に与える効果や影響について、法案もそうですが、これまでの質疑でも現場感覚を伴ったやり取りがなされたとは到底思えません。実際に区域指定をする段になると、この内容のままではその地域から猛反発を食らうはずです。リスク、リスクと、あるかないか分からないものを見ようとしていますが、現場のリアリティーは見えていないようです。
次に、これまで余り議論されていない原発について述べたいと思います。
生活関連施設として原発が検討されていますが、なぜ原発が対象になるのか理由が全く明らかにされていません。政府は、新規制基準を世界で一番厳しい基準だと豪語しています。新規制基準にはテロ対策も含まれていますから、世界で一番安全なはずです。まさか政府は新規制基準では足りないと考えているのですか。
それから、原発の関係で機能阻害行為とは一体何を想定しているのですか。この法案では、機能阻害というのは施設の外から人為的にもたらされる被害、そういったものが想定されているようですが、原発については施設の中から被害はもたらされています。被害者は、施設の中の事業者や事業者を監督する国ではありません。周辺住民が被害者なのです。
原発によって阻害されるのは、ふるさとや地域との結び付きという機能であり、日常の生活やなりわいという機能です。そこを間違えないでいただきたい。
住民を潜在的な脅威とみなすような考えは、事故を起こした当事者である国として、厳に戒められるべきです。原発に対する阻害を恐れるのであれば、その答えは、住民を調査対象にすることではなく、原発をやめることです。
もう一つ、ほとんど議論されていない二十二条と二十三条について述べます。
二十二条は、「内閣総理大臣は、この法律の目的を達成するため必要があると認めるときは、関係行政機関の長及び関係地方公共団体の長その他の執行機関に対し、資料の提供、意見の開陳その他の協力を求めることができる。」となっています。似た表現が七条にもありますが、こちらは土地等の利用実態の調査なのに対して、二十二条にはそうした限定はなく、この法律の目的を達成するためその他の協力を求めることができるとあります。この法律の目的とは、国民生活の基盤の維持とか我が国の領海等の保全及び安全保障に寄与するというもので、広範で大ざっぱなものになっています。その他の協力というのも限定がありません。内閣総理大臣に包括的な権限が与えられています。
例えば、基地のゲート前で座込みや集会を開き、道路やその付近に工作物などを設置している場合、それが安全保障上の観点から適当ではないとされれば、道路の管理者に撤去などを求めることが、この二十二条によってできるようになるのではないですか。
あるいは、都道府県の労働委員会は、その他の執行機関に含まれますが、労働委員会は労働組合の組合員に関する情報を保有しています。こういった土地の利用実態には関わらない情報についても、目的を達するために必要だと言えば、提供を求めることができるようになるのではないですか。
二十二条からは、残念ながら、地方自治の本旨といった考えはうかがえません。政府と地方公共団体は法的に対等なはずですが、まるで内閣総理大臣の下請機関のような扱いになっています。
それから、二十三条は、国が適切な管理を行う必要があると認められるものについて、「買取りその他の必要な措置を講ずるよう努める」とあります。これは端的に言って、土地収用法を潜脱した形で、事実上の強制収用につながるのではないですか。
努めるとありますが、政府は何を行うのですか。買取りを申し出ること自体、所有者には圧力となる場合があります。例えば、石垣島では自衛隊の基地建設が進行していますが、周辺で建設反対の立場を示している所有者に政府が買取りを申し出ることはないですか。
土地収用法は、防衛に関わるものを、収用や使用ができる事業には含めていません。それは、さきの大戦に対する反省があるからです。戦後作られ、長年にわたり守られてきた原則を、衆参を通じても僅か二十時間程度の審議で、しかもこの論点については全くと言うほど議論が交わされていないにもかかわらず、こうした原則を覆すようなことがあってはなりません。
四点目は、この法案が触れていない点についてであります。
法案では、止められる人や止められる機関がありません。事後的に検証できる制度も設けられていません。その意味で、この法案は公正とは言えません。
どのような調査が誰に対してどんな手法でいかなる協力を求めているのか、何を機能阻害行為と判断しているのか、そういった事柄を第三者がチェックし、場合によっては止めるといった手段が必要なのではないでしょうか。
法案は、閣議決定で定める、政令で定める、府令で定める、必要があると認めるとき、こういった文言のオンパレードになっています。国会の関与もなく、独立した第三者機関の関与もなく、調査対象者に調査の事実を告げるわけでもありません。
この法案は、全幅の信頼を政府に寄せる、そういったことを国民に求めています。しかし、立憲主義の大原則は、権力は暴走することがあるというものです。ですから、主権者である国民は、権力を監視し、チェックしなければならないのです。法案は、政府が国民を調査し、監視できるかのような内容になっており、完全に転倒しています。そして、それを止めるすべを持たないのです。第三条は、「個人情報の保護に十分配慮しつつ、」とか「必要な最小限度のものとなるようにしなければならない。」などとありますが、その制度的な担保はないのであります。少なくとも、止める手だてが法案自体に組み込まれていなければ最小限度とは言えません。
最後に、一九九五年九月まで沖縄の歴史や現実を知らなかった一人の日本人として、やはり沖縄について触れないわけにはいきません。
法案によれば、沖縄県内の人が住んでいる島は沖縄島も含めて全てが国境離島等に含まれており、国境離島等の場合には一キロの制限なく区域指定できることから、その気になれば沖縄県全域を区域指定することができます。つまり、沖縄県民を丸ごと調査対象にすることができるということです。安全保障の名目で県民を監視下に置くかのような発想は、まるで戦前のようであります。
昨年、沖縄県の恩納村にある、ある組織の沖縄研修道場を見学させていただく機会がありました。かつて中国に向けた核ミサイル、メースBの跡地につくられた道場は、基地の跡は永遠に残そう、人類はかつて戦争という愚かなことをしたのだという一つのあかしとしてという考えから、平和記念資料館として整備されています。また、そこには青年部、未来部が編集した都道府県ごとの戦争体験の証言集も置いてあり、戦争体験のつらさや悲惨さとともに、軍が住民をスパイ扱いした事実なども語られていました。資料館では、中国や韓国を始め各国との交流も展示してあり、外国の人々について友と記されてありました。平和の文化の構築に向けた取組や戦争証言集の刊行など、私は大変深い感銘を受けました。
そうした戦争の教訓も踏まえたとき、地域住民を調査対象とし、監視下に置くようなやり方は、本当に正しいものなのでしょうか。証言者の方や証言集作りに関わった先達に対して胸を張ることができますか。そして、友と呼んだ外国の人たちは、この法案を読んだらどういう気持ちになるでしょうか。
沖縄は、長年基地被害に苦しんできました。つい先日も米軍の不時着があり、有機フッ素化合物による被害も出ています。ある学校では、米軍機が飛来すると校庭の生徒が避難しなければならない、そういった日常にあります。政府は、口を開けば負担軽減と言います。しかし、この法案は全く負担軽減にはなりません。その逆です。
この法案が成立すると、最も影響を受けるのは間違いなく沖縄です。沖縄の人々は、選挙権が停止されていたため、日本国憲法の制定に制度的には関わることができませんでした。米軍統治の下、銃剣とブルドーザーで土地を収用されながらも、サンマ裁判と呼ばれるような闘いも経て、民主主義や自治を粘り強く獲得してきました。
沖縄の民意や自治をまた踏みにじるのですか。そんなことが許されていいのですか。私は、恥ずかしさと悔しさでいっぱいであります。
こんな政府丸投げ法案を成立させるようであれば、国会は何のためにあるのかという話になると思います。まだ間に合います。一旦法案を取り下げませんか。
この法案は、複数の考え方を無理に一つにしたことに問題の原因があります。その問題は機能という言葉に象徴され、調査という言葉の意味を分裂させています。すなわち、国境離島の実態調査に問題意識がある人と、防衛施設の機能確保に問題意識のある人がいて、さらには原発もという欲張りな人が加わって、無理やり合体させたのがこの法案です。国境周辺の離島の実態調査と、都市部も含む防衛施設周辺の実態調査とではまるで意味が違います。そこを機能という言葉で無理につなぎ、軍事的合理性だけで突っ走ったから、本当にひどい法案になっています。皆さんも本当は分かっていらっしゃるのではないでしょうか。
急がないといけない事情はないはずです。しかも、安全保障に関わるのであれば、より多くの人の納得と合意の下、進められるべきです。
良識の府である参議院の役割を是非発揮していただきたいというふうに考えます。ありがとうございました。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
参考人の皆さん、今日はありがとうございます。
吉原参考人に伺います。
意見陳述の中で、法案に関わって分かりやすい説明が必須だという御意見があり、十分な説明、情報開示が必要だとお話がありました。私もそのとおりだと思います。その十分な説明、情報開示は法案審議の段階でも求められると思うんですね。ところが、どこを区域にするかについて一覧では示さない、あるいは機能阻害行為、一概には言えないと、こういう説明になっています。
政令や基本方針への委任が多過ぎる法案になっています。条文上、調査や情報収集、その対象は所有の状況には限られず、利用、機能阻害、その定義もありませんので幾らでも拡大がしかねない、そういう条文になっていると思うんです。
先ほど、安全保障は大変難しいというお話もありましたけれども、法案としては、これは有事の法案ではなく平時の法案であります。ですから、法案としてはもっと精緻に示す、あるいは絞り込む、そういうこともできたはずだと思うんですけれども、そうはなっていません。そのことについてどのようにお考えでしょうか。
○参考人(吉原祥子君) ありがとうございます。
有識者会議での議論の際には、予見可能性を高める上で、例えば一キロ範囲、有識者会議の場では一キロという数字は出ていませんけれども、予見可能性を高める上で具体的な数字を設定する、距離を設定するとか、そうしたことは必要であるという見解でした、皆さん。
そして、その一方で、今後の安全保障上の様々な変動の可能性を考えると、条文に細かく書き込むことがその後の柔軟な対応の、重要な対応が難しくなる要因になってはいけないので、そこは柔軟性を担保する必要があるということがございました。その結果もあり、そういうこともあり、今回のこのような法案になっているのかなというふうには思います。
ただ、条文を読んだだけではどのようにでも解釈が可能になってしまうということは、やはりそれは本当にあってはならないことだと思っていますので、何とか今後、山添先生がこの間審議で歯止めという言葉を使っていましたけれども、別の、この法案ができることで新たな別の不安が国民の間に呼び起こされては決していけないと思うんです。外国資本が土地を買っているのかなとか、所有のよく分からない土地が安全保障上何か支障になるんじゃないかなという、そういう不安があり、そして機能阻害を防止する上でこういう法律を作っていると、そうしたために、今度はプライバシー権や個人情報保護の観点から新たな懸念材料というものが生まれては決していけないと思いますので、そこを払拭するための歯止め機能というものが具体的にどういうことがあり得るのか、私は実は専門家ではないので分からないんですが、その意味で、先ほどの矢田先生の御質問も、どういう条文が入れば、あるいはどういう文言が基本方針に入れば、あるいは委員の立て付けをどうすれば少しでもその辺りを担保できるようになるのかというところは、是非実現していかなきゃいけないところだというふうに思っています。
○山添拓君 その意味でも、馬奈木参考人からありましたように、一度法案を出し直すという決断をするべきではないかと思います。
半田参考人と馬奈木参考人に伺います。
法案で予定されております調査について、政府は内閣府に新設する部局が担当すると答弁しています。しかし一方で、自衛隊が協力する可能性を否定しておりませんし、米軍に情報提供をする可能性も否定していません。自衛隊や米軍の多くの基地を対象とした場合に、現実には自衛隊がその調査を担当することは十分予想されるかと思います。先ほど情報保全隊についてお話もありましたけれども、プライバシー侵害に当たる情報収集に及んだ実例があります。その上、米軍との情報共有をしていくと、こういうことになりますと、個人の権利をどう保障するかという観点は脇に置いて、軍隊の論理で進めていくことになりかねないと思うんですけれども、その点に関して両参考人の御意見を伺います。
○参考人(半田滋君) 全く御指摘のとおりだと思います。
やはり軍は軍の論理で動いていくわけです。自衛隊は軍ではありませんけれども、軍事的な組織ですから非常に合理性を重んじるというようなことが言えると思います。そして、私、三十年間を通じて、自衛官の皆さんの特徴というのは非常に憲法や法律に忠実に従うということです。したがいまして、この法律が成立して施行されることになれば、当然のことながら、いわゆる内閣府に協力をする形で防衛省が現場の自衛官たちにこういう調査をしなさいと言えば、それはそれは丁寧にすることは間違いないだろうと。ただし、間違うこともあると思います。そういった形で合理的なものが行われる。
そして、もう一つ重要なのは、今、日米の連携というのは非常に密になっているわけですね。で、特にこの米軍基地の周りでどういう方が住んでいるかということは、恐らく米軍の方たちも当然知りたいことであろうということですから、そういった情報が今度は日本だけにとどまらないで海外にまで出ていくと、それが本当に憲法が想定しているような基本的人権の範囲の話に収まっているんでしょうかと。海外の政府がAさんという人の個人情報を様々入手している、本当にそれが憲法で想定した事態と言えるんだろうかというところも、将来的には軍事合理性を追求していけば恐らく出てくるだろうというふうに懸念されると思います。
○参考人(馬奈木厳太郎君) 私も委員御指摘の懸念は大変深刻な問題ではなかろうかと思います。
この法案の一つの特徴は、米軍基地が含まれていることになります。そこの機能が阻害されないということを日本政府、内閣総理大臣の責任でもあるということになっているわけですね。そのときに、アメリカ軍との情報の共有の問題、あるいは米軍基地の機能の阻害って何なのかと、その問題考えていくと、とてもじゃないですけれども私たちが今ここで想定している以上のものがいろいろ今後出てくる可能性はあると十分考えられると思います。
○山添拓君 馬奈木参考人に伺います。
空港近くの高さ制限に違反する場合であれば航空法、電波妨害であれば電波法、あるいは離島の低潮線の損壊であれば低潮線保全法など、政府がこの間例示しております機能阻害行為には既存の法律でも対応できることが含まれています、そういう中身ばかりだと思いますが、で、政府はそれでは遅い場合があるのだと、そう説明して、この法案では機能阻害行為や、そのおそれによって勧告、命令、罰則ができるのだと、対象とできるのだとしています。しかし、航空法や低潮線保全法は未遂罪を処罰しておりません。電波法にも準備罪はありません。個別の法令で犯罪が成立するタイミングを定めているにもかかわらず、それを大幅に前倒しした法案になっているのではないかと思います。この行為を規制するタイミングを相当早い段階に設定していることについて、御意見を伺います。
○参考人(馬奈木厳太郎君) 大変問題のある規定の仕方だというふうに私自身は思っています。
御指摘のように、例えばその電波法であったり低潮線保全法であったり、あります。例えば、国境離島等の機能阻害の一例として、例えば現に今の段階で、低潮線保全法で国交大臣の許可が得ないといけないものと同じような話がやっぱり機能阻害行為の一例として挙げられています。
現行法で対応できるんじゃないんですかというところで、恐らく政府としてはそれが足りないということでやってきていると思いますけれども、例えば違いがどこにあるのかというと、一つは調査ができるということです。もう一つが、今委員が御指摘になった、時間軸でいうと前倒しになっている。
例えば、この例としては共謀罪が多分私たちには一番身近だと思います。実行行為の前の準備行為とか計画であっても処罰対象としています。この説明をどう理解すればいいのか、違いをどう理解すればいいのか。恐らく保護法益が違うんですよ。保護法益は、今回の場合はこれ機能になっています。極めて曖昧です。通常、保護法益は、機能というふうに罰則を予定するような形で日本でやった例は多分ないと思います。今回が初めてじゃないでしょうか。何で機能にしているのか。
そうすると、行為ではないものを行為よりも前の段階、あるいは行為と評価できないものを含めて対象にしたかったというところがあるのではないかと思います。電波を飛ばす前の段階、偵察行為と評価できる以前の段階とか、そうした段階で何らかの規制を掛けたい、そういうことから保護法益を機能という形で整理したのかなと。
ただ、こうした可視化しづらいものを保護法益とするやり方は、罰則を予定する場合の大原則である予測可能性あるいは明確性とやっぱり抵触することになりかねないというふうに私は危惧しています。
○山添拓君 ありがとうございます。
次も馬奈木参考人に伺いますけれども、法案に立法事実がないことが衆議院以来語られてきました。しかし、それをどれだけ具体的に私たちが委員会で指摘をしても、政府やあるいは法案に賛成する会派の議員の皆さんからは、不安がある以上は何の対応もしなくてよいのかと、そういう主張がされることになり、大臣も、リスク、不安、懸念、これが立法事実だと語っています。
そこで言われている不安というのは、外国資本や外国人一般どこでもかしこでもということではなく、特定のあるいは一定の外国を念頭に、その外国資本や外国人について広く警戒すべきだと、そういう考えが背景にあるように思えてならないのですが、この点についてはどのようにお考えでしょうか。
○参考人(馬奈木厳太郎君) リスクというのは、やっぱりゼロリスクというのはあり得ないと思います。先ほど来、抑止という話出てきましたけれども、これもやっぱり抑止も一定の目標到達との関係で考えていく必要があるのではないかというふうに思っています。
その意味でいうと、今回のこの法案は、外国人、外国資本の防衛施設周辺の土地購入というところで提案理由はありましたが、立法事実があるかないかだけで、法整備を必要とするつまり事情があるのかどうかというそもそも論でこれだけ問題になった法案も最近では余り例がないのではないかなというふうに思います。
私自身は、衆議院の段階でその立法事実の問題というのはもうちょっと決着済みかなと思っていますが、念のため申し上げておくと、立法事実というのは、法案の内容がその法整備を必要とする事実に対応し、充足するものである必要があります。仮に政府が述べるように、防衛施設の周辺土地が外国資本に購入された事実が何らかの安全保障上のリスクだとして、それに対応するためにここまでの規制を及ぼし、ここまでの権限を与えないといけないのかと、リスクとされるものの程度に比べて規制内容がやっぱりバランスを崩していると。そうであるんならば、やっぱり立法事実たり得ないというふうに思います。
そもそも、外国資本がどうのこうのという発想そのものが、実は実態としては行為に着目する考え方じゃなくて属性に着目する考え方です。通常、刑罰などを予定する場合には行為に着目しますが、今回のこの法案のそもそもの発想は、実は属性に着目しているのではないかというふうに考えています。しかも、国籍という大くくりの属性に着目し、特定の国を潜在的な脅威であるかのようにもし扱うとするならば、私は、この発想自体がある種のゼノフォビアであって、もうヘイトにも近いものじゃないかというふうに思います。
その前提には、日本の社会がホモソーシャルだという誤った認識があるのではないでしょうか。こうした考え方は、個人主義を基調とする日本国憲法とはやっぱり相入れるものではないというふうに思います。運用に支障がないとされている中、抽象的なおそれだけで、それこそ具体的な支障の例の一つも挙げない中、これだけの権利制限や規制を行うというのはやっぱりちょっとどうだろうと思います。
必要なのは立法ではなくて、むしろそうした前提の認識そのものの方ではないでしょうか。
多様な価値観が認められ、多文化社会となっているときに、ホモソーシャルでゼノフォビア的な発想というのはもう時代遅れなのではないでしょうか。今国会では、LGBT法など、議員の方々のそうした意識が非常に浮き彫りになったのではないかというふうに個人的には思っています。
○山添拓君 最後に、お三方にそれぞれ端的にお答えいただければと思うのですが、馬奈木参考人から、この法案にはその他あるいは等という文言が多過ぎるとの指摘がありました。私もそう思います。区域の指定、処罰対象、調査の主体、客体、対象、方法、際限なく広がることが法律上は想定されておりますし、吉原参考人も、様々な臆測を呼ぶと、そういう指摘をされたとおりです。
政府は、現時点では想定していないと、こう言ったり、あるいは法案の三条に必要最小限になるようにという条文を追加したりと、こういうことを述べています。しかし、政権が恣意的な運用をしようとしたとき、あるいは独裁的な政権となったときに、それでも権利侵害はないと言えるのかと。これは、現在法案に賛成の皆さんにとっても大事なはずだと思うんですね。そこで、その点について端的に御意見を伺えればと思います。
○委員長(森屋宏君) 馬奈木参考人からですか。
○山添拓君 順に、吉原参考人から。
○参考人(吉原祥子君) まさに一般論で考えれば、そうしたケースは想定され得るのだろうと思います。この法案についてということではなくて、一般論として。そうした一般論をこの法案で起こさないために、どういう歯止めができるのかということを考えなければいけないというふうに思っております。
○参考人(半田滋君) 今回の罰則の中で、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金という、これ、行政罰としては非常に重い罪が予定されています。こういったことから、漠然とこの抑止をしていこうという思いは伝わってくるわけではありますけれども、余りにもその内容が曖昧過ぎて、実際のところ、幅広く網を掛け過ぎることによって権利侵害につながっていくと。だから、本末転倒の法律になっているというふうに思います。
もっと中身を具体化した上で、それに、軍事基地なのか、重要施設なのか、あるいは離島なのかということを個別に全部もう一度精査し直した上で、整合性のある別の法律として出し直す必要があると、そんなふうに思います。
○参考人(馬奈木厳太郎君) ちょっと私の答えの代わりに一つだけ条文御紹介したいと思います。
何人もいえども、要塞司令官の許可を得るにあらざれば、要塞地帯内水陸の形状を測量、撮影、模写、録収すること得ずとあります。これ、要塞地帯法、戦前の法律です。戦前でも、何をしちゃいけないかをこれだけ明確に書いています。今、戦後です。全てを閣議決定、政令、府令、それだったら国会要らないと思います。皆さんたち、今日、内閣委員のお一人お一人、問われていると思います。こういう法律は、作ったら簡単にはなくせないです。今ならまだ間に合うと思います。
これが私の答えです。
○山添拓君 ありがとうございました。