山添 拓 参議院議員 日本共産党

国会質問

2022年・第208通常国会

法務委員会で、女性の意思を尊重しない刑法堕胎罪は廃止すべきと求めました。

要約
  • 法務委員会で、女性の意思を尊重しない刑法堕胎罪は廃止すべきと求めました。明治時代の家父長制の下、胎児は父のものという前提で作られた規定であることを明らかにし、個人の尊重を大原則とした日本国憲法とは相容れず、特に経口中絶薬の承認が待たれる今、自己堕胎罪の廃止は必須です。

 

○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
資料をお配りしております。
昨年五月三十一日、名古屋地裁岡崎支部は、自分が産んだ赤ちゃんを遺棄したとして、当時二十歳だった元看護学生に懲役三年執行猶予五年の有罪判決を下しました。報道によりますと、女性は妊娠が分かってすぐ赤ちゃんの父親に当たる小学校の同級生にSNSで連絡し、二人で中絶を決め、その同級生は医師に求められた中絶の同意書にサインすることも約束していました。しかし、その後、連絡が取れなくなり、サインがもらえず、予約した手術を二回キャンセルしました。ほかの病院でも同意書が必要だと言われて、中絶できる期間を過ぎてしまったということです。通学途中に下腹部からの出血で公園のトイレに入り、その後の意識は曖昧で、気付いたときには出産し、そして、その後、赤ちゃんは死亡していたということでありました。本当に痛ましい事件だと思います。
コロナの下でDVや性暴力の相談件数が増えています。この事件だけでなく、望まない妊娠に苦しむ女性が少なくありません。大臣、こうした状況についてどのように認識、お持ちでしょうか。
○国務大臣(古川禎久君) 人間いろんなそれぞれ人生があって、その中で思いもせぬ、あるいは望みもしない中で妊娠するということはあり得るでしょう。一概に、神のような目で一概にこうだと言うことはできませんけれども、人間というものは、様々なそういう悩みや苦しみを、あるいは悲しみというものを持って生きるものだろうということだと思います。
○山添拓君 余り、仕方ないという感じになると、ちょっと今日の議論として立ち行かなくなってしまうのですが、やはり、その望まぬ妊娠をし、中絶を希望する。しかし、同意が得られない。中絶期間を過ぎてしまう。そして、孤独の中で出産し、いや、本当に苦しい状況に置かれたと思うんですね。似たような境遇に置かれる事件、これは過去にも起こっていますし、報道もされているところです。
私は、その背景には、リプロダクティブヘルス・アンド・ライツ、性と生殖に関する健康と権利についての日本の政治や社会における著しい遅れが横たわっていると思います。
このリプロというのは、リプロダクティブヘルス・アンド・ライツというのは、一九九四年の国際人口開発会議、カイロ会議の成果文書で盛り込まれたものです。二〇一六年には社会権規約、二〇一九年には自由権規約のそれぞれ一般的意見で、中絶は権利であり、安全かつ合法的、効果的な妊娠中絶へのアクセスを提供すべきだとされました。安全な中絶は国際的にも確認されてきた女性の大切な権利であります。ところが、国内の人工妊娠中絶は、危険で、身体的にも精神的にも苦痛を伴う掻爬法、かき出す方法が中心です。WHOは廃れた手法と呼んでいます。
厚労省は、昨年七月、掻爬法よりも安全な吸引法を推奨するということを日本産婦人科医会と日本産婦人科学会の会員に周知するよう依頼しています。資料もお配りしています。吸引法を採用するところは増えたのでしょうか。厚労省、お答えください。
○政府参考人(川又竹男君) 御指摘のとおり、令和三年七月二日、日本産婦人科医会、日本産婦人科学会に対しまして、人工妊娠中絶、流産の手術について、国際的な動向を踏まえまして、電動式吸引法、手動式吸引法を推奨するということで会員への周知をお願いいたしました。
その後、昨年十二月に関係団体が実施した母体保護法指導者向けの講習会のプログラムなどにおきましても、人工妊娠中絶の手術法の選択あるいは合併症対策等が含まれているところでありまして、今後とも引き続きまして、こうした関係団体と連携して、母性の生命健康の保護など適切な運用、周知を図ってまいりたいと思いますが、その通知後のちょっと数字については、まだ通知から一年たっていないところでございまして、データとしては持ち合わせてはいないところでございます。
○山添拓君 掻爬法より吸引法が安全だとして推奨されたものですから、是非確認いただきたいと思います。
中絶手術というのは自由診療で大変高額です。あるクリニックが電話で調べた一覧をホームページで公開しています。例えば東京都ですと、初期中絶か中期中絶かにもよりますが、平均で十六万円ぐらい。初診料、検査費用、手術料、火葬、埋葬料合わせて二十万円を超えるところも少なくありません。
厚労省は、これせめて実態を把握するべきではないかと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(榎本健太郎君) 今御指摘いただきました人工妊娠中絶につきましては、これ自由診療で行っておりまして、国として現在その費用等を把握している状況ではございません。
○山添拓君 いや、ですから把握すべきではありませんか。
○政府参考人(榎本健太郎君) 関係学会や団体にも当時確認したこともございますが、特にそれに特化した調査を行っていないという状況でもございました。そういった状況から、ちょっとなかなか把握というのは今の段階では考えているところではございません。
○山添拓君 十代、二十代、極めて経済的に大きな負担になります。
昨年十二月、経口人工妊娠中絶薬の薬事承認が申請されました。ミフェプリストンとミソプロストールのコンビ薬で、二〇〇五年にWHOの必須医薬品リストに掲載され、二〇一九年には必須中の必須の薬を集めたコアリストに移されています。
世界の平均価格は幾らとされていますか。
○政府参考人(榎本健太郎君) 今御指摘いただきましたミフェプリストンそれからミソプロストールということで、世界で幾らかというお尋ねでございますけれども、二〇一九年四月にWHO、国際保健機構の専門家委員会に提出された資料によりますと、ミフェプリストン一錠とミソプロストール四錠のセット製品の価格は、国連人口基金、UNFPAを通じて入手しました場合、三・七五から十一・七五アメリカ・ドルの範囲であるという報告がなされているところでございます。
○山添拓君 平均六ドル七十七セント、大体日本円で七百円ちょっと、そういうことでよろしいですか。
○政府参考人(榎本健太郎君) これは、価格の、ドルの換算レートにもよるかとは思いますけれども、例えば一ドル百十八円ということで換算をいたしますと、今、三・七五から十一・七五ドルというふうに申し上げましたが、四百四十三円から千三百八十七円ぐらいというところでございます。
○山添拓君 日本の中絶手術の金額とは全く異なる水準です。日本でも早期の承認が待たれております。子供を産むか産まないかの自己決定権とそのための健康を保障する、そういう観点からすれば、これは誰でも使えるように価格を抑えるべきだという点は指摘させていただきたいと思います。
一方、刑法二百十二条は、そうした自己決定権の尊重どころか、自己堕胎罪を処罰しています。そのため中絶は、処罰されたという感情、スティグマを与えるものとなっています。
法務省に伺います。
過去十年間、自己堕胎罪で起訴され有罪となった例はあるでしょうか。そもそも、なぜ処罰の対象とされているのでしょうか。
○政府参考人(川原隆司君) お答えいたします。
御指摘の刑法二百十二条の堕胎罪は、妊娠中の女子が薬物を用い、又はその他の方法により堕胎したときに成立されたものとされておりまして、一般に堕胎の罪については、胎児の生命、身体の安全を主たる保護法益とすると解されているものと承知しております。
また、件数でございますが、法務省として、平成二十三年から令和二年までの十年間において、刑法二百十二条の堕胎罪について起訴あるいは有罪判決が下された事案は把握してございません。
○山添拓君 ゼロということですね。
この規定は、明治時代、家父長制の下で女性に自由がなく、胎児は父のものという前提で作られたものだと思いますが、刑事局長、そのとおりでよろしいですね。
○政府参考人(川原隆司君) この罪につきましての保護法益は、先ほど申し上げましたように、胎児の生命、身体の安全を主たる保護法益ということで、胎児の生命、身体の安全を守るためにこれが制定されたものと承知しております。
○山添拓君 明治時代の刑法から変わっていませんね。
○政府参考人(川原隆司君) この条文につきましては、平仮名化された点を除きまして、明治時代からのものでございます。
○山添拓君 家制度を否定し、個人の尊重を大原則とした日本国憲法とは本来相入れない規定です。
大臣に伺います。
女性の意思を尊重しないこの刑法堕胎罪は廃止するべきではありませんか。
○国務大臣(古川禎久君) この堕胎罪ですけれども、堕胎罪は、先ほど刑事局長からも答弁申し上げましたが、胎児の生命、身体の安全というものを主たる保護法益とするものでございます。
この堕胎罪、刑法二百十二条でございますけれども、この存在理由があると考えておりますので、廃止は適当でないと、このように考えております。
○山添拓君 胎児の生命、身体の安全という保護法益があるのだと、それがあるから廃止は適当ではないという大臣の答弁でありました。
ところが、母体保護法十四条では、その要件を満たす場合には違法性がなくなり処罰されない規定になっています。母体保護法十四条では、本人と配偶者の同意があれば堕胎罪は違法性がなくなり処罰されないということになっています。
女性が一人で中絶すると刑罰の対象となる、胎児の生命、身体の安全を脅かす、男性が同意をするとそれは許されることになる、これはなぜですか。厚労省に。
○政府参考人(川又竹男君) 母体保護法の基になります旧優生保護法でございますが、昭和二十三年に議員立法で制定されたということでございますが、その際に、この人工妊娠中絶における配偶者の同意要件というのが立法当時から設けられております。
その当時のちょっと記録が必ずしも明確ではない面はございますけれども、この人工妊娠中絶における配偶者の同意という要件についてどう考えるかという点につきましては、胎児の生命尊重という観点がある一方、また、女性の自己決定権等に関する様々な議論が国民の間でもございます。また、個人の倫理観、道徳観とも深く関係する、そうした難しい面がある問題であるというふうに考えております。
○山添拓君 いや、記録が明確でないとおっしゃるんですけれども、女性が自らの意思で堕胎をすることは刑罰の対象となり、女性だけでは駄目で、男性が同意をすると違法性がなくなり処罰されない、これはおかしいのではありませんか。大臣と厚労省にそれぞれ伺います。
○政府参考人(川又竹男君) 繰り返しになりますが、立法当時から、議員立法での規定がございました。また、胎児の生命尊重、あるいは女性の自己決定権、様々な議論が今現在でも国民の間でもございます。倫理観、道徳観とも深く関係している、そうした問題として受け止めております。
これをどう今後していくのか、あるいは考えていくのかということにつきましては、国民各層における議論というものを踏まえる必要があるというふうに考えております。
○国務大臣(古川禎久君) 母体保護法は、母性の生命健康を保護するということを目的として、一定の要件の下で医師による人工妊娠中絶を認めているということを承知いたしております。
そのようなこの母体保護法の運用の中でそういう事態が生じるということにせよ、あくまでも母体保護法の目的は母性の生命健康を保護するということを目的としたものでございます。
○山添拓君 ちょっとおっしゃっていることが私の問題意識と必ずしもかみ合っていないように思うのですが、繰り返しますけれども、女性が一人で中絶すると刑罰の対象になる、男性が同意すれば合法というのは、これは憲法の下で説明が付かないと思います。
望まない妊娠は女性の人生設計を大きく左右するにもかかわらず、最終的な決定権は男性にあると、男性に選択権があると、決定権を与えていると、これは不合理だと思います。
改めて厚労省に伺いますが、この母体保護法の配偶者同意要件はなくすべきではありませんか。
○政府参考人(川又竹男君) 繰り返しになって恐縮ですが、この問題、様々な意見ございます。女性の自己決定権をどう考えるのか、あるいは、一方は、胎児の生命尊重、そうした中で、個々人の倫理観、道徳観、深く関係する問題であると考えておりまして、国民各層においてこれをどう考えるかと議論が深まっていくことがまず重要であるというふうに考えております。
○山添拓君 確認いたしますけれども、この配偶者同意要件ですが、配偶者同意要件と法文上も配偶者の同意となっているように、未婚の交際相手にすぎない場合には同意は不要ですね。
○政府参考人(川又竹男君) 配偶者となっておりますので未婚のときは含まれておりません。(発言する者あり)未婚の場合は含まないと。
○山添拓君 ですから、冒頭にお示しした元看護学生のケースは、本来中絶手術に相手の同意は不要だったわけです。しかし、今も多くのクリニックは、未婚のパートナーについても同意が必要と示していると伺います。これは、もし同意なく中絶手術を行った場合には、業務上堕胎罪に問われかねないということがあるわけですね。
今、厚労省から、未婚の場合には含まれないと答弁がありました。そのように周知するべきではありませんか。
○政府参考人(川又竹男君) 先ほども申し上げました指導者の講習会、関係者の講習会等では、この件についてもプログラムの中でお示しをしているところでございます。
○山添拓君 それは十分ではないためにこのような事態が起こっています。
DVの場合にも配偶者の同意は不要だとされるとされています。しかし、暴行や脅迫があったかどうか、それは誰が認定するのでしょうか。
○委員長(矢倉克夫君) どなたへの質問でしょうか。
○山添拓君 厚労省です。
○政府参考人(川又竹男君) 医療機関は捜査機関ではございませんので、つぶさに状況を証拠をもって調べることはできませんけれども、本人、患者さんからの聞き取り等において、医師、手術を行う医師の方で判断をさせていただいているところでございます。
○山添拓君 女性が申告をすればそれを医師の聞き取りの上に確認していくということであろうと思います。
国連女性差別撤廃委員会は、刑法や母体保護法の改正を求めて勧告しています。ところが、日本政府は、昨年九月に提出した第九回の報告書で、刑法や母体保護法の改正に向けた検討状況について何らコメントしていません。法務省と厚労省にそれぞれ理由を伺います。
○政府参考人(川原隆司君) お答えを申し上げます。
先ほど大臣からも御答弁がございましたように、母体保護法は、母性の生命健康を保護することを目的として、一定の要件の下で医師による人工妊娠中絶を認めていると承知しておりまして、その場合には堕胎罪として処罰されないこととなるものでございます。他方、母体保護法で認められていない堕胎を含めて自己堕胎罪を廃止して、一律に処罰しないとすることについては慎重な検討を要すると考えているところでございます。
その上で、今御指摘の女子差別撤廃条約実施状況第九回報告に当たりまして、女子差別撤廃委員会から我が国に送付されました事前の質問表においては、人工妊娠中絶を処罰の対象から外すとして刑法及び母体保護法を改正することなどを求めた前回の委員会の勧告に沿って、これらの規定を改正するために締約国が講じようとしている措置についての情報提供が求められました。
そこで、医師による人工妊娠中絶について定める母体保護法の要件を満たす場合には堕胎罪が成立しないことを説明するのが適当と考えたものでございます。事前質問表への回答を踏まえまして、今後、女子差別撤廃委員会による更なる審査が行われるものと承知しておりますが、引き続き適切に対応してまいりたいと考えております。
○政府参考人(川又竹男君) 女子差別撤廃条約実施状況第九回報告におきまして、母体保護法において、人工妊娠中絶には原則として配偶者の同意を必要としておりますけれども、配偶者が知れないとき、あるいは意思を表示することができないとき、妊娠後に配偶者が亡くなったときは本人の同意だけで人工妊娠中絶が可能であるという旨を回答しております。
なお、この場合において、配偶者が知れないときというときには、事実上所在不明の場合も含まれると、また、意思を表示することができないときには事実上その意思を表示することができない場合も含まれること、また、強制性交、加害者の同意を求める趣旨ではないこと、妊婦が配偶者暴力被害を受けているなど、婚姻関係が実質破綻しており、人工妊娠中絶について配偶者の同意を得ることが困難な場合は、本人の同意だけで足りる場合に該当するということなどにつきまして、解釈を明確化して、関係機関に周知を図っているところでございます。
この要件自体をどうするかと、除外すべきではないかという点につきましては、繰り返しになりますが、胎児の生命尊重や女性の自己決定権等に関する様々な御意見が国民の中で存在している中で、個々人の倫理観、道徳観とも深く関係する課題でありまして、そうした課題が多いものというふうに考えております。
○委員長(矢倉克夫君) 時間が過ぎておりますので、おまとめください。
○山添拓君 時間ですので終わりますけれども、今お話しになったようなことも報告はされていないんですね。法改正に向けて講じようとしている措置について情報提供せよというのが求めですから、それされるべきだと。
政府は性と生殖の健康と権利に正面から向き合って、自己堕胎罪と配偶者同意要件、いずれも廃止すべきだということを指摘して、質問を終わります。

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