2022年・第208通常国会
- 2022年4月6日
- 資源エネルギー調査会
資源エネルギーに関する調査会で参考人質疑を行いました。
- 要約
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- 資源エネルギーに関する調査会で参考人質疑。 2030年を見据えて気候危機にどう対応するか。省エネと再エネの大量導入など、優先して取り組むべき問題について質問。 参考人も「8年というのはあっという間。省エネも大変大事。太陽光に相当頑張ってもらわないといけない」と応じました。
○参考人(小山堅君) ありがとうございます。
御紹介いただきました、日本エネルギー経済研究所の小山でございます。
それでは、これから二十分ほどお時間をいただいて、ウクライナ危機とエネルギーの問題についてお話をさせていただきます。(資料映写)
まず、ウクライナ危機が起きてから、我々はエネルギー価格の高騰とエネルギー市場の不安定化に直面しておりますが、実は、皆様方も御記憶のとおり、今般のエネルギー市場の不安定化はウクライナ危機が本格的に深刻になる前から実は始まっていたという点を最初に申し上げたいと思っております。
昨年の後半以降、原油も、ヨーロッパの天然ガスの価格も、アジアのLNGのスポット価格も、そして石炭も、ある地域においては電力の価格も大幅に上昇し、同時多発的にエネルギー価格の高騰が起こっておりました。このように同時多発的にエネルギー価格が高騰をするというのは、なかなか普通あることではございません。
なぜこのようなことが起きたかということになりますと、私は四つほど問題点があったというふうに考えております。
一つは、二〇二〇年から起きてきたコロナの反動で、よく相場、取引の格言で言うとおり、谷が深ければその分山が次高くなると、反動が非常に大きいということでございました。
そして、なぜ、しかも、その反動が大きくなったかといいますと、国際的なエネルギー市場の中にある供給の余力、いざ需要が増えてきたときにそれに即応的に対応できる余力が減ってしまっていた。なぜ減ってしまっていたかというと、各エネルギーの企業が、できるだけコストを削減し、経営を効率化し合理化しようとすると、コストの元となる余分な余力を減らそうというふうに行動いたします。これは、個別の行動としては合理的ですが、全体として見るといざというときの余力が減るということを起こしてまいりました。
それから、あともう一つは、この間の低炭素、脱炭素化への取組の中で、再生可能エネルギーが重要な役割を果たしてまいりました。今回の特に電力需要の逼迫、需給の逼迫を見ますと、いずれもそのきっかけにおいて、例えば風力発電が不調になったり、太陽光発電が不調になった、これがイギリスやヨーロッパでの場合でも、日本でもテキサスでも見られています。これは、再生可能エネルギーに問題があったというよりは、最初に申し上げた、供給余力が不足している、何かあったときにそれに対応できる余力が全体として不足している中で起きてきたということが私は重要かと思っています。一たびどのエネルギー源も需給が逼迫してしまいますとそこからなかなか抜け出すことができない悪循環が発生し、その上に今般の地政学リスクが加わったということかと思います。
原油価格、このスライドにお示ししたとおり、二〇二〇年の四月にはマイナスの値段が先物価格で付くというような極端な事例が起きました。先ほど申し上げたとおり、もう異常な、谷が深くなったときであります。このときからの反動で、市場では供給が削減され、そしてその下で原油価格が上がってまいりました。
昨年の十月には、既に原油価格は八十ドルを超え、日本でもアメリカでもヨーロッパでも大きな問題を引き起こしておりましたが、その後も原油価格は実は上がり続け、その背景には先ほど申し上げたウクライナの情勢が大きく影響してまいったわけです。
三月の七日に原油価格は百三十ドルを瞬間風速で突破いたしました。リーマン・ショック後の最高値ということになります。これはもちろん、皆様御案内のとおり、アメリカがロシアの原油、LNG、エネルギー製品の禁輸を発表したということで、これは大変なことになるということが市場で反応した結果でございます。
しかし、これも皆様方いろんな報道で御案内のとおり、原油も価格が上昇していますが、それ以上に深刻なのは天然ガスあるいはLNGのスポット価格です。この赤い線で示したのはヨーロッパの天然ガスの取引価格でございますが、その先ほど、原油が百三十ドルを超えた日、同じ日に天然ガスの価格は原油換算でいうと一バレル四百ドルを超えるというような異常な暴騰ぶりを示しております。そして、ヨーロッパの天然ガス価格とアジアのLNGのスポット価格というのは今非常に連動性を高めておりますので、このアジアの価格も、青い線で示しておりますが、同じように原油以上にはるかに高い値段になっている。今回のウクライナ危機の中で、とりわけ天然ガスの問題が相当厳しくなっているということが分かっているのかなというふうに思っております。
さて、ウクライナ、この問題そのものについては、もう皆様方は御案内のとおりでございます。ロシアが力によって現状変更を加え、そして国際システムに挑戦をした。これに対して、アメリカもヨーロッパもそして日本も、決して許すことはできないということで、様々なこの立場の違い、特にエネルギー上の立場の違いはありますけれども、予想を超えて厳しい経済制裁をロシアに科すということになってまいりました。この戦争、軍事的な紛争、プラス、経済制裁や金融、この組合せの下でロシアのエネルギーがこれからどうなるのかというところが非常に大きな不安になっているわけでございます。
ロシアのエネルギーは、石油で見ますと世界の石油輸出の一一%、天然ガスでは世界の輸出の四分の一を占める、まさにエネルギー輸出の巨人であります。そのロシアのエネルギーが、この青い字で書きましたとおり、欧米側の経済制裁によってエネルギー取引が制約を受けるのではないか、あるいは戦争、戦闘が続くさなかでエネルギー関連のインフラが損傷したり操業できなくなるのではないか、あるいは、余り本当は可能性はそれほど高くないかもしれませんが、今のロシアではどういうことが起こるかなかなか分からないということを考えますと、ロシア側が輸出削減、停止という対抗措置をとる可能性もある。これらの組合せが起きて、ロシア側のエネルギー輸出に停止、削減ということが起これば、これから先の世界のエネルギー市場はますます混乱に陥るということかと思います。
その点において、特に石油とやはり天然ガス、LNGで場合を分けて考える必要があるかというふうに思っております。
石油の場合は、一言で申し上げると、供給支障、途絶が起きたときに、それをすぐ対応する、ある意味でいくと代替供給源が市場には備わっております。
一つは、中東の産油国、サウジアラビアを中心としてアラブ首長国連邦などに存在している余剰の生産能力です。この生産能力は、既に設備があって、この国の指導者がそれを決めれば、ある意味でいくと割と即座に石油が市場に出てまいります。
もう一つ即時的に対応できるのは、言うまでもなく、消費国にある石油の備蓄であります。IEAが三月に六千万バレルの備蓄を放出を決定し、今般はまたアメリカが三月三十一日に追加で戦略石油備蓄の放出というのを決定しています。その意味で、消費国の備蓄も大変重要である。また加えて、半年程度の時間を置けば例えばアメリカのシェールオイルの生産が増えてくる、あるいはイランとの核協議がまとまればイランの市場、石油が市場に戻ってくるというように、代替供給が幾つか可能性がある。
ところが、問題はガス、LNGでして、こちらは全ての企業、産ガス国が基本的に能力いっぱいで現在生産をしています。そのため、もしロシアの天然ガス供給が減少する、大きく止まるということになれば、その分だけ世界全体の供給量がそのまま減少する。そして、その減少してしまった供給、それを目指して世界中の消費国、消費国がある意味でいくと分け合う、あるいは取り合うということになる。そういう状況なために、先ほどお示ししたとおり、天然ガス価格の方が非常に高い。これから先、供給途絶があれば、この市場の混乱は大変なことになるということであります。
そして、ロシアに対して特に依存しているヨーロッパのこの影響というのは甚大になる。もちろん、原油価格が高騰すれば、日本を含めた世界全体の影響は深刻なものになります。その下でエネルギーの安定供給と安全保障を確保しなければならないというのは、日本、ヨーロッパ、世界の重要課題となっております。
とりわけ、今、ヨーロッパではこの問題に対して本当に真剣な取組が始まっております。柱は四つあるというふうに私は思っておりまして、一つは、ロシア依存度をいかに低減するか。このロシア依存度低減の中身は二つで、エネルギーミックスそのものを変えていく、再生可能エネルギーや省エネルギーを推進する。元々これは、脱炭素のためにヨーロッパが強力に取り組もうとしていたものをもっと進める。加えて、ヨーロッパの幾つかの国では原子力発電の活用ということについて動きが出ております。これも後ほど御説明申し上げたいと思います。
もう一つ、そうはいっても、石油や天然ガス、LNGはやっぱり今必要でございます。そのために、供給源の分散化というのをしないといけない、代替供給源をロシアから変えないといけない。そのために、LNGであればアメリカやカタールから、石油であれば先ほど申し上げたサウジアラビア、こういったところが重要になってまいります。
他方、ロシア依存度を低減しても緊急事態というのは起こるということの前提で考えないといけません。そこで、緊急事態への対応能力の整備という面では、IEA等と消費国との連携での石油備蓄の放出、そして、LNG、天然ガスの方は、供給余力がない中で何ができるかということであれば、一番需給が逼迫している地域・国に柔軟に供給を振り向けてこの痛みをできるだけ和らげるというような面での供給の柔軟な調整が必要である。その意味において、緊急融通や柔軟な、例えばアメリカ産のLNGの供給の活用というのが重要になってまいります。
いずれにせよ、石油もLNGも、全てのエネルギー源で、緊急事態においてはそれぞれの消費国が協力をするということが鍵になります。これはまさに第一次石油危機のときの重要な教訓でありますので、この問題もこれから非常に重要なテーマになってくると思います。
そして三番目が、何といっても、やはり供給力や供給余力をしっかりと確保しなければならない。そのためには、やはり適切に投資を行っていくということが重要になります。二〇二〇年以降、脱炭素化の取組が非常に進む中で、化石燃料分野に対しての投資はもう必要ないのではないかというような見方が広まりましたけれども、やはり今般の出来事を見て、実際には適切に化石燃料分野への投資もやっていく、これが移行期を踏まえた、トランジションをしていく中で安定供給をしていくには非常に重要だということが分かってきたのかと思います。
それから四点目は、安定的なベースロード電源というのはやはり価値があるんだということが再確認されたということではないかと思います。ここは、原子力についてフランスが新設の計画を発表したり、最近ではイギリス等の動きも出てきております。また、EUタクソノミーでも、条件付で原子力の位置付けというのが発表されてまいりました。
他方で、今回のウクライナ危機では、これはもう皆様御案内のとおり、原子力発電所に対してのロシア軍の武力攻撃が行われるという、あってはならない暴挙があったと。これが新しいリスクとして考えられる中で、原子力の問題をしっかりと考えていくというのが必要になっているということかと思います。
このグラフはエネルギーの自給率を示したものでございまして、ポイントは本当にシンプルでございます。アメリカとカナダはもう自給一〇〇%、つまり輸出国であって、英国もかなり高い。今回ロシアに対してエネルギーの禁輸というのを出した三か国は、基本的に言うと非常に自給率が高い。それに対してヨーロッパ、中でもドイツ、イタリアとかはかなり低いレベルにある。しかも、その上にもっと低いのが日本であるということがはっきりしております。
そして、ロシア依存度を見ますと、先ほど申し上げたドイツ、イタリア、輸入依存度、自給率が低い上にロシアへの依存度が高いという状況です。先ほどのアメリカ、カナダは事実上ロシアからはほとんど買っていないという状況であります。そして、日本は、例えば天然ガスで九%、石油で四%という依存度ですが、この一〇%内外の数字はイギリスの数字とやや似通ったところがありますが、そもそも輸入依存度、自給率が全く違う。日本の場合は自給率が非常に低いところでの依存という形であり、そこはやはり日本にとってしっかりと考えていくべきポイントなのかというふうに思います。
ヨーロッパ、EUは今回の危機を本当に深刻なものと捉えて、リパワーEUというような計画を発表し、二〇三〇年あるいはそれより前にロシア産の化石燃料の依存から脱却するというようなことを発表しております。これまで、脱炭素化のための取組、フィットフォー五五というようなパッケージ、これを更に強化していくということで早急にロシア依存からの脱却を目指す野心的な計画を出しているところでございます。
また、この三番目の列に供給セキュリティと手頃なエネルギー価格に関する政策文書というのがございますが、やはり鍵となっている天然ガスの安定供給確保のためには、天然ガスの在庫、備蓄に対しての一定の義務、そういった要件を課したり、あるいはヨーロッパとして共同のガス購入というのを検討するといったような、やはりこれまでにはない取組というのが始まっているということかと思います。やはり、ヨーロッパにとっては、今回の危機では、価格高騰だけでなくて、ひょっとするとエネルギーの入手不足というのが発生するのではないか、これの懸念が非常に大きい。それがゆえに、これだけ強力な政策を取らざるを得なくなったということかと思います。
今回の危機は、振り返ってみますと、第一次石油危機、アラブの戦争といわゆるアラブオイルエンバーゴー、これの組合せと似た点があり、かつその上で供給不足が起こるかもしれないという懸念があることも似た点でございます。その意味で、当時は日本はまさに深刻なエネルギー安定供給への懸念があり、そこからそのための強化の政策が一気に強化されました。ヨーロッパは今それと同じような状況を迎えているのではないかというふうに思っています。
この次の十ページ目のスライドは、マクロン大統領の原子力についての新しい計画で、昨年の十一月の段階で既に原子力の建設再開というのを発表しております。これは、ウクライナ危機が軍事侵攻など本格的に深刻化する前でありまして、先ほど申し上げた、既にエネルギー価格の高騰がヨーロッパ、世界で深刻になっている中で、フランスとしての決定を下した。二月には、新しい戦略として、例えば二〇五〇年までに六基の建設を行う等々、また、今世界的に関心を集めています小型モジュール炉、SMRの開発、こういったものにも取り組むといったことが、動きが出ているわけです。最近はまたイギリスでも新しい動きが出、恐らくロシア依存度の高いヨーロッパの国、東ヨーロッパの国などもこうした動きというのをこれから真剣に検討していく可能性があるというふうに思っております。
それから、今回の危機の中で一つ大きなテーマ、イシューになりましたのは、やはりロシアビジネスとの問題でございます。
今回の軍事侵攻に対して、先進国、G7として結束して対応する、その下で、かつロシアビジネスを続けることのレピュテーションリスク対応というのもある。そのために、欧米の主要企業が相次いで撤退し、それはエネルギー分野でもいわゆる石油メジャーの撤退ということになりました。BP、シェル、エクソンモービル。シェルやエクソンモービルは、サハリン1、2、そういったところに関わる重要企業でございますが、彼らが撤退した。
そうした中で日本がどういう対応をするのかというところに重要な関心が集まってきたわけで、先ほど申し上げたとおり、先進国、G7としての結束、これは極めて重要でありますが、他方で、日本のエネルギーの安定供給上の脆弱性、特徴ということを考えると、それに対してしっかりと戦略的な思考をしていくことが重要ではないかと思っております。
日本は、一九七〇年代以降、いわゆる自主開発を極めて重視して取組をやってまいりました。自主開発において大きな成果を上げたところもあれば、成果がなかなか難しいところもある。ロシア、このサハリン1、2は、この自主開発の面においては成果を上げた重要な拠点と言うことができるのではないかと私は思います。
そして、仮にこれから先、今回、今ニュースで流れているように、ロシアの行動に対してより厳しい対応が必要だというようなことになる、そして撤退というような話があったとしても、これは、二〇〇〇年代の前半に日本がイランのアザデガン油田の開発に取り組んで、そして結果的には対イラン制裁強化の下で撤退したときに何が起きたかといえば、これは中国の企業がそれに代わったということだけであったということも、我々は実態、エネルギー市場の実態として記憶しております。
そうした点も含めて、日本としてエネルギー安定供給ということをしっかり見据えた対応が必要だというふうに思っております。
最後のまとめは繰り返しとなりますので、私からの御説明は以上で終わらせていただきたいと思います。
どうも御清聴ありがとうございました。
○会長(宮沢洋一君) ありがとうございました。
次に、畔蒜参考人にお願いいたします。畔蒜参考人。
○参考人(畔蒜泰助君) ありがとうございます。御紹介ありがとうございます。笹川平和財団の畔蒜泰助でございます。
私の方からは、私はエネルギーの専門というよりはむしろ外交、安全保障の専門ですので、今回のウクライナ軍事侵攻の背景と日本を取り巻く地政戦略環境への影響という形で御報告をさせていただければと思っております。
まず、幾つか背景あると思うんですけれども、まず最初の背景ですが、やはり冷戦終結後のアメリカ主導の欧州の安全保障秩序の在り方、特にNATOの東方拡大問題をめぐるやはり米ロの関係の確執が、やはりロシアによる対ウクライナ軍事侵攻のまず背景にあるということなんだと思います。
この問題が非常に明確に表面化したのは二〇〇七年二月ですね。プーチン大統領がミュンヘンの安全保障会議のサミットで初めて、要するに反対であるという、アメリカの政策を明確に非難をするということがあったのがこれ二〇〇七年二月ですね。言ってみたら、それ以来、ウクライナのNATO加盟というのはロシアにとってレッドラインであるということがこの時点で既に明確に示されていたということですね。
なおかつ、それにもかかわらず、これはアメリカとロシアの戦略上の綱引きということなんでしょうけれども、二〇〇八年四月ですね、ブカレストのNATOサミットの首脳会議でアメリカが、このウクライナとジョージアですね、のNATO加盟へのプロセスを開始するということを提起するわけですね。これ、実際、最終的にはドイツとフランスがこれに反対したことでこのプロセス自体が始まらなかったわけですけれども、ただ、将来、両国がNATO加盟国になることに同意するという文言が残った。これが今日のウクライナのゼレンスキー政権がある時期まで、今ちょっとスタンスを変えていますけれども、NATO加盟を一生懸命努力をした背景にあったということですね。
そんな中、二〇一四年に最初のウクライナ危機が勃発するということで、これ、クリミアの併合、それからウクライナ東部への波及とあったわけですけれども、この問題は実は二〇一五年の二月にミンスク2合意という形で一旦収まりました。このミンスク2合意というのは、停戦をしてウクライナ東部に特別な自治権を与えることで、事実上この問題、まあロシアからすると、そうすることでウクライナのNATO加盟に対して事実上の拒否権を確保するという形のこの解決方法だったわけですけれども、結局、この問題は、ミンスク2を、合意を土台とした停戦和平の交渉というのはずっと膠着状態に陥って前に進まなかったということですね。
そんな中、二〇二一年の三月と十月にロシア軍がウクライナ国境に大規模集結をすると。これを受けてバイデン政権は、昨年の六月、それから十二月、米ロ首脳会談を行うと。特に十二月の首脳会談を受けて、欧州方面におけるロシアの安全保障上の脅威を議論する枠組みの立ち上げというのを実はこの時点で合意をしていました。
それに対してプーチン政権は、NATOの更なる東方拡大を行わないなどの法的拘束力のある保証を求めるなどの条約案を公表し、今年の一月から二月にかけて協議を行ったわけですが、結局、バイデン政権から出てきた回答というのは、ロシアの西側方面の安全保障に一定の配慮した回答だったわけですが、ただ、冷戦後の欧州安全保障秩序の根幹に関わるNATOの更なる東方拡大を行わないとの法的拘束力のある保証、つまりこれロシアが求めている保証ですね、これは拒否をしたと。
それに対して、二月の十七日、今度はプーチン政権がバイデン政権に対して、米国とその同盟諸国はロシアの安全保障に関する確固とした法的拘束力のあるギャランティーに関する同意が、関して同意する用意がないことから、モスクワはある軍事技術的な措置の実施を含めて対応する必要があると回答したということで、そして二月の二十四日、この軍事作戦が開始するに当たって、プーチン大統領は、年々西側諸国の無責任な政策によりNATOが東方に、そしてその軍事インフラがロシア国境に接近し、我が国に本質的な脅威を与えていると、これは我が国にとって生と死に関わる問題である、これは我々の国家の存在自体、その主権を脅かす現実の脅威であり、もはやレッドラインを越えたんだと、こういう形の説明をしてロシアは今回の軍事作戦を開始したということですね。これが背景一ですね。
実は、それだけではなくてもう一つ背景があって、やはりこのプーチン大統領の歴史観というのもこれ見逃せない点だと。
二〇二〇年の六月にプーチン大統領は第二次大戦に関する論文を書いている。で、二一年の七月にウクライナに関する論文を書いているわけですね。
前者は、近年、実は欧州で、一九三九年の独ソ不可侵条約を第二次大戦の事実上の始まりとする歴史観、これ主にポーランドを中心に東欧、中欧諸国が要するにプロモートしている歴史観なわけですけれども、が徐々に緩くなって、これ二〇一九年の九月にEUで決議をされるということがありました。それに対してロシア側は、ソ連は約二千七百万人もの犠牲を払ってナチス・ドイツを打倒して多くのユダヤ人を救済したんだと、そういう歴史観をかねてから主張しているということですね。
それから、後者の論文に関しては、ロシアとウクライナの歴史的な一体性を主張するとともに、現キエフ政権が、これはロシア側が言っているんで、私が言っているんじゃないんですけれども、過激なナショナリストとネオナチ主義者による違法なクーデターによって成立した政権であり、その正統性に疑問を呈する内容だったということで、実際に二月二十四日の軍事作戦の開始のプーチン大統領の演説を読むと、NATOの主要国によって支援された過激なナショナリストとネオナチ主義者から成るキエフ政権は、ウクライナ東部において数百万人の人々に対するジェノサイドを実施していると、その特別軍事作戦の目的は八年間キエフ政権からジェノサイドに遭ってきた人々の救済なんだと、そのためにウクライナの非武装化と非ナチ化を目指すんだと、ただしウクライナの領土の占領が目的じゃない、こういう説明をするということだったわけですね。
このように、二月二十四日のプーチン大統領の特別軍事作戦の演説は、このプーチン大統領の第二次大戦に関する論文とウクライナの論文の内容が色濃く反映されたものだったということですね。
それから、もう一つの背景ですね。実はこれも非常に大きいんだと思うんですけど、実はプーチン政権のやっぱり意思決定メカニズムが実は機能不全に陥っているんじゃないかという指摘、それが大統領の情勢判断を誤らせたんじゃないかということですね。
先ほどの二つの理由があったとしても、仮にそれをやったとしても、今回の実は軍事作戦、全然うまくいっていないわけですよね。じゃ、何でこんなうまくいかない軍事作戦を開始したんだということは非常に疑問に残るわけですけれども、これに関しては、一つ参考になるのが、二月二十一日に実はドネツク、ルガンスクの国家承認の是非が議論されたロシアの安全保障会議というのが開かれて、これ公開の場で、映像も公開されたわけですけれども、メンバーのやり取りを見ると、プーチン大統領が一人一人に下問をして、メンバーがもうおっかなびっくりで答えるというような状況が世界中に放映されたわけですけれども、もはやプーチン大統領の決定に誰も反論できないような様子が示されたと。
これに関して、実は、バイデン政権、アメリカのですね、ウィリアム・バーンズCIA長官はこう言っています。プーチン大統領自らがつくり上げたシステムにおいて彼のアドバイザーの輪がどんどん狭くなっており、さらに、コロナの影響でそれは更に狭くなっているんだと、また彼の判断に疑問を呈したり異議を唱えたりすることは更に難しくなっているんだということで。
こういう状況の中で、プーチン大統領は、彼自身がそれを必要だと思っても、実際にやるかどうかはやはりいろんな問題、いろんなプラスマイナスを総合して最終的に判断するものだと思うんですけれども、恐らく今のプーチン大統領の周りには、プーチン大統領がこうしたいということに対してそれを反論をすると、それを総合的に検討して、ロシアにとって何が一番ベストな選択なのかということですね、意思決定をするメカニズムが今どうやら機能していないんじゃないかということ、これが非常に背景としてあるんじゃないかということだと思います。
実際、じゃ、実際この問題起こってしまったということで、じゃ、その地政学的な影響というのはどういうことなのかということで、これ、三つここでは指摘させていただきたいと思っています。
まず、今、小山先生の話にもありましたけれども、やはり中長期的な欧州とロシアの相互依存関係は今後やはり希薄化の方向に向かっていくんじゃないかということですね。
一四年のウクライナ危機以降、アメリカとEUはロシアに経済制裁を科してきて、今回のロシアによるウクライナへの全面侵攻を受けて、両者はロシアに更なる経済制裁を科しているわけですね。御案内のとおり、ドイツも、ガスプロムが主導するロシアとドイツをバルト海で直結するノルドストリーム2の天然ガスパイプラインプロジェクトも停止を発表していると。
ただし、もちろん、EUの経済制裁には今のところエネルギーは含まれていない。今後、石炭が入るか入らないかという今議論が行われているようですけれども、特に、当面、やっぱりロシアからの天然ガスの輸入はこれは継続せざるを得ないということなんだと思います。ちなみに、二〇二一年ですね、EUはロシアから千五百五十億立方メートルですか、の天然ガスを輸入していると。これはEU全体のガス輸入の四五%、それからガス消費の四〇%弱ということで、相当やっぱり大きいわけですね。ただ、いずれにせよ、EUはやっぱり中長期的にはロシアへの天然ガス輸入依存度を大きく下げていくということになるんだろうと思います。
そうなってくると、ロシアは、次、そういう状況の中で、歴史的にロシアはEUとの関係がずっと、まあヨーロッパですよね、ロシアというのは元々ヨーロッパの国なわけで、ヨーロッパとの関係非常に深いわけですけれども、やはり今後、やっぱりロシアの中国への戦略的、経済的な依存度がこれ上がっていかざるを得ないという状況なんだと思います。
二〇一四年のウクライナ危機以降、アメリカとEUから経済制裁を受けて、ロシアは中国との戦略的、経済的な関係を深めてきたわけですね。今回のロシアによるウクライナへの全面侵攻を受けて、アメリカが、EUや、ロシアに更なる経済制裁を科したことで、ロシアは中国への戦略的、経済的な依存度をこれもう一層高めざるを得ないという状況なんだと思います。
アメリカやEUは中国に対してロシアと距離を取るようにということを働きかけているわけですけれども、御案内のとおり、ロシアは今のところ、中国に対して、あっ、中国はですね、ロシアに対してウクライナへの軍事侵攻を直接非難することもしていませんし、国連の非難決議でも一貫して棄権をしているということですね。もちろん経済制裁も科していないということで。
これ、中国、もちろん中国としてみると、アメリカによるロシアに対する経済制裁のもちろんとばっちりは受けたくないでしょうから、そこは非常に慎重にやっているということは間違いないと思うんですけれども、ただし、中国のやはり中長期的な戦略を考えると、やはりアメリカとの大国間競争というのがやはり中国にとっては、特に今の習近平政権にとっては非常に大きな優先順位だと考えると、やはりアメリカ中心の世界秩序の変革という共通の目標を持つロシアとの戦略的関係は維持していく可能性が高いということだと思います。
そうなってくると、この最後なんですけれども、実は、日本とインドというのが今この問題でどう対処するのかというのはある種問われていると。ここで実は対応が微妙に今分かれてきているというのがその状況だと思います。
というのも、実は二〇一四年のウクライナ危機以降、ロシアは先ほど申し上げたとおり中国との戦略的経済関係を深めていったわけですけれども、ただし、同時に、実はロシアというのは、米中の対立時代の到来を見据えて、インド、特にインドの場合は武器の取引が非常に重要で、例えば、これよく言われますけれども、実はインドはロシアに原子力潜水艦をリースを受けています。ですから、インドに対して原子力潜水艦をリースする、できる国というのは恐らく今の時点でロシアしかないんだと思うんですね。これアメリカはできない、やらないと思います。あるいは、S400という地対空ミサイル、非常に性能のいい地対空ミサイルを、これは二〇〇〇年の末に、あっ、二〇〇一年ですね、ごめんなさい、去年ですね、去年の末に購入をしています。
これ、実は今のアメリカの、二〇一七年にできたアメリカのCAATSAという対ロ制裁の法律があるんですけれども、これによると、アメリカはロシアから武器を購入した国に対して制裁を掛けなきゃいけないという法律があって、実はトルコは、ロシアからそのS400を購入したことを受けて実はアメリカから制裁を受けているんですね。ところが、今のところアメリカはインドに対して実は制裁を、S400の購入に関して実は掛けていない。その最大の理由は、インドが中国との関係の中でロシアから武器を購入をしていると、中国に対抗するというか、中国との軍事バランスを維持するためにロシアから武器を購入している。そういうことを総合的に考えて、今のところですね、今のところバイデン政権はインドに対して制裁を掛けていないわけですけれども、そういう関係があるんですね。
日本もエネルギーなどで協力関係を強化を通じて、アメリカはもちろん、中国にも過度には依存しない戦略的自律性を維持した大国としての生き残りを目指してきたわけですね、ロシアは。ただ、我が国は、平和条約問題も加えて、ロシアへの中国の過度な接近は回避したいとの思惑から、我が国も、我が国もロ中が過度に接近するということは嫌なので、同様の戦略観を持つインドとともにロシアに戦略的関与を行ってきたという。安倍政権の対ロ政策というのは、私の理解ですけれども、領土問題、平和条約交渉ももちろんあったと思うんです。そのやはり対中問題というのも非常に戦略的な背景としてあったということだと思います。
ただし、今回のウクライナへ、あの軍事侵攻を受けて、我が国はアメリカやEUとともにロシアへの厳しい制裁を科したと。それに対してインドは、ロシアへの経済制裁を科していないのみならず、むしろロシアとのエネルギー、特に石油ですね、の取引を今増やしているという状況ですね。ロシアによるウクライナへの軍事侵攻という想定外の事態を受けて、インドは、対中に、中国に念頭置いたクアッド、日米豪印のですね、と、クアッドの枠組みとロシアとの間で微妙なバランス外交を今展開をしていると。
我が国は、G7の枠組みの中で米国や欧州と並んでロシアに厳しい経済制裁を科したわけですけれども、これに対してロシアは平和条約の条約交渉の打切りを通告してきたということで、ロ中関係の更なる深化と相まって、日ロの二国間関係、恐らく今後長期的に低迷期に入っていく可能性はやっぱり高いんだと思うんですね。
ただし、ただしですね、さはさりながら、現在その制裁対象に含まれていないエネルギー分野におけるロシアでの権益については、日本がこれらの権益を手放したとしても、今言ったように、もう中国との関係は接近している、さらにインドも今ロシアとの関係を、彼らは彼らの戦略観でロシアとの関係を維持していくという方向性を打ち出していますので、これらを日本が手放したとしてもやはり彼らが取得していくという可能性が極めて高いと。そうだとすれば、ロシアへの経済制裁の効果というものは極めて限定的になる可能性が高いので、やはり我が国エネルギー安全保障の観点からこれは維持すべきなんじゃないかと私も考えております。
以上でございます。
○会長(宮沢洋一君) ありがとうございました。
次に、蓮見参考人にお願いいたします。蓮見参考人。
○参考人(蓮見雄君) 立教大学の蓮見でございます。
私は、脱ロシア依存を決断したEUの政策からどのような示唆が得られるのかという観点からお話をしたいと思います。(資料映写)
と同時に、まず、今般のエネルギー危機の問題というのは、オイルショックの頃と違っていて、多極化の時代において起こっているということを確認したいと思います。その上で、脱ロシアを選択したEUの政策の可能性と問題点をお話しすると。実はそれが結果的にはEUの経済的安全保障問題というのにつながってきていて、特に恐らく重要になってくるのが対中国関係ということになろうと思います。最後に、日本の選択はいかにというお話をしたいと思います。
この図なんですけれども、IMFが出しているGDPの世界シェアということで、まず折れ線グラフの部分ですけれども、G7全体としてもそうですし、EU、アメリカ、日本、ドイツ、軒並み基本的にはシェアを落としていると。この棒グラフのブルーの部分は、欧米、それから制裁に参加をしている国々のGDPを足し合わせたものです。それに対して、中国と香港、インド、それからASEANを加えたものが緑色の棒グラフです。黄色い部分が日本ということで、そうしますと、実は世界中全てが今ロシアを制裁しているわけではないということが分かってきます。
これはあくまでもイメージ図ですけれども、もう以前から始まっていた問題なんですが、やはりG7を中心とする世界に対して、G20の時代になって、特にインドや中国そしてロシアというものがある種対応、対抗してくるということは今までも起こってきたということです。
次は飛ばしますが、非常に面白いのは、ファイナンシャル・タイムズに面白い記事がありまして、世界の大半は一歩引いた立場を取って成り行きを見守っていると、あるいはロシアを非難したサウジアラビアも実際には人民元の原油決済をもう検討し始めているということで、かなり世界は冷静に見ているということをやっぱり確認しておくべきだということであります。
もう一つ、ではEUはどうなのかというと、一言で言うと、実はロシアのおかげでと言ってはいけませんが、EUのエネルギー政策は大変強化されております。
この図ですけれども、現在EUが取り組んでいるのが欧州グリーンディールというものでございますけれども、これ成長戦略であります。残念ながらEUは、過去二回のリスボン戦略、欧州二〇二〇戦略においては余り成果を上げていないんですけれども、今回、その反省を踏まえて、グリーン成長を中心に置いた戦略を打ち出しております。
注目すべきは黄色くなっている部分ですけれども、ウクライナ、ロシアのガス紛争を契機に、実はEUのエネルギー政策というのは格段に強化されます。それ以前は各国がばらばらにやっていたんですけれども、その二〇〇九年のリスボン条約、基本条約の中に、百九十四条でEUレベルでできるエネルギー政策というのが組み込まれているんですね。これが全てのEUの基礎ですし、今回、脱ロシアを決断するということも打ち出せる一つの秘密であります。ただし、そのベルサイユ宣言あるいはリパワーEUというのは、ロシア依存脱却がスムーズにいくかどうかというのはちょっと分からないところです。いずれにしても、黄色く書いた部分、印をした部分ですけれども、この百九十四条の部分でEUとして強力なエネルギー政策を行えるという法的な根拠があるということであります。
もう一つは、再生可能エネルギーは高いというのは十年前の話でありまして、この十年間でコストが十分の一になっていると、その限りにおいては、EUのグリーンディールというのは成功する可能性は多少はあるということであります。
これが全体の図なんですけれども、基本的には、産業界全体を総動員してグリーンビジネスに展開をするというような壮大な構造になっております。問題は、その具体策として出ているのが欧州新産業戦略です。これ非常に面白いことを言っておりまして、グリーンとデジタルへの移行は競争の本質に影響する地政学的プレートが動く中で生じると言っていまして、これはもう欧州の主権に関わるんだと言っていて、あたかも今日の事態を想定していたような策を出しております。
そのこと自体はすばらしいんですが、そのために、実はヨーロッパの市場統合をベースに、機動的な官民パートナーシップによって、例えばバッテリー同盟であるとかあるいはクリーン水素同盟などというのを始めていますし、産業の移行支援というのも始めているんです。対外的にはオープン・ストラテジック・オートノミーという、開かれた戦略的自律性を追求するルールメーキングを目指す戦略を打ち出しています。
これ自体は大変すばらしいと私は思っていますが、問題なのは、じゃ、具体的に各産業が本当にスムーズに脱炭素できるんですかと、そこの部分は実は非常に曖昧です。それが実はガス価格高騰につながっております。
で、ポイントだけお話ししますと、なぜ秋の段階でガス価格が高騰したのかというと、やはりグリーンへの期待とともに不安が広がったと。実際に産業が欧州委員会が打ち出しているような政策に従ってグリーン化ができるんですかと、それから、化石燃料が本当になくなるんですかということになって、かえって市場の不安を高めてしまったということです。それがガス価格の高騰につながっていくわけです。さらに、今回のウクライナ戦争によって更にガスが上がると、石油が上がるということになって、様々な議論が出ています。
じゃ、グリーンディールを進めればいいじゃないかという議論があるんですけれども、ところが、実はデジタル化とグリーン化というのは新しい資源への依存というのを生み出すんですね。これまさに経済安全保障問題で、もうちょっと後でお話をしますけれども、実はそれをたくさん持っているのが中国だということであります。
その後の資料はちょっと参考にということで御覧いただきたいですが、あと、この十八ページ目の資料は、備蓄がやはりすごく減ったので、当然ガス価格は上がりますというお話です。
それから、その移行経路がなぜ重要なのかということを申しますと、十九枚目のスライドにありますように、一応その脱炭素を目指すということで、温室効果ガスを減らす過去の経緯と展望が描かれているわけです。一番大きいのが、輸送と工業部門と発電です。実績として、輸送部門と工業部門のそのCO2の削減は進んでいません。これを本当にできるんですかという問題と、発電の部分では確かに順調に風力発電、太陽光発電によって減ってきたんですが、もっとたくさん再生可能エネルギーを使うようになると、エネルギーシステム全体を統合すると、デジタル化するということが必要になってきていて、これからが実は大変なんですね。そういう意味では、そんなに簡単ではないと。
で、一応この画面の一番右側の棒グラフが、二〇五〇年の段階でのEUが想定しているエネルギーミックスです。これを見ていただくと、風力、それから太陽光、さらにバイオ燃料をもう劇的に増やすと。その代わりに石油とかガス、特にガスはほとんど要らなくなると。これがもしできるんだったら、そもそも脱ロシアという問題を考えなくても自然にそうなるということになっているわけですけれども、実際には、秋に起こったような問題、風力発電が足りないとガス火力が必要であったというような問題があるということです。その結果として、やはりガスと原子力は当面使わないといけないよねという結論に至ったというところでございます。
さてそれで、ロシア、今回脱ロシア依存ということを打ち出したわけですけれども、これもう一言で言いますと、天然ガスをロシア依存をやめるのはいいんですけど、アメリカのLNGに依存するということです。しかも、アメリカは、それを実は確約していません。そこが大きな問題ですし、じゃ、かといってグリーン化を進めるとどうなるかというと、中国依存です。それを避けるためには実は自律的な産業をつくらないといけないという問題に直面をしております。
こちら、ベルサイユ宣言ということで、特にやはり重要なのがより強力な経済基盤の確立だと私は考えているということでございます。
こちら、この辺りはちょっと参考ということで、二十四ページ、二十五ページ、エネルギーミックスが物すごく違う、ロシア依存度が違うというものの参考資料でございます。
頼りのアメリカのLNGですが、これは実はトランプ大統領の時代から始まっていって、アメリカが売り込んで、ヨーロッパは多角化をしたいのでそれに応じたということです。
さらに、今年三月二十五日に、欧州エネルギー安全保障に関するEU米国共同声明というのが出ています。それを読んで私は驚いたんですが、二〇二二年に十五bcmを供給する努力をしますとしか書いていないんですよ。それは過去の実績より少ないんです。
それから、アメリカがヨーロッパに提供してきたガスというのはお値段次第なんです。ヨーロッパのガスが高ければヨーロッパに売ると、で、アジアのガスが高ければアジアに売るという形で、この実績を見ていただくと分かると思いますが、そういう意味では、ヨーロッパはアメリカのLNGを必ずしも当てにはできないという厳しい状況に置かれるということです。
では、グリーン化を進めればいいじゃないかということになるかもしれません。ところが、問題なのは、この図にありますように、バッテリーであれ、あるいは風力発電であれ、太陽光パネルであれ、ほとんどのものはいわゆるクリティカルローマテリアルズと言われる希少資源、レアメタルというようなものに依存しているんですね。これは既にもう相当に価格が高騰しております。それが、その問題が起こってくると。
それ誰が持っているかというと、この二十八枚目の図が非常に明らかでありまして、ここではEUが指定しているクリティカルローマテリアルズですが、中国が六六%、さらにEU自身も四四%をそれに依存しているという状態があります。なので、グリーン化はすなわち中国依存という可能性があるということです。
二〇二〇年の新産業戦略を二〇二一年にアップデートしているんですけれども、五千二百品目を調べました。そうすると、百三十七品目については、非常に重要な部分を海外の輸入に依存しているということが分かりました。これも御覧のとおり、中国五二%、ベトナム一一%というような数字になっています。これはまずいということになりまして、原料、バッテリー、医薬品原液、水素、半導体、クラウド関連のエッジ技術、これについては産官学の連携でとにかく対応しなきゃいけないというところに今あるわけであります。
さて、もう一つの問題は、畔蒜先生もおっしゃったように、やはり中国です。簡単に言うと、ロシアはヨーロッパ離れをしてきたんですけれども、それは、一言で言うと、ドイツ依存から中国依存に変えたということです。これは、近年の中国への依存とかインドへの依存というのの変化、若干増えているというお話の確認ですが、それから、中国は、特に二〇一〇年以降、やっぱり急速にロシア、中国の貿易関係は増えていると。この背景には、そこに若干書いてありますけれども、やはり石油であるとか天然ガスのパイプラインをアジア向けに敷設してきたという事実があります。これ、二〇〇一年と二〇二〇年のロシアの資源、これは石油、天然ガスだけではないですけれども、いろんな資源を見ますと、やはりアジア向けが増えているということです。
驚くべきことは、産業用機械、設備、これが二十年の間にドイツではなくて中国に依存すると、それから、電気機器、設備においてももう圧倒的にドイツから中国へと、さらに、半導体についてもドイツから中国へということで、この二十年の間にドイツと中国の価値がロシアにとっても完全に逆転したということです。
こちらが問題になっているシベリアの力とシベリアの力2という天然ガスのパイプラインなどのお話ですけれども、画面上の緑色のライン、これが石油のパイプラインですが、これを造ることによって、ロシアはヨーロッパ向けの資源輸出からアジア向けという体制を整えつつあるということです。紫色のシベリアの力2というのは、すぐにはできないです、五年ぐらいは掛かりますが、しかし、もしこれができたら、今までヨーロッパ向けに送られていた西シベリアのガスが中国に向かうということになります。もちろん交渉力は明らかに中国の方が高いですから、相当にロシアは買いたたかれるとは思いますが、ロシアとしてはやらざるを得ないというふうになっていると思います。
もう一つ、これは金融制裁とも関わりますけれども、ロシアは近年、脱ドルを模索してきました。中央銀行の外貨準備で見ても、ドルを思いっ切り減らして、金と人民元に替えていると。現実には、ユーロ、ドルは凍結されて使えないので手元には金と人民元しかないわけですが、これ、でも、BRICS諸国に対する貿易についてもやはりルーブルであるとかユーロであるという対応を取ってきたということです。
中国との貿易でいいますと、やはり圧倒的に実はユーロが多くなっていたわけですが、既にルーブル建てや人民元建ての決済も行われているという事実があります。
この問題は、実は金融制裁、SWIFT排除という問題とも関わるわけです。皆さん御案内のとおり、SWIFTは圧倒的に強い力がありますから、とてもロシア、中国、対抗はできませんけれども、しかしながら、ロシアとしてもSPESという独自のシステム、それからCIPSという中国のシステムなどがあります。それから、暗号資産についてはG7がそれを塞ぐということをやっているので、相当にロシアが苦しいのは確かです。ただし、ルーブル決済、人民元決済、それからルピー決済、場合によってはドンであるとか、そういう国民通貨建ての決済を行うということは不可能ではないので、そういうことをロシアは何とか考えていると。
それとの関係で恐らくガスをルーブルで払えというような話が出てくるんですが、これ、スキームとしてはここに説明しているので御参考までということです。
で、大事なのはこちらですけれども、まず、四十四枚目、ロシアの経済制裁に関してですが、ロシアに対して主なもので特に重要なのがアメリカのSDNですけれども、これ二次制裁も含まれますので、これ中国への警告になっているということと、それから、輸出規制に関しても直接製品規制の拡大適用というのをやっていまして、これファーウェイなんかが対象にしたものなので、中国への警告になっているので、大変効果があるのは間違いがないです。
さてそれで、この四十五枚目と四十六枚目が非常に重要なんですが、まずエネルギーミックスが国によって全然違う、それから自給率も全然違うということですけれども、一番上に書きましたアメリカ、イギリス、まあカナダもそうですけれども、こちらは自給率が非常に高いので、ロシアに経済制裁をしても困らないと。むしろ価格が上がれば利益が出るという状態です。
ドイツは、一応脱原発方針ですけれども、再エネが発達をしています。EUとしての脱炭素化を主導するということによって脱ロシア依存を図るということになろうかと思います。フランスは原発大国です。重要なのは、その原発大国と再生可能エネルギー大国のドイツがエネルギー統合しているということなので、非常に補完関係が高いので、ヨーロッパは脱ロシアというのを考えることができるということです。
ただし、黄色くなっているところに書いてございますように、秋のやっぱり価格高騰の問題というのは、実際に各産業界が脱炭素のビジネスモデルに転換していけるでしょうかと、その展望がなかったんじゃないでしょうかと。で、その結果として、天然ガスや原子力をやはり使うということも考えなきゃいけないということになったということです。
日本はどうなのかというと、まずエネルギーインフラ、ハード、ソフト面において、これ再エネを使う条件が大変遅れています。それから、圧倒的に中東地域に依存している状態です。そうしますと、化石燃料の確保というのは本当にヨーロッパの国以上に非常に重要になると。原発についても、有事の際のリスクの問題とか、なかなか新設をするというのは難しい状況があるわけで、そうすると、化石燃料を確保するというのは日本にとっては死活問題だと私は思います。
さて、もう一つ、では、それでも欧米の企業が撤退しているんだから、日本も撤退するべきだという議論があります。色分けしていますが、外国の企業が参加しているプロジェクトですけれども、BP、シェルなどが売却ないし撤退方針ですけれども、じゃ、売却したら誰が買うんですかという問題があります。それから、独、仏は新規投資を停止していますけれども、実は様子見の部分もあって、特にフランスのトタールの動きは着目すべきです。インド、中国系は、企業としては方針を出していませんが、国としては協力する方針です。
じゃ、日本はどうなんですかということで、やはり、撤退した後に上流権益は誰の手に入るのかということがやはりポイントではないかというふうに思います。
さてそれで、あと、こちらは日本がどれぐらいロシアに依存をしているかという参考資料でございますので、御覧いただいて。
五十一枚目ですけれども、これが日本企業が参加しているプロジェクトで、確かに、例えばサハリン1からエクソンが撤退をしていると。じゃ、SODECOさんはどうするんだというのがあるわけですけれども、ただ、これインドが参加をしていますので、出ていけば当然インドがシェアを増やすだろうということになります。
ヤマルLNGというのは、実はもう中国が助けたプロジェクトでもあります。そういうことで、日本が撤退をするということは、すなわち中国を助けるというようなことになってしまって、間接的にロシアを助けるということになるんじゃないかということです。
最後、済みません、時間が超過していますが、まず、日本はロシアと関係を絶つという選択肢があるかないかといえば、なくはないと思います。ただ、今申し上げたように、その権益を中国やインドが手にするということは、すなわち間接的にロシアを支援することになると。そうすると、制裁効果を減じる可能性というのはあるんじゃないでしょうかと。
それから、やはりロシアは隣国なんですね。イギリスとかアメリカの場合と状況が違っていて、例えばフィンランドなどは、制裁にはもちろん参加しているんですけれども、制裁対象以外の河川交通なんかは再開をする意向であります。
それからもう一つは、この上流権益というのは常にリスクがあるわけですけれども、やっぱり撤退する企業に対して何らかのサポートをしてあげないと、二度とそういう事業に手を出してくれる企業がなくなってしまうと、そういう問題があります。
いずれにしても、各国、エネルギーの事情を考慮した対応を取っているので、日本も自らのエネルギー事情をやっぱり考えると。それから、特にヨーロッパ系の企業の動向を踏まえて政策選択をすべきではないかというのが私の考えです。
それから、やはり一番重要なのは、実はエネルギーを確保すると同時に、各産業が脱炭素化に移行できるようなサポートを実際に考えなきゃいけないと、そういうことがやはり重要ではないかということでございます。
ということで、私のお話、以上でございます。ありがとうございました。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
三人の参考人の皆さん、今日はありがとうございました。
小山参考人と蓮見参考人に伺います。
原油、ガス価格の高騰、そしてウクライナへの侵略、また、そもそも二〇三〇年を見据えて気候危機にどう対応するかということが日本のエネルギーの安定確保との関係でも問われてきていたと思います。
原発再稼働の話が先ほど出ておりました。我が党は原発ゼロを求めていますけれども、ロシアのウクライナ侵略で原発が攻撃対象になったりした事態が原発の存在そのものの危険性をやはり改めて浮き彫りにしていると思います。
また、過去、日本で最も多くの原発が稼働していた時期でもエネルギーの自給率が二〇%を上回ったことはありませんので、エネルギー安全保障との関係でも原発依存は抜本的な対策とはならないと考えます。先ほど小山参考人が触れられましたIEAの世界の電源ミックスの今後の見通しでも、やはり原発は減少し、再エネが圧倒的に増えていくという予測を立てているかと思います。
そこで伺いたいのですが、やはりエネルギー自給率を高め、かつ気候危機を打開するためには、省エネによって需要を減らすということと一〇〇%国産の再エネを大量導入するというのが鍵であり、またそれが最優先であり、そしてこれは二〇三〇年を見据えてやはりかなり近い未来の話として優先的に取り組まなければならない問題だと思いますが、御意見をお聞かせください。
○参考人(小山堅君) 御質問ありがとうございます。
今お話があったとおり、その二〇三〇年という目標というか問題を考えますと、私どもエネルギーの問題を考えている者にとって、実は残り八年というのはある意味でいうとあっという間の時間でございまして、二〇五〇年カーボンニュートラルとなると、いろんな投資をしていろんなことをやって相当構造を変えていく時間があるんですけれども、あと八年では何ができるのかというと、もうかなり実は見えてきている部分というのがあるというふうに私は思っております。
もちろん、今回のエネルギー基本計画のミックスの中にあるとおり、御指摘のあったとおり省エネも大変大事で、前の目標よりも二割も省エネをもっと増やすということになっています。それから、再生可能エネルギーの目標は、その前の目標であるところから一〇ポイント以上上げて三六%から三八%まで上げていく。そして、この先ほど申し上げた八年という時間軸を考えると、太陽光で何とか頑張ってもらうというのが今回出してきた一つの解でありました。もちろん、もっと長期的に言うと、洋上風力とかそういうのがどんどん入ってくる、そういうことも期待できるんですけど、この八年間の間だったら恐らく太陽光に相当頑張ってもらわないといけないだろうというふうにやっぱり見えているわけです。
そこで、その原子力でございますけれども、その再稼働という観点で見ますと、これはその安全性が確認された原子炉のというこの枕言葉というか前提が付くんですけど、既にある設備をどう使うかというふうに見ることができるわけです。
先ほど私、ヨーロッパでフランスで新しい計画が出てきましたというふうに申し上げたんですが、これは新設をする、全く新しいところに造るという問題と、日本の場合は、今あるインフラ、これを安全性が確認された上で運転していくということによってCO2排出削減とそれから自給率の向上に資すると、その意味において重要性は高いのではないかというふうに私は考え、申し上げたということでございます。
あともう一つ、先ほど御指摘があったIEAでは、例えば原子力は減って再エネが増えていくという将来ではないかという御指摘があったんですけれども、例えばIEAの見方でも、カーボンニュートラル、世界全体でゼロエミッションにするというような絵を描く場合にはやはり原子力も増やさざるを得ないという、増えるという姿になっているというふうに私は理解しております。もちろん、そのネットゼロを描く世界の中で、IEAの見通しでも再生可能エネルギーが大幅に増えていく、これはもう間違いないところでございますが、やはりまさにカーボンニュートラル、ネットゼロを描こうと思ったら、ありとあらゆる脱炭素化、ゼロエミッションの技術というのを総動員していかないとそこに到達しない、それは水素とかも含めたイノベーションも全部入っていると、そういう姿になっているというふうに私は理解しております。
○参考人(蓮見雄君) まず、再エネの分野で最も世界で整備が進んでいるヨーロッパにおいてさえ一定割合の原子力は使うと、使わざるを得ないということが前提になっています、まず。それが現実であります。
で、日本、原発をどうしていくかという問題は、原発だけの問題ではないんですね。他の代替エネルギー源をどうするかという問題であって、再生可能エネルギー一〇〇%というのは日本で直ちにできるか、できるかというと、できないと思います。
ヨーロッパの場合はエネルギー市場統合というのが進んでおりますし、さらに、いろんな各国、エネルギーミックス違うんですけれども、場合によってはそれを相互融通して助け合うというシステムができているんですね。だから、多少再エネで問題があったとしても何とかしのげるんです。で、日本はそういう意味では孤立しているわけですから、しかも発送電分離も日本ではまだ始まったばかりです。そのヨーロッパでさえ、今後再エネをもっと使うためには、エネルギーシステム統合ということで、実は水素も含めて、再エネ由来の水素も含めてエネルギーシステム全体を統合するようなシステムをつくらない限りは難しいと言っているわけです。日本ではそれは、とても残念ですけれども、すぐにはできません。なので、日本の条件でどれぐらいできるのかというのを考えて、そのパッケージで原発も再エネも、どちらがいいとか悪いではなくて、同じテーブルの上でやっぱり議論せざるを得ないんだろうと思います。
○山添拓君 ありがとうございました。
私は、やっぱり福島第一原発事故を経験した国で、その国民的な理解あるいは受け止めということも含めて、原発の再稼働についてはやっぱりやるべきではないという考えを持っておりますが、御意見としてはありがとうございました。
畔蒜参考人に伺います。
ウクライナ侵略の背景について御説明いただきました。NATOの東方拡大についても言及がありましたが、それが仮に脅威であったとしても、軍事力、武力行使によって解決しようとすることは許されないと、それが国連憲章に基づく平和秩序というものであろうと思います。ですから、今、西側対ロシアというよりも、国連憲章を守るのか否かということが問われていると思います。
これまで、アメリカや旧ソ連、ロシアが行った侵略行為に対する国連の非難決議が採択されたのは今度で六例目になるようですけれども、百四十か国を超えて賛成をしたというのは初めてだと伺います。様々ロシアとの経済的な関係の濃淡はあっても、非同盟、中立国を中心に賛成に回っています。その国際関係の以前と比べても変化があるということの意義についてどのように認識されているでしょうか。
○参考人(畔蒜泰助君) ありがとうございます。
確かに、今回のロシアによるウクライナへの軍事侵攻は、これはまさしく国連憲章の違反であり、そういう意味で、これ、中国やインド、ほか、ロシアに対して一定の立場の理解を示す国ももちろんあるんですけれども、おっしゃるとおり、大半の国がそれはロシアに対して非難に回っているということで、これはロシアにとってみたら恐らく事実上国際的な立場を、まあロシアは国連の安保理の常任理事国でもあるということですので、そういう意味では、まさに第二次大戦後の世界秩序が要するに国連の安保理の常任理事国による行為によって大きく揺らいでいるというのが今我々が目の当たりにしている出来事なんだろうと、そういうふうに思います。
で、問題は、まずこの問題はどういう形で解決するのか、その後、ロシアを国際社会の中で、今後どういう形で、まあ裁くということができるのかどうなのか分からないですけれども、最終的には、どういう形で位置付け、恐らくそれは最終的には向き合っていくという形が当然必要だと思うんですけれども、そのプロセス、まだその絵は見えていない。取りあえず、まず停戦をしてという、和平をしてというところ、そこからなんだと思います。
○山添拓君 ありがとうございました。