2022年・第208通常国会
- 2022年5月10日
- 法務委員会
法務委員会で、民事訴訟法改正案の期間限定裁判について質問しました。
- 要約
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- 法務委員会で、民事訴訟法改正案に盛り込まれている「期間限定裁判」について質問。 当事者が主張立証を尽くすことより期間を優先するもので、裁判の本質を歪めるものだと批判しました。
○山添拓君 日本共産党の山添拓です。
法定審理期間訴訟手続、いわゆる期間限定裁判について伺います。
民事訴訟の審理期間、主張、立証の期間を六か月に限定しようというものであります。民事訴訟法は、裁判所は訴訟が裁判をするのに熟したときに判決をすると規定しています。当事者が主張と立証を尽くして判決に至るのは近代訴訟の原則だからです。期間ありきで判決する本法案は、裁判の本質を変えてしまうのではないかと批判もされています。
この発端は、二〇一九年四月、民事訴訟のIT化について検討していた商事法務研究会に最高裁が提案したものであります。当時の提案としては、例えば、期日は原則として三回に限ると、あるいは、書面を提出しますが、その書面については文字数や行数や枚数についても限定する必要があるんじゃないかと、証人尋問は一人以下とすると、こういう提案もされていました。
資料もお配りしておりますが、報告書の段階では、期間は六か月、主張書面は原則三通、証拠は即時に取調べできるもの、書面ですね、に限ると、そういう提案になっており、これは期日の回数、主張や証拠の制限まで盛り込むものでありました。
最高裁に伺います。
最高裁としては、裁判にどのぐらいの期間を要するか予測ができるようにするためには、本当はこういう制度をつくりたいということなんですか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) 公益社団法人商事法務研究会が設置した民事裁判等IT化研究会におきまして、最初に、最高裁の出席者から検討のたたき台として、当時電子手続に特化した訴訟手続の特則という形で提案をさせていただいたというところがございます。
この内容につきましては、当事者が同意して、裁判所が相当と認める場合を要件として、主張、証拠関係等について一定の限定を付し、一定の期日回数又は期間の中で争点中心の集中かつ充実した審理を実現することによって、紛争解決の実効性を担保しつつ紛争を迅速に解決する手続を設けることについてどのように考えるかという提案をしたものでございます。
あくまでもたたき台ということで提案をしたということでございまして、このような提案がされましたのは、電子化される手続の下で、ウエブ会議等のITツールの特性を生かすことによって争点中心の集中かつ充実した審理を実現して、もって紛争解決の実効性を担保しつつ紛争を迅速に解決するとともに、解決に要する期間について当事者の予測可能性を高める特別な手続を創設することが考えられるのではないかといった問題意識から提案したものでございます。
○山添拓君 私は、期間を優先する余り、主張や立証を制限するような提案を最高裁が行うということ自体、司法としての姿勢が問われると思うんです。
それで、今、電子手続に特化した訴訟手続の特則という提案だったと説明がありました。当時既に、一体何をもって電子手続に特化したというのか分からないと、電子的なものを前提とすることで今回の研究会に持ち出すために関連付けようとして出したのではないかと委員から批判もされていました。IT化とは直接関係のない提案をこのとき最高裁は行ったわけです。最高裁自身も、そういうふうに委員から批判を受けて、いや、便宜上、電子手続に特化した特則という名前にしただけだというふうに説明もされているんですね。IT化に便乗した提案ではありませんか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
そのような御意見もあったように記憶しております。今、済みません、手元に資料がございませんので、記憶はしておるところですけれども、最高裁としては、何というか、IT化に便乗してこのような制度を提案したということではございません。
○山添拓君 法制審の座長でもある山本和彦氏は、民事訴訟の在り方を改める必要性として、裁判所の負担軽減について著書の中で繰り返し述べておられます。
最高裁も、裁判所の負担軽減を念頭に置いてこういう提案をされていたのですか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) お答えいたします。
裁判所としましては、審理期間に関する利用者のニーズですとか期待に応えるという観点から、一つのたたき台として提案をしたところでございまして、委員御指摘のような目的で提案をしたものではございません。
○山添拓君 期日の回数を制限したり、主張書面や証拠の数あるいは内容を制限することは、事実としては、結果的には裁判所の負担軽減にもなると思うんです。しかし、本来それは裁判所の人的、物的体制の拡充によって解消するべき問題です。
そもそも、裁判に時間を要することについて最高裁はどう考えているのかと。司法制度改革審議会の当時、最高裁は、「二十一世紀の司法制度を考える」という見解を公表しています。今も最高裁のホームページにあります。少し長いですが紹介いたします。裁判が遅いということは、いつの時代にも、あらゆる国の司法制度について言われ続けてきた課題であり、今日でもほとんど全ての国がこの問題を抱えている、裁判は双方の言い分を聞くことが本質であり、また、法的紛争を最終的に解決する場として、証拠に基づいて事実を認定し、法的に判断するという、正確性、厳密性に重点が置かれた手続が定められている、その意味で、裁判による問題の解決にはその性質上一定の時間を要するものであり、行政や経済活動における解決よりも時間が掛かることは、ある程度やむを得ない面があると記しています。
最高裁、この考え方は今も変わりはありませんか。
○最高裁判所長官代理者(小野寺真也君) お答えいたします。
今委員の方から御指摘をいただきましたのは、まさに御指摘のとおり、「二十一世紀の司法制度を考える」という最高裁判所が当時御説明をした内容でございまして、基本的には、裁判所として同じように考えているところでございます。
○山添拓君 予測が付かないからといって期間を最優先にすることは裁判の本質に反することになると思いますが、いかがですか。
○最高裁判所長官代理者(門田友昌君) 期間を制限することが先にありきということでございますといかがなものかというところはあるかと思いますけれども、最終的に今回法律案として提案されているものを拝見しますと、あくまでもこれは当事者双方が合意をしてこの手続でということを言われているものでありますので、そういう場合であれば、裁判所としてはきちんとそれに応えていく必要があるかなというふうに考えているところでございます。
○山添拓君 これは大臣にも伺います。
裁判は双方の言い分を聞くことが本質、正確性、厳密性に重点が置かれた手続と、ですから、時間が掛かることはある程度やむを得ないと、最高裁今もその認識変わらないと答弁がありました。私もそれはそのとおりだと思うんです。
しかし、期間限定裁判の制度は、主張、立証あるいは判決までの期間を法定するものです。当事者が主張、立証を尽くすことより、期間を法律で定めて優先する制度と言えると思うんです、期間ありき、これは裁判の本質に反すると思いますが、いかがでしょうか。
○国務大臣(古川禎久君) 法定審理期間訴訟手続におきましては、主として、専門家である訴訟代理人が法定された審理期間内に必要な主張及び立証することができると適切に判断した事件について利用されることが予定されております。
また、一旦この手続が開始された後も当事者の一方は相手方の同意を要することなく通常の手続での審理を求めることができ、この手続の中で主張、立証を尽くすことができない場合には、訴訟代理人において通常の手続での審理を求める旨の判断が適切にされるものと考えられます。
さらに、裁判所におきましても、攻撃防御の提出期間内に主張、立証が尽くされることは難しいと判断した場合には、この手続による判決をするのではなく、通常の手続により審理及び裁判をする旨の決定がされ、その中で追加的な主張、立証がされることが想定されております。
したがいまして、法定審理期間訴訟手続の創設によっても、当事者が主張、立証を尽くすことが大前提であることに変わりはありませんで、主張、立証よりも期間を優先することになるのではとの御懸念には及ばないというふうに認識をいたしております。
○山添拓君 何か通常手続に移行できる手続になっているので余り懸念はないとおっしゃるんですけれども、そんなにそこを強調されるなら、そもそも期間限定するような制度にしなければいいと思うんですね。早く終わるものは今でも早く終わっています。時間が掛かるものはやっぱり時間は掛かるんですよね。
法案について伺いますけれども、これは今答弁ありましたとおり、当事者双方が同意した上で期間限定裁判を申し出た場合に、裁判所は原則としてその決定をするものとしています。この申出はいつでもできることとされていますので、第一回期日の前でも、極端に言えば訴状提出と同時でもできることになります。
しかし、そういう段階ですね、民事裁判では被告が答弁書を出した時点では必ずしも争点がはっきりしているとは限りません。答弁書には請求の棄却を求めると書かれているだけで、争いのない事実と争いのある事実、被告がどういう主張をするのか、証拠はどのようにあるのか、その後に分かってくることも珍しくありません。争点が分かっていない段階でも裁判所は期間限定裁判の決定をすることがあり得るんでしょうか。
○政府参考人(金子修君) 訴状提出の段階で申出がある、申出をするということは特段禁じられませんが、その段階では争点が分からないというような事案においてはなかなか利用するのは難しいのではないかというふうに思っています。
ただ、訴状、裁判に至る前にかなり当事者間でやり取りがされるケースというものも世の中にはあるわけで、そのような場合について、例えばこの手続を利用したいというときに相手方が応じるということであれば、そういう場合に御利用いただくということになるんだろうと思います。争点がはっきりしないケースにまでこの手続を利用するというようなことを最初から想定しているものではございません。
○山添拓君 やり取りされるケースが事前、事前のやり取りがあるケースを想定しているということでありました。
その上で、攻撃防御方法、判決の基礎となる訴訟資料である主張や証拠の提出は、決定から五か月以内に出すべきだとされています。六か月以内に結審、その後一か月で判決です。裁判所にとっても一か月ぐらいで判決が書ける事件だということを見極めなければならないと思うんですね。
事前にどのようなやり取りがあったとしても、そこまで裁判所が見極められるのかと。やっぱり見極めるためには当事者双方の主張や立証、その方針がある程度出そろうまで決定はできない、争点がある程度裁判所として整理付くまでこういう決定できないんじゃないかと思いますが、いかがでしょうか。
○政府参考人(金子修君) そういうなかなか見極めが難しいケースというのはあろうかと思います。
ある程度争点整理というか、双方の主張が出た段階で、じゃ、この後五か月で主張を出し尽くしましょうというような利用の仕方もあろうかと思いまして、ここは途中の段階ではいろいろ議論があったんですけれども、申立ての時期につきましては制限をしていないというのも、そういう場合があるんではないかということを踏まえたものでございます。
○山添拓君 普通はそうだと思うんですよ。争点整理がいつまでにできるかというのは、提訴して被告の対応を見てみなければ分かりません。幾ら事前の交渉があったとしても、裁判所が直ちに争点の全てを把握できるとは限らないと思います。ですから、期間限定裁判の決定に至るまでにどのぐらいの期日と期間を重ねるかは分からないということです。
そうなりますと、これ大臣に最後伺いたいんですが、提訴の段階で期間の予測というのはやっぱりできないんじゃないでしょうか。期間限定裁判に入るタイミングを予測することができない以上は、提訴の段階で判決までの期間を予測することはできないのではないかと思いますが、いかがですか。
○委員長(矢倉克夫君) 時間過ぎております。
○国務大臣(古川禎久君) この法案は、先ほど来質疑の中でも御答弁申し上げてまいりましたが、やはりこの裁判をより国民に利用しやすいものにしたいという考えの下にアンケートを取りますと、裁判のこの期間の予想が困難であるという。したがって、この裁判制度の利用にちゅうちょしてしまうということ、これが一つの要因と考えられましたことから、その予見可能性を高めるべく、このような制度の創設を考えたということでございます。
そのときに、申しましたように、基本、当事者同士がこの制度を利用してこの法定の期間内で終わらせようということをまず双方が、当事者双方が合意をした場合に基本的にこの制度の利用というものが始まるわけでございまして、その意味では、あくまでも当事者のこの考えを優先して組み立てられた制度でありますので、御懸念には及ばないというふうに考えております。
○委員長(矢倉克夫君) 時間が過ぎております。
○山添拓君 時間ですので終わりますけれども、相手が応じるかどうかも分からない、いつから六か月が開始するかも分からない、これでは予測は立たないと。これは裁判の本質に照らして予測などできないということにほかならないと思います。
続きの質問は次回に譲りたいと思います。ありがとうございました。